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最終章 それぞれの旅路
第481話 傷が浅いうち諦めれば良いものを…
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さて、コルテス王が私に謝罪をしたことから、これから損害賠償と国交の交渉に入ります。
今後の交渉はマゼランの王宮に場所を移して行うことになりました。
私達も陸に上がりたいですからね。
ケーニギン・フローラを接岸させるために岸壁を一ヶ所空けてもらいました。
護衛艦隊はそのまま沖合いに停泊して、乗組員は少人数ずつボートで上陸して交代で休息を取ります。
ケーニギン・フローラは船乗りと護衛の兵が数人残りますが、それとは別に特別な護衛が付いています。
そう、ターニャちゃんがおチビちゃんと呼ぶ中位精霊達です。
ターニャちゃんは、光のおチビちゃんに近付く不審者がいれば問答無用で眠らすことを、水のおチビちゃんに搭乗者に負傷者が出れば癒しを施すことをお願いしていました。
更に風のおチビちゃんには船に向かってマスケットを撃ちかける者がいれば銃弾を船にあてないようにする事を頼んでいたのです。
ターニャちゃんはコルテス王の謝罪を鵜呑みにはしていません。それは私もですが……。
というのも、ターニャちゃんはあの晩の国王と宰相の会話を盗聴していたからです。
**********
ターニャちゃんによれば、次のような会話が交わされていたようです。
私の前で跪き謝罪をさせられたコルテス王は怒り心頭のようで、宰相に当り散らしていたとのことでした。
「忌々しい小娘が、未開の地の蛮族の分際で余に頭を下げさせるなど思い上がりおって。
こんな屈辱を受けたのは初めてだ、跪いて頭を垂れるなど余が臣従している様ではないか。」
怨嗟の声を発するコルテス王に対して、宰相が諌めます。
「陛下、北の大陸の国を未開の地などと侮るのはおやめください。
何故に、そのように北の国の方が遅れていると決め付けているのですか。」
「決まっておるだろうが、今まで北の大陸の者が海を渡ってきたことがあるか。
北の大陸から戻った者の話も聞いておるぞ、大洋を渡る事のできる船を作る技術は持ち合わせてないとな。
他にも聞いておるぞ、オストマルク王国を支えているのは農業だと言うではないか。
進んだ工業が世の中の中心で無い辺りで押して知るべしだろう。
それに、あの国は戦いを厭う腰抜けばかりだと聞いておるぞ。」
王の発した言葉に宰相は目眩を感じたようです、よほど呆れたのでしょう。
「陛下、船乗りの言うことを鵜呑みにしてはなりません。
お召しがあって話を聞かせろと命じられたのです、自分が格上だと言うに決まっているでしょう。
現に大洋を渡ってくる造船技術と航海技術があったではないですか。
おそらく、我々が北の大陸を侮っている考えを改めさせるつもりで、わざわざ女王が出向いて来たのでしょう。
女王に危険が及ぶことなく大洋を渡れるということを誇示したかったのだと思います。」
宰相の苦言にコルテス王は閃いた様に言ったのだそうです。
「おお、そうだ。
あの女王が乗っていた船、あれは良いものであったな。
蛮族の王には勿体ない船だ、あれこそ海洋王の名を持つ余に相応しい船だと思わんか。
よし、さっき味わった屈辱の代償にあの船を頂戴しようではないか。」
どうやら、宰相の苦言は耳に届いていないようです。
「陛下、何でそんな無茶をおっしゃる。
良いですか、あの国は戦争を好まないのであって、弱いのではないのですよ。
現に今回戦う事になっても良いように、こちらの地理を十分に調べて来ています。
中庭の噴水に命中させられるだけの砲撃技術を持っているのです。
適う訳ないではありませんか。
ここは穏便に交易を始める方が国益に叶います、どうか事を荒立てるのはお止めくだい。」
尚も宰相は諌めたようですがコルテス王は聞き入れなかったようです。
「うるさい、何でお前はいつもそうやって弱腰なのだ。
いいか、戦争でも、外交でも最初から弱腰では勝つことは出来ないぞ。
なに、今まで我が国は一度も負けたことがないではないか。
戦争を厭う?そんな平和ボケした頭の中お花畑の連中に負ける訳があるまい。」
まあ、そういうことで。どうやらケーニギン・フローラ を奪いに来る算段のようです。
おバカですね、自分の首を絞めるだけだと言うのに。
**********
私達一行は王宮が用意してくれた豪華な馬車で迎賓館に向かいます。
沿道には、白亜の巨大船から降り立った私達を一目見ようと多くの民衆が詰め掛けていました。
この辺は建築に適した石材が取れないのでしょうか、建物はみな赤レンガで作られています。
町並みがシックで落ち着いた感じです、あの国王と違って好感が持てます。
道路はきれいに舗装されていますが、やはり石ではなく赤レンガが敷かれています。
これを見るだけでも資源事情の違いが分かって興味深いですね。
民衆の服装を見ると北の大陸と余り変わりがないように見えます。
女性はブラウスにスカート、もしくはワンピース、男性はズボンとシャツですものね。
これだけ距離が離れていて、交流がない場所なので大分違ってもおかしくないのですが。
機能性を突き詰めると似たような形になるのでしょうか。
さて、私達を乗せた馬車ですが、見た目は華美な装飾が施されています。
しかし、やはり馬車です、乗り心地は北の大陸のモノと変わりません。非常に悪いです。
などと、初めて訪問した南の大陸の様子を観察している間に一行は迎賓館に着きました。
迎賓館は街の建物と違い重厚な石造りで威圧感が凄いです。
周囲に立ち並ぶ王宮の建物群も全て石造りで、どうやら王宮関係の建物は権勢を誇示するため何処かから石材を運ばせて作ったようです。
今回、私達の使節団はこの迎賓館を借り切って、交渉を行うこととなります。
迎賓館の廊下には金銀や宝石で彩られた様々な装飾品が置かれていました。
意匠に統一性がないので、色々な場所から集められた物のようです。
これが、征服した地域から略奪してきたものかと思うと気分が悪くなります。
コルテス王国との交渉はリタさん以下の使節団員にお任せして、私は迎賓館の中で待機です。
私が滞在する部屋はというと、室内には無駄な装飾が施されており金ピカで趣味が悪いです。
私は事務方が交渉をして合意に至った内容を承認するだけです。
そして、交渉の最後に合意文書に署名し、コルテス王と握手を交わすのです。
果たして、無事握手は出来るでしょうか。あの脂ぎった手と握手するなど怖気が走りますが……。
その間は、晩餐会や歓迎パーティも開かれる予定です。
宰相の提案では歓迎式典も催されることになっていますが、まだ何も言ってきません。
コルテス王が歓迎していないのですからね。
さて、滞在初日の夜、私達を招いてコルテス王主催の晩餐会が催されました。
ええ、饗された豪華な食事は全て毒入りです。
コルテス王は初日から果敢に仕掛けてきました、全員の食事に極めて致死性の高い毒が盛られています。
今回、事前に情報を得た私達は器の料理その物の毒は浄化しないことにしました。
光のおチビちゃんにお願いしたのは、一行の一人一人におチビちゃんが付いて一行が口にする瞬間に毒を浄化することです。
そして、一向には行儀が悪いですが少しずつ食べ残すように指示したのです。
さてさて、上手く罠にかかるでしょうか。
晩餐会の席、私達は饗された南大陸の山海の幸を美味しくいただきます。
毒入りとはいえ、料理そのものは宮廷料理人が腕によりをかけて調理したものです。
美味しくない訳がございません、南の大陸独特の調味料もあるようで大変美味しく頂きました。
毒入りの料理を何事もなく食べ進む私達にコルテス王は驚きを隠せない様子です。
ちなみに、私達に毒を盛ることは良識派の宰相には知らされておりません。
宰相はコルテス王の呆けた表情を見て首を傾げていました。
その晩のことです、コルテス王が側近を呼んで怒鳴りつけたそうです。
「どうなっているんだ、毒が効いていないではないか。
本当に毒を入れたんだろうな、誰かに食わせてみろ。」
ああ、そうなってしまいましたか…、毒見役の人には気の毒なことをしました。
王が短気を起こして自分で口にすればと思ったのですが。
ターニャちゃんによれば、その晩側近の部下が一人儚い事になったようです、ご冥福を祈ります。
恨むのなら、毒を入れるように指示したコルテス王を恨んでください。
そして、その晩の夜も更けた頃、王都防衛隊のコロン将軍配下の兵が一中隊五十人がケーニギン・フローラの奪取を図るべく行動を開始したそうです。私?もう寝てましたよ……。
次の朝、港の広場では眠りこける王都防衛隊の隊員達五十人の姿が目撃され、民衆の笑い者になったようです。
大の大人が五十人も集まって外で寝ていれば笑い者にもなりますね。
彼らの携帯していた武装はお土産として全て頂戴したそうです。
このことでコロン将軍は王から酷く叱責されたみたいです。哀れですね……。
その日から暫くの間、私達は贅を凝らしたコルテス王国の料理を味わうことが出来ました、毒入りですけど。
海洋大国を自認するだけあって海鮮料理はどれも素晴らしいものでした、毒入りですけど。
毒入りの晩餐も五回目を迎えた夜、私はある余興を考えました。
私の目の前には配膳されたばかりのメイン料理の皿があります、まだ手をつけていません。
「コルテス王よ、今宵の余興を一つ考えてみたのです。
どうですか、私の料理を王の料理と交換しては下さいませんか。」
あからさまに狼狽するコルテス王、宰相はその様子に怪訝な顔つきになりました。
更に私は畳み掛けます。
「どうなされました?
私は毒など盛ってませんよ、皆さんが見ている通り料理に手を触れてませんので。」
コルテス王の顔が青くなります。でも私は赦しませんでした。
「では、ひとつ。私が毒見をして差し上げましょうか。
それなら、召し上がっていただけますよね。」
私がそこまで言った時、宰相から大きな声で指示が飛びました。
「誰か、毒見をしろ!オストマルク王国のみなさんに饗されている料理の毒見をするのだ。」
私の言葉と王の表情に宰相もやっと事態が飲み込めたようです。
直ぐに毒見がされ、毒の混入が発見されました。
そして、料理長が呼ばれ詰問されますが、毒を入れるなど料理を冒涜するような真似は断じてしていないと言い切りました。
そして、両国の出席者の目はホストであるコルテス王に向かいます。
「陛下、何と言うことをなされたのですか。
これで我が国の立場はますます悪くなるのですぞ。」
宰相の苦言と周囲の冷たい目に居た堪れなくなったのでしょう。
「余は悪くないぞ!
北の蛮族の癖に余に跪かせたこいつらが悪いのだ!」
そう捨てゼリフを残すとスゴスゴと立ち去ってしまったのです。
まるで癇癪を起こした子供のようです。
これには、我が国の者だけではなく、コルテス王国側の出席者も呆れ顔です。
ホストが立ち去ったのでそこで晩餐会は打ち切りです。
宰相は平身低頭謝罪し続けました、本当にこの人が気の毒です…。
この晩の出来事は、出席していた貴族達の口から瞬く間に社交界全体に広がります。
「国王が国賓に対して独断で毒を盛った。」、この噂を耳にしたのは国王に親密な人だけとは限らないのです。
人は寄ると派閥が出来るものです、当然貴族の中には反国王派というのがあるもので…。
この一件で、貴族の間でコルテス王を糾弾する声が強くなったようです。
まったく、何処まで傷口を広げるつもりなのでしょうか。
今後の交渉はマゼランの王宮に場所を移して行うことになりました。
私達も陸に上がりたいですからね。
ケーニギン・フローラを接岸させるために岸壁を一ヶ所空けてもらいました。
護衛艦隊はそのまま沖合いに停泊して、乗組員は少人数ずつボートで上陸して交代で休息を取ります。
ケーニギン・フローラは船乗りと護衛の兵が数人残りますが、それとは別に特別な護衛が付いています。
そう、ターニャちゃんがおチビちゃんと呼ぶ中位精霊達です。
ターニャちゃんは、光のおチビちゃんに近付く不審者がいれば問答無用で眠らすことを、水のおチビちゃんに搭乗者に負傷者が出れば癒しを施すことをお願いしていました。
更に風のおチビちゃんには船に向かってマスケットを撃ちかける者がいれば銃弾を船にあてないようにする事を頼んでいたのです。
ターニャちゃんはコルテス王の謝罪を鵜呑みにはしていません。それは私もですが……。
というのも、ターニャちゃんはあの晩の国王と宰相の会話を盗聴していたからです。
**********
ターニャちゃんによれば、次のような会話が交わされていたようです。
私の前で跪き謝罪をさせられたコルテス王は怒り心頭のようで、宰相に当り散らしていたとのことでした。
「忌々しい小娘が、未開の地の蛮族の分際で余に頭を下げさせるなど思い上がりおって。
こんな屈辱を受けたのは初めてだ、跪いて頭を垂れるなど余が臣従している様ではないか。」
怨嗟の声を発するコルテス王に対して、宰相が諌めます。
「陛下、北の大陸の国を未開の地などと侮るのはおやめください。
何故に、そのように北の国の方が遅れていると決め付けているのですか。」
「決まっておるだろうが、今まで北の大陸の者が海を渡ってきたことがあるか。
北の大陸から戻った者の話も聞いておるぞ、大洋を渡る事のできる船を作る技術は持ち合わせてないとな。
他にも聞いておるぞ、オストマルク王国を支えているのは農業だと言うではないか。
進んだ工業が世の中の中心で無い辺りで押して知るべしだろう。
それに、あの国は戦いを厭う腰抜けばかりだと聞いておるぞ。」
王の発した言葉に宰相は目眩を感じたようです、よほど呆れたのでしょう。
「陛下、船乗りの言うことを鵜呑みにしてはなりません。
お召しがあって話を聞かせろと命じられたのです、自分が格上だと言うに決まっているでしょう。
現に大洋を渡ってくる造船技術と航海技術があったではないですか。
おそらく、我々が北の大陸を侮っている考えを改めさせるつもりで、わざわざ女王が出向いて来たのでしょう。
女王に危険が及ぶことなく大洋を渡れるということを誇示したかったのだと思います。」
宰相の苦言にコルテス王は閃いた様に言ったのだそうです。
「おお、そうだ。
あの女王が乗っていた船、あれは良いものであったな。
蛮族の王には勿体ない船だ、あれこそ海洋王の名を持つ余に相応しい船だと思わんか。
よし、さっき味わった屈辱の代償にあの船を頂戴しようではないか。」
どうやら、宰相の苦言は耳に届いていないようです。
「陛下、何でそんな無茶をおっしゃる。
良いですか、あの国は戦争を好まないのであって、弱いのではないのですよ。
現に今回戦う事になっても良いように、こちらの地理を十分に調べて来ています。
中庭の噴水に命中させられるだけの砲撃技術を持っているのです。
適う訳ないではありませんか。
ここは穏便に交易を始める方が国益に叶います、どうか事を荒立てるのはお止めくだい。」
尚も宰相は諌めたようですがコルテス王は聞き入れなかったようです。
「うるさい、何でお前はいつもそうやって弱腰なのだ。
いいか、戦争でも、外交でも最初から弱腰では勝つことは出来ないぞ。
なに、今まで我が国は一度も負けたことがないではないか。
戦争を厭う?そんな平和ボケした頭の中お花畑の連中に負ける訳があるまい。」
まあ、そういうことで。どうやらケーニギン・フローラ を奪いに来る算段のようです。
おバカですね、自分の首を絞めるだけだと言うのに。
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私達一行は王宮が用意してくれた豪華な馬車で迎賓館に向かいます。
沿道には、白亜の巨大船から降り立った私達を一目見ようと多くの民衆が詰め掛けていました。
この辺は建築に適した石材が取れないのでしょうか、建物はみな赤レンガで作られています。
町並みがシックで落ち着いた感じです、あの国王と違って好感が持てます。
道路はきれいに舗装されていますが、やはり石ではなく赤レンガが敷かれています。
これを見るだけでも資源事情の違いが分かって興味深いですね。
民衆の服装を見ると北の大陸と余り変わりがないように見えます。
女性はブラウスにスカート、もしくはワンピース、男性はズボンとシャツですものね。
これだけ距離が離れていて、交流がない場所なので大分違ってもおかしくないのですが。
機能性を突き詰めると似たような形になるのでしょうか。
さて、私達を乗せた馬車ですが、見た目は華美な装飾が施されています。
しかし、やはり馬車です、乗り心地は北の大陸のモノと変わりません。非常に悪いです。
などと、初めて訪問した南の大陸の様子を観察している間に一行は迎賓館に着きました。
迎賓館は街の建物と違い重厚な石造りで威圧感が凄いです。
周囲に立ち並ぶ王宮の建物群も全て石造りで、どうやら王宮関係の建物は権勢を誇示するため何処かから石材を運ばせて作ったようです。
今回、私達の使節団はこの迎賓館を借り切って、交渉を行うこととなります。
迎賓館の廊下には金銀や宝石で彩られた様々な装飾品が置かれていました。
意匠に統一性がないので、色々な場所から集められた物のようです。
これが、征服した地域から略奪してきたものかと思うと気分が悪くなります。
コルテス王国との交渉はリタさん以下の使節団員にお任せして、私は迎賓館の中で待機です。
私が滞在する部屋はというと、室内には無駄な装飾が施されており金ピカで趣味が悪いです。
私は事務方が交渉をして合意に至った内容を承認するだけです。
そして、交渉の最後に合意文書に署名し、コルテス王と握手を交わすのです。
果たして、無事握手は出来るでしょうか。あの脂ぎった手と握手するなど怖気が走りますが……。
その間は、晩餐会や歓迎パーティも開かれる予定です。
宰相の提案では歓迎式典も催されることになっていますが、まだ何も言ってきません。
コルテス王が歓迎していないのですからね。
さて、滞在初日の夜、私達を招いてコルテス王主催の晩餐会が催されました。
ええ、饗された豪華な食事は全て毒入りです。
コルテス王は初日から果敢に仕掛けてきました、全員の食事に極めて致死性の高い毒が盛られています。
今回、事前に情報を得た私達は器の料理その物の毒は浄化しないことにしました。
光のおチビちゃんにお願いしたのは、一行の一人一人におチビちゃんが付いて一行が口にする瞬間に毒を浄化することです。
そして、一向には行儀が悪いですが少しずつ食べ残すように指示したのです。
さてさて、上手く罠にかかるでしょうか。
晩餐会の席、私達は饗された南大陸の山海の幸を美味しくいただきます。
毒入りとはいえ、料理そのものは宮廷料理人が腕によりをかけて調理したものです。
美味しくない訳がございません、南の大陸独特の調味料もあるようで大変美味しく頂きました。
毒入りの料理を何事もなく食べ進む私達にコルテス王は驚きを隠せない様子です。
ちなみに、私達に毒を盛ることは良識派の宰相には知らされておりません。
宰相はコルテス王の呆けた表情を見て首を傾げていました。
その晩のことです、コルテス王が側近を呼んで怒鳴りつけたそうです。
「どうなっているんだ、毒が効いていないではないか。
本当に毒を入れたんだろうな、誰かに食わせてみろ。」
ああ、そうなってしまいましたか…、毒見役の人には気の毒なことをしました。
王が短気を起こして自分で口にすればと思ったのですが。
ターニャちゃんによれば、その晩側近の部下が一人儚い事になったようです、ご冥福を祈ります。
恨むのなら、毒を入れるように指示したコルテス王を恨んでください。
そして、その晩の夜も更けた頃、王都防衛隊のコロン将軍配下の兵が一中隊五十人がケーニギン・フローラの奪取を図るべく行動を開始したそうです。私?もう寝てましたよ……。
次の朝、港の広場では眠りこける王都防衛隊の隊員達五十人の姿が目撃され、民衆の笑い者になったようです。
大の大人が五十人も集まって外で寝ていれば笑い者にもなりますね。
彼らの携帯していた武装はお土産として全て頂戴したそうです。
このことでコロン将軍は王から酷く叱責されたみたいです。哀れですね……。
その日から暫くの間、私達は贅を凝らしたコルテス王国の料理を味わうことが出来ました、毒入りですけど。
海洋大国を自認するだけあって海鮮料理はどれも素晴らしいものでした、毒入りですけど。
毒入りの晩餐も五回目を迎えた夜、私はある余興を考えました。
私の目の前には配膳されたばかりのメイン料理の皿があります、まだ手をつけていません。
「コルテス王よ、今宵の余興を一つ考えてみたのです。
どうですか、私の料理を王の料理と交換しては下さいませんか。」
あからさまに狼狽するコルテス王、宰相はその様子に怪訝な顔つきになりました。
更に私は畳み掛けます。
「どうなされました?
私は毒など盛ってませんよ、皆さんが見ている通り料理に手を触れてませんので。」
コルテス王の顔が青くなります。でも私は赦しませんでした。
「では、ひとつ。私が毒見をして差し上げましょうか。
それなら、召し上がっていただけますよね。」
私がそこまで言った時、宰相から大きな声で指示が飛びました。
「誰か、毒見をしろ!オストマルク王国のみなさんに饗されている料理の毒見をするのだ。」
私の言葉と王の表情に宰相もやっと事態が飲み込めたようです。
直ぐに毒見がされ、毒の混入が発見されました。
そして、料理長が呼ばれ詰問されますが、毒を入れるなど料理を冒涜するような真似は断じてしていないと言い切りました。
そして、両国の出席者の目はホストであるコルテス王に向かいます。
「陛下、何と言うことをなされたのですか。
これで我が国の立場はますます悪くなるのですぞ。」
宰相の苦言と周囲の冷たい目に居た堪れなくなったのでしょう。
「余は悪くないぞ!
北の蛮族の癖に余に跪かせたこいつらが悪いのだ!」
そう捨てゼリフを残すとスゴスゴと立ち去ってしまったのです。
まるで癇癪を起こした子供のようです。
これには、我が国の者だけではなく、コルテス王国側の出席者も呆れ顔です。
ホストが立ち去ったのでそこで晩餐会は打ち切りです。
宰相は平身低頭謝罪し続けました、本当にこの人が気の毒です…。
この晩の出来事は、出席していた貴族達の口から瞬く間に社交界全体に広がります。
「国王が国賓に対して独断で毒を盛った。」、この噂を耳にしたのは国王に親密な人だけとは限らないのです。
人は寄ると派閥が出来るものです、当然貴族の中には反国王派というのがあるもので…。
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