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第9章 王都の冬
第257話【閑話】決められていく私のライフプラン?
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私がミルト様のお誘いを受け入れる意思を示すとミルト様は心の底から安堵したような表情を見せたのでした。
「あなたが私の勧誘を受け入れてくれてよかったわ。
もし断られていたら、私、伯父様にどやしつけられるところでしたの。」
「当たり前だ、この馬鹿者!
対象者の受験する意思も確認せずに試験を受けさせた挙句に辞退されたなんてことになってみろ、登用試験課の連中が反乱を起こすぞ。」
侯爵様のお話しでは、私がやらされた試験問題は本来なら今年の七の月の下旬に実施される高等文官試験のために用意されたものとのことです。
ミルト様が無理を言って私のために使わせたようです。
ちなみにこの試験問題、私が目を通してしまったため、もう使い物にならないそうです。受験問題の漏洩防止のためらしいです。
なんか凄く申し訳ない気がします。
この試験問題を作るため、登用試験課の方が三ヶ月を掛けたみたいです。
また作り直すのですが、今度は一ヶ月で作らないと木版刷りが間に合わないそうです。
課を上げて連日徹夜仕事になると侯爵様はお嘆きです。
だから、最初あんなに不機嫌だったのですね。
でも、私は悪くないですよね、どちらかといえば私も被害者なのですから…。
「そもそも、私はたった一人のために臨時に試験をすると言うのが気に食わないのだ。
人事というのは常に公正でなければならない、高等文官試験は年一回と決まっているのだ。
試験を受けられなかったのならば、次の試験まで待つのが道理であろう。
それをたった一人のために臨時で行うなど、あからさまな情実人事ではないか。」
ああ、侯爵様は非常に公明正大な方なのだ。
試験問題のことだけではなく、そういう事情もあって私に対する態度が冷たかったのですね。
「でも、伯父様、リタさんって、在野で腐らせておくには勿体ない人材だと思いませんか?」
「馬鹿者、それとこれとは別問題であろう。物事にはけじめというものがあるだろうに。
まあ、確かにおまえがそういうのも分からぬではないがな。
最難問の帝国語の問題を難なく解いたのもさることながら、最初の算術の問題な。
百問一度も手が止まることなく淀みなく解いていったのには舌を巻いたぞ。
確率の問題なんか結構難問だったと思うのだがな、というかあれ普通暗算では解けないぞ。
いったいどういう頭をしているんだ。
人事局の立場で言えば色々と特例を飲まされた挙句、おまえ専属というのが納得できないな。
本来なら、主計か理財で馬車馬のように働いてもらいたいものなのだが。」
私の評価そのものは結構高いようですね。
しかし、危ないところでした、ミルトさんが事前に根回ししてなければ、主計とか理財とか生き地獄に落とされるところでした。
「そうそう、リタさん、紹介していなかったわね。
こちら、グナーデ侯爵、知っているでしょう王都の近くで一番大きな街、そこの領主さんなの。
私の母のお兄様でもあるわ、私の伯父様なのよ。
今は、人事局の登用試験課長をして頂いているけど、陰の人事局長といわれている実力者よ。
今後何かと相談に乗ってもらうことも多いかと思うから覚えておいて。」
「陰の人事局長とは人聞きの悪い、私は一介の課長に過ぎないぞ。
人事局は公正なんだ、序列を乱すようなことはないから誤解しないでくれ。
まあ、ミルトの下が嫌になったらいくらでも相談してくれ、主計か理財なら口を利くから。」
侯爵様、今さらっと怖いことを言いましたね。
その二つ以外は口を利いてくれないと言うことですか…。
**********
私は今後の打ち合わせがしたいというミルト様に連れられて、王宮の奥の宮にあるミルト様の私室に通された。
「あっ、リタさん、試験どうだった。遅いから心配しちゃったよ。
ミルトさんと一緒にここへ来るということは受かったんだよね、おめでとー!」
リビングルームに入るとターニャちゃんが声をかけてきた。
何でこの子は当たり前のように王宮にいるのだろうか?
「リタさん、ターニャちゃんたらあなたのことをすごく心配していたのよ。
リタさんのお気に入りの職場を潰してしまったって責任を感じてるみたいだったの。
別にターニャちゃんは何一つ悪いことはしてないのにね。
アロガンツ家が取り潰されることになった事件の半分ぐらいは関与していたからかしら。」
半分くらいって…、本当にこの子は何をしたのだろうか、というより何者なの?
戸惑うわたしにソファーへ座るように命じたミルト様は、これからの仕事について話し始めた。
「あなたは、明日付けで私の専属女官になるわ。
部下はいないけど女官長扱いで課長相等となります。
良かったわね給金が今までよりも増えるわよ。
やってもらう仕事はおいおい説明するけど、私の秘書のようなものだと思っておいて。
侍女がやるような身の回りの世話は要らないわ。」
なんと基本給の金貨十枚に加え課長職の役職手当が金貨五枚支給され、給金は月金貨十五枚にもなるらしい。
父の給金のいったい何倍だろう、今までだって、若い娘としては破格の給金だったのに。
仕事の内容は、ざっくり言ってミルト様の仕事の根回し、下調べ、スケジュール調整とかが中心で王宮の中の他の部署に対する折衝が多いらしい。もちろん、それに伴う事務処理も私の仕事のようだ。
「あなたには、明日から二年間で一通りの仕事を覚えるとともに王宮内に人脈を築いてもらうわ。
悪いけど結婚はそのあとね、ただ、その間に殿方を紹介するから良いお相手を選んでおいてね。
二年過ぎたら、とっとと結婚して、とっとと子供を生んで戻ってきてもらうわ。」
何だろう、私のライフプランがミルト様に決められていく気がする。
いったい二年というのはどういうことだろう?
よくよく話を伺うと、ミルト様が皇后様になられるまでの時間から逆算したものらしい。
現在皇太子妃であるミルト様には所管する事務がないそうだ、一方で皇后様には多数の所管事務があるらしい。
現在の国王陛下は元気なうちに皇太子様に王位を譲り楽隠居を決め込みたいらしい。
ただ、国王様はまだお若いのであと十年は辞めることができないだろうとのことでした。
とすると、皇太子様が王様になるのは早くて十年後ぐらい、その時当然ミルト様は皇后様になられる。
王族の中の話し合いでは、五年後くらいから皇后様の仕事を徐々にミルト様に移していく計画だそうです。
ということで、五年後くらいから徐々に仕事が忙しくなるので、その前にとっとと子供を生んで職場復帰しろと言うことらしいです。
子作り一年、産休二年と仮定すると、これから二年で王宮内で確固として人脈を築く必要があるそうです。
皇后様からミルト様に仕事が移管されるようになると女官も増やされるそうで、どうやら私は名実ともに女官長になるみたいです。
「そうそう、言い忘れていたわ。
皇后には、その下で働く独立の部署が設けられるの皇后府という名称なのだけどね。
当然、その長にはあなたに就いてもらうつもりなので、心構えをよろしくね。
ところで、皇后府の長は職制上、次官相等になっているのよ。
知っていると思うけど局長以上の役職に付くためには爵位がいるの。
皇后府の長は次官相等だから子爵位が必要ね。
おめでとう、十年後にはあなたは子爵よ。
それも、宮廷貴族では初の平民出身の女性子爵になるわね。
将来フェアメーゲン氏と並んで歴史に名が記されるわよ。」
まさに青天の霹靂でした、ミルト様は話の最後で特大の雷を落としました。
絶対に言い忘れではないですよね、わざと最後まで言わなかったのですよね。
貴族になるなんて聞いていないですよ。
嫌ですよ貴族の当主なんて、しがらみとか、しきたりとかで面倒臭いだけじゃないですか。
しかし、小心者の私には口に出して嫌ですとは言えないのです。
ミルトさんは、「いきなり子爵位は無理だからその前に適当な局長になってもらって男爵にしとかないとね」とか独り言を呟いている。
どうやらミルト様の中では私が皇后府の長になるのは既定路線みたいです、逃がさないわよという目をしていますもの。
「良かったね、リタさん!お貴族様になれるよ!」
私の心も知らずに、ターニャちゃんは能天気にそう言いました。
「あなたが私の勧誘を受け入れてくれてよかったわ。
もし断られていたら、私、伯父様にどやしつけられるところでしたの。」
「当たり前だ、この馬鹿者!
対象者の受験する意思も確認せずに試験を受けさせた挙句に辞退されたなんてことになってみろ、登用試験課の連中が反乱を起こすぞ。」
侯爵様のお話しでは、私がやらされた試験問題は本来なら今年の七の月の下旬に実施される高等文官試験のために用意されたものとのことです。
ミルト様が無理を言って私のために使わせたようです。
ちなみにこの試験問題、私が目を通してしまったため、もう使い物にならないそうです。受験問題の漏洩防止のためらしいです。
なんか凄く申し訳ない気がします。
この試験問題を作るため、登用試験課の方が三ヶ月を掛けたみたいです。
また作り直すのですが、今度は一ヶ月で作らないと木版刷りが間に合わないそうです。
課を上げて連日徹夜仕事になると侯爵様はお嘆きです。
だから、最初あんなに不機嫌だったのですね。
でも、私は悪くないですよね、どちらかといえば私も被害者なのですから…。
「そもそも、私はたった一人のために臨時に試験をすると言うのが気に食わないのだ。
人事というのは常に公正でなければならない、高等文官試験は年一回と決まっているのだ。
試験を受けられなかったのならば、次の試験まで待つのが道理であろう。
それをたった一人のために臨時で行うなど、あからさまな情実人事ではないか。」
ああ、侯爵様は非常に公明正大な方なのだ。
試験問題のことだけではなく、そういう事情もあって私に対する態度が冷たかったのですね。
「でも、伯父様、リタさんって、在野で腐らせておくには勿体ない人材だと思いませんか?」
「馬鹿者、それとこれとは別問題であろう。物事にはけじめというものがあるだろうに。
まあ、確かにおまえがそういうのも分からぬではないがな。
最難問の帝国語の問題を難なく解いたのもさることながら、最初の算術の問題な。
百問一度も手が止まることなく淀みなく解いていったのには舌を巻いたぞ。
確率の問題なんか結構難問だったと思うのだがな、というかあれ普通暗算では解けないぞ。
いったいどういう頭をしているんだ。
人事局の立場で言えば色々と特例を飲まされた挙句、おまえ専属というのが納得できないな。
本来なら、主計か理財で馬車馬のように働いてもらいたいものなのだが。」
私の評価そのものは結構高いようですね。
しかし、危ないところでした、ミルトさんが事前に根回ししてなければ、主計とか理財とか生き地獄に落とされるところでした。
「そうそう、リタさん、紹介していなかったわね。
こちら、グナーデ侯爵、知っているでしょう王都の近くで一番大きな街、そこの領主さんなの。
私の母のお兄様でもあるわ、私の伯父様なのよ。
今は、人事局の登用試験課長をして頂いているけど、陰の人事局長といわれている実力者よ。
今後何かと相談に乗ってもらうことも多いかと思うから覚えておいて。」
「陰の人事局長とは人聞きの悪い、私は一介の課長に過ぎないぞ。
人事局は公正なんだ、序列を乱すようなことはないから誤解しないでくれ。
まあ、ミルトの下が嫌になったらいくらでも相談してくれ、主計か理財なら口を利くから。」
侯爵様、今さらっと怖いことを言いましたね。
その二つ以外は口を利いてくれないと言うことですか…。
**********
私は今後の打ち合わせがしたいというミルト様に連れられて、王宮の奥の宮にあるミルト様の私室に通された。
「あっ、リタさん、試験どうだった。遅いから心配しちゃったよ。
ミルトさんと一緒にここへ来るということは受かったんだよね、おめでとー!」
リビングルームに入るとターニャちゃんが声をかけてきた。
何でこの子は当たり前のように王宮にいるのだろうか?
「リタさん、ターニャちゃんたらあなたのことをすごく心配していたのよ。
リタさんのお気に入りの職場を潰してしまったって責任を感じてるみたいだったの。
別にターニャちゃんは何一つ悪いことはしてないのにね。
アロガンツ家が取り潰されることになった事件の半分ぐらいは関与していたからかしら。」
半分くらいって…、本当にこの子は何をしたのだろうか、というより何者なの?
戸惑うわたしにソファーへ座るように命じたミルト様は、これからの仕事について話し始めた。
「あなたは、明日付けで私の専属女官になるわ。
部下はいないけど女官長扱いで課長相等となります。
良かったわね給金が今までよりも増えるわよ。
やってもらう仕事はおいおい説明するけど、私の秘書のようなものだと思っておいて。
侍女がやるような身の回りの世話は要らないわ。」
なんと基本給の金貨十枚に加え課長職の役職手当が金貨五枚支給され、給金は月金貨十五枚にもなるらしい。
父の給金のいったい何倍だろう、今までだって、若い娘としては破格の給金だったのに。
仕事の内容は、ざっくり言ってミルト様の仕事の根回し、下調べ、スケジュール調整とかが中心で王宮の中の他の部署に対する折衝が多いらしい。もちろん、それに伴う事務処理も私の仕事のようだ。
「あなたには、明日から二年間で一通りの仕事を覚えるとともに王宮内に人脈を築いてもらうわ。
悪いけど結婚はそのあとね、ただ、その間に殿方を紹介するから良いお相手を選んでおいてね。
二年過ぎたら、とっとと結婚して、とっとと子供を生んで戻ってきてもらうわ。」
何だろう、私のライフプランがミルト様に決められていく気がする。
いったい二年というのはどういうことだろう?
よくよく話を伺うと、ミルト様が皇后様になられるまでの時間から逆算したものらしい。
現在皇太子妃であるミルト様には所管する事務がないそうだ、一方で皇后様には多数の所管事務があるらしい。
現在の国王陛下は元気なうちに皇太子様に王位を譲り楽隠居を決め込みたいらしい。
ただ、国王様はまだお若いのであと十年は辞めることができないだろうとのことでした。
とすると、皇太子様が王様になるのは早くて十年後ぐらい、その時当然ミルト様は皇后様になられる。
王族の中の話し合いでは、五年後くらいから皇后様の仕事を徐々にミルト様に移していく計画だそうです。
ということで、五年後くらいから徐々に仕事が忙しくなるので、その前にとっとと子供を生んで職場復帰しろと言うことらしいです。
子作り一年、産休二年と仮定すると、これから二年で王宮内で確固として人脈を築く必要があるそうです。
皇后様からミルト様に仕事が移管されるようになると女官も増やされるそうで、どうやら私は名実ともに女官長になるみたいです。
「そうそう、言い忘れていたわ。
皇后には、その下で働く独立の部署が設けられるの皇后府という名称なのだけどね。
当然、その長にはあなたに就いてもらうつもりなので、心構えをよろしくね。
ところで、皇后府の長は職制上、次官相等になっているのよ。
知っていると思うけど局長以上の役職に付くためには爵位がいるの。
皇后府の長は次官相等だから子爵位が必要ね。
おめでとう、十年後にはあなたは子爵よ。
それも、宮廷貴族では初の平民出身の女性子爵になるわね。
将来フェアメーゲン氏と並んで歴史に名が記されるわよ。」
まさに青天の霹靂でした、ミルト様は話の最後で特大の雷を落としました。
絶対に言い忘れではないですよね、わざと最後まで言わなかったのですよね。
貴族になるなんて聞いていないですよ。
嫌ですよ貴族の当主なんて、しがらみとか、しきたりとかで面倒臭いだけじゃないですか。
しかし、小心者の私には口に出して嫌ですとは言えないのです。
ミルトさんは、「いきなり子爵位は無理だからその前に適当な局長になってもらって男爵にしとかないとね」とか独り言を呟いている。
どうやらミルト様の中では私が皇后府の長になるのは既定路線みたいです、逃がさないわよという目をしていますもの。
「良かったね、リタさん!お貴族様になれるよ!」
私の心も知らずに、ターニャちゃんは能天気にそう言いました。
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