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第11章 王都、三度目の春
第280話 カモがネギを背負っていた
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「は?」
ミルトさんの勧誘を理解できないエフォールさんが、間抜けな声を漏らした。
「この国はいつでも優秀な人材を探していますの。
あなたのような優秀な人をあんな王子のお守りに付けておくのは人材の無駄遣いだわ。
この国の官吏は能力主義で平民も貴族も関係ないの。
ある一定以上の役職につけば貴族になれるわよ。
ちなみに私の後ろに立っている彼女、侍女の振りをしているけど私付きの女官長ですの。
彼女、今は平民ですけど数年後には男爵を叙爵する予定ですのよ。」
改めてミルトさんが勧誘の言葉を口にすると、今度はきちんと捉えたようで鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
「大変身に余るお言葉でございますが、なぜ私のような者にお声掛けを頂けたのでしょうか?」
「わが国では現在西大陸の国々との交易の拡大を計画していますの。
そのために西大陸の事情に詳しくて西大陸の言葉が話せる人材を探していたところなのよ。
そこへ今日、あなたが現れたということですの。
ノルヌーヴォ王国でいらないと言うのなら、私がいただこうかと思っていますの。
みすみす、断頭台に送られるのを見過ごす手はないわ。」
「断頭台?何のことでしょうか?」
質問に答えたミルトさんの言葉が理解できないようで、再びエフォールさんが尋ねる。
「あら、わからない?少しあなたの評価を下げないといけないかしら?
考えても見なさい、あなたは蟄居中のあの王子に逃亡を許したのよ。
そして、逃亡した王子は、他国へ『不法入国』した上、王族である私や娘に『不敬』を働いたの。
今回、こちらは不問に付しますが、報告を受けたそちらの宮廷はどう判断しますか。
他国まで行って国に恥をかかせたのですよ、必ず責任追求の声が上がると思いませんか。
本来はあの王子が全ての責を負うべきものですが、得てして王族に罪を問うことはしませんよね。
だいたい、側近の者が代わりに責任を取るのではないかしら、『監督不行届』ということで。
普通であれば免職と貴族籍の剥奪かしらね、でもあなたには剥奪する貴族籍はないでしょう。
しかも、あなたは優秀すぎて同期の貴族から疎まれているのでしょう。
そうなると行き着く先は一つでしょうが、西大陸では断頭台が一般的なのでしたよね。」
ええっと、ミルトさんの言うことを簡潔化するとエフォールさんが人身御供になると言うことかな?
どうも、エフォールさんにも思い当たる節があるようで顔を青くしている。
ミルトさんの単なる脅しじゃないんだ…、命の価値が軽いな、西大陸…。
「どう、少しは考えてくれる気になったかしら?
それとも、どうしてもノルヌーヴォ王国へ戻らないといけないの?
好い人でもいるのかしら?」
「いえ、そういうことではなく、このお誘いを受けると国を売ることになるのではないかと…。」
「あら、帰ったら死罪になるかもしれないのに見上げた忠誠心ですのね。」
そう言ってミルトさんは一瞬視線を後ろに控えるリタさんの方へ移した。
リタさんはそれに気付いたようだが知らん振りをしている。この人、忠誠心はないものね…。
ミルトさんは続けて言った。
「でも、そういう心配はしなくても良いわよ。
ノルヌーヴォ王国と敵対する積もりはないですし、あなたから機密情報を引き出す積もりもないですから。
こういうと失礼ですけど、わが国はノルヌーヴォ王国など歯牙にもかけていませんので。
あなたに期待するのは西大陸全体の情報よ、それにあなた貿易商の家の生まれなのだから多少は貿易実務の心得も有るでしょう。
繰り返しになるけど今求めている人材は西大陸との交易拡大に資する人材ですの。
ノルヌーヴォ王国で燻っているより、あなたの力をこの国で活かしてみませんか。」
ミルトさんの熱のこもった勧誘に少しその気になったのかエフォールさんが尋ねてきた。
「西大陸との交易拡大と申されますが、具体的にはどの程度をお考えなのですか。
その中で私はどのような役割を果たせばよろしいのでしょうか。」
「あなたはポルトまでどういう手段でやってきたの?」
「はい、最近就航したという初めて見た巨大な商船でポルトまで直通でやってきました。
私の記憶では、東大陸との交易はすべて帝国を通していたはずなのですが。
あの船の巨大さと航行能力の高さには驚かされました。」
「そうでしたか、なら話は早いわ。
その船が当王家、いえポルト公爵家の所有する最新の商船ですわ。
現在、その船よりも少し小さな商船二隻の就航準備を行っているところですの。
少し小さいと言っても従来の商船よりもはるかに大型の船ですわ。
あなたに期待することは多岐に渡りますのよ。
その三隻をどの港との交易に配置するかを始めとして、交易品目の選定、国交のない国との国交樹立の準備作業などですわ。
当然西大陸に折衝に行ってもらうことも考えていますわ。」
「それを私にお任せいただけると?」
「さすがに、すぐには無理だと思いますわ。
もし、私の勧誘を受けてくださると言うのであれば、とりあえずポルト公爵の直属として働いてもらう積もりですの。
ポルト公爵は私の実の父ですが、平民であろうと分け隔てなく公正に評価する人物ですわ。
まずは父の下で手腕を発揮してください、働きに見合ったポストを用意することを約束しましょう。
もちろん、あなたがやりたい仕事があればどんどん父に提案してください。
それも評価されますので。」
「わかりました、勿体ないお言葉を頂戴して心より感謝いたします。
不肖の身でございますが、誠心誠意お仕えしたいと思いますのでよろしくお願いします。」
話が上手くまとまったみたいだね、ミルトさん良い人材を確保できたみたいでホクホク顔だ。
**********
それから、小一時間後、
「公使、お忙しいところを急に呼びたてて申し訳ないわね。」
「いえ、皇太子妃殿下のお召しとあらば、何に変えてもすぐに参上したします。」
「それは大儀です。
それで、先ほどトレナール殿下の所業を全て不問とすると申し上げましたが、この者の話を聞いていて気が変わりました。
トレナール殿下の行った『不法入国』及び『王族に対する不敬行為』の責をこの者に負わせ、この者を終身刑に処する事といたします。」
いきなりのミルトさんの発言に公使は戸惑ったようだけど、慌てて抗議を口にした。
「皇太子妃殿下、それでは話が違います。
この者を罪に問う必要があるのですか。」
「公使、落ち着いて考えてください。
この者、この年で儚くなるには惜しい人物だと思いませんか?」
食って掛かる公使をミルトさんがそう宥めると、公使も思い至ることがあったようで落ち着きを取り戻した。
「皇太子妃殿下の特別なご配慮に感謝いたします。
確かに、その点に思い至らなかったのは私の配慮が不足しておりました。
そのように取り計らって頂けますと、この者の身の安全も守られますし、形式の上では我が国が借りを作らないで済むことになります。」
こうして、公使はミルトさんの提案を受け入れることになった。
終身刑というのも建て前だと気付いたみたい。
そもそも、この国では有罪、無罪の判断から量刑まで裁判所が決めることであって、ミルトさんにその権限は全くないものね。
ミルトさんの勧誘を理解できないエフォールさんが、間抜けな声を漏らした。
「この国はいつでも優秀な人材を探していますの。
あなたのような優秀な人をあんな王子のお守りに付けておくのは人材の無駄遣いだわ。
この国の官吏は能力主義で平民も貴族も関係ないの。
ある一定以上の役職につけば貴族になれるわよ。
ちなみに私の後ろに立っている彼女、侍女の振りをしているけど私付きの女官長ですの。
彼女、今は平民ですけど数年後には男爵を叙爵する予定ですのよ。」
改めてミルトさんが勧誘の言葉を口にすると、今度はきちんと捉えたようで鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
「大変身に余るお言葉でございますが、なぜ私のような者にお声掛けを頂けたのでしょうか?」
「わが国では現在西大陸の国々との交易の拡大を計画していますの。
そのために西大陸の事情に詳しくて西大陸の言葉が話せる人材を探していたところなのよ。
そこへ今日、あなたが現れたということですの。
ノルヌーヴォ王国でいらないと言うのなら、私がいただこうかと思っていますの。
みすみす、断頭台に送られるのを見過ごす手はないわ。」
「断頭台?何のことでしょうか?」
質問に答えたミルトさんの言葉が理解できないようで、再びエフォールさんが尋ねる。
「あら、わからない?少しあなたの評価を下げないといけないかしら?
考えても見なさい、あなたは蟄居中のあの王子に逃亡を許したのよ。
そして、逃亡した王子は、他国へ『不法入国』した上、王族である私や娘に『不敬』を働いたの。
今回、こちらは不問に付しますが、報告を受けたそちらの宮廷はどう判断しますか。
他国まで行って国に恥をかかせたのですよ、必ず責任追求の声が上がると思いませんか。
本来はあの王子が全ての責を負うべきものですが、得てして王族に罪を問うことはしませんよね。
だいたい、側近の者が代わりに責任を取るのではないかしら、『監督不行届』ということで。
普通であれば免職と貴族籍の剥奪かしらね、でもあなたには剥奪する貴族籍はないでしょう。
しかも、あなたは優秀すぎて同期の貴族から疎まれているのでしょう。
そうなると行き着く先は一つでしょうが、西大陸では断頭台が一般的なのでしたよね。」
ええっと、ミルトさんの言うことを簡潔化するとエフォールさんが人身御供になると言うことかな?
どうも、エフォールさんにも思い当たる節があるようで顔を青くしている。
ミルトさんの単なる脅しじゃないんだ…、命の価値が軽いな、西大陸…。
「どう、少しは考えてくれる気になったかしら?
それとも、どうしてもノルヌーヴォ王国へ戻らないといけないの?
好い人でもいるのかしら?」
「いえ、そういうことではなく、このお誘いを受けると国を売ることになるのではないかと…。」
「あら、帰ったら死罪になるかもしれないのに見上げた忠誠心ですのね。」
そう言ってミルトさんは一瞬視線を後ろに控えるリタさんの方へ移した。
リタさんはそれに気付いたようだが知らん振りをしている。この人、忠誠心はないものね…。
ミルトさんは続けて言った。
「でも、そういう心配はしなくても良いわよ。
ノルヌーヴォ王国と敵対する積もりはないですし、あなたから機密情報を引き出す積もりもないですから。
こういうと失礼ですけど、わが国はノルヌーヴォ王国など歯牙にもかけていませんので。
あなたに期待するのは西大陸全体の情報よ、それにあなた貿易商の家の生まれなのだから多少は貿易実務の心得も有るでしょう。
繰り返しになるけど今求めている人材は西大陸との交易拡大に資する人材ですの。
ノルヌーヴォ王国で燻っているより、あなたの力をこの国で活かしてみませんか。」
ミルトさんの熱のこもった勧誘に少しその気になったのかエフォールさんが尋ねてきた。
「西大陸との交易拡大と申されますが、具体的にはどの程度をお考えなのですか。
その中で私はどのような役割を果たせばよろしいのでしょうか。」
「あなたはポルトまでどういう手段でやってきたの?」
「はい、最近就航したという初めて見た巨大な商船でポルトまで直通でやってきました。
私の記憶では、東大陸との交易はすべて帝国を通していたはずなのですが。
あの船の巨大さと航行能力の高さには驚かされました。」
「そうでしたか、なら話は早いわ。
その船が当王家、いえポルト公爵家の所有する最新の商船ですわ。
現在、その船よりも少し小さな商船二隻の就航準備を行っているところですの。
少し小さいと言っても従来の商船よりもはるかに大型の船ですわ。
あなたに期待することは多岐に渡りますのよ。
その三隻をどの港との交易に配置するかを始めとして、交易品目の選定、国交のない国との国交樹立の準備作業などですわ。
当然西大陸に折衝に行ってもらうことも考えていますわ。」
「それを私にお任せいただけると?」
「さすがに、すぐには無理だと思いますわ。
もし、私の勧誘を受けてくださると言うのであれば、とりあえずポルト公爵の直属として働いてもらう積もりですの。
ポルト公爵は私の実の父ですが、平民であろうと分け隔てなく公正に評価する人物ですわ。
まずは父の下で手腕を発揮してください、働きに見合ったポストを用意することを約束しましょう。
もちろん、あなたがやりたい仕事があればどんどん父に提案してください。
それも評価されますので。」
「わかりました、勿体ないお言葉を頂戴して心より感謝いたします。
不肖の身でございますが、誠心誠意お仕えしたいと思いますのでよろしくお願いします。」
話が上手くまとまったみたいだね、ミルトさん良い人材を確保できたみたいでホクホク顔だ。
**********
それから、小一時間後、
「公使、お忙しいところを急に呼びたてて申し訳ないわね。」
「いえ、皇太子妃殿下のお召しとあらば、何に変えてもすぐに参上したします。」
「それは大儀です。
それで、先ほどトレナール殿下の所業を全て不問とすると申し上げましたが、この者の話を聞いていて気が変わりました。
トレナール殿下の行った『不法入国』及び『王族に対する不敬行為』の責をこの者に負わせ、この者を終身刑に処する事といたします。」
いきなりのミルトさんの発言に公使は戸惑ったようだけど、慌てて抗議を口にした。
「皇太子妃殿下、それでは話が違います。
この者を罪に問う必要があるのですか。」
「公使、落ち着いて考えてください。
この者、この年で儚くなるには惜しい人物だと思いませんか?」
食って掛かる公使をミルトさんがそう宥めると、公使も思い至ることがあったようで落ち着きを取り戻した。
「皇太子妃殿下の特別なご配慮に感謝いたします。
確かに、その点に思い至らなかったのは私の配慮が不足しておりました。
そのように取り計らって頂けますと、この者の身の安全も守られますし、形式の上では我が国が借りを作らないで済むことになります。」
こうして、公使はミルトさんの提案を受け入れることになった。
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