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わたしが見下ろしたいの
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わたしは呆れて物が言えなかった。が、その呆れが冷たい怒りに変わるのに時間はかからなかった。
「おまえは本当に言い訳ばかりだな。まず謝るのが先ではないのか?」
わたしが強い調子で詰問すると、
「ああ!……」
ルースはベッドの上に膝をつき、両手を胸の前で合わせて、姿勢まで祈りを捧げる体になった。
「ああ!……そうだ、ほんとうにそのとおりだ、どうかこのわたしを……この愚かなわたしを許してほしい……ほんとうに悪かった」
ルースは言い募り、拝むように両手を小刻みに擦り合わせた。
そうかと思うと、その両手をつき、顔がベッドに埋まるほど頭を下げた。だが、動かなくてよいベッドの上だけで何もかも済ませようとしているようにしかわたしには見えない。
わたしは無性に腹が立った。このようにちんけな男にわたしの運命が握られていたかと思うと、やるせなかったし、情けなかった。それでわたしは言ってやった。
「何してるの、そんな高いところで頭を下げて……それで謝っているつもり?」
ルースははっとした様子で、
「そんなつもりは……すまなかった」
と、まだベッドの上で頭を下げる。わたしは呆れ果てた。
「おまえは口ばかりで、全然行動が伴わないわね。床に降りて跪きなさい、と、そうわたしは云ったの」
すると、何とルースは片手にゲンコツを作り、ポカと自分の頭をたたいたのだ。大の大人のする所作ではなかった。わたしはまたもや呆れてしまった。いったいルースには少し頭の弱いところがあるのだろうか。いや、頭の回転まで鈍くなるほど、自責の念に押しつぶされそうになり、焦燥しているのかもしれない。かわいそうに、と、わたしはほだされかけた……
そういうところがわたしの甘いところだ。しっかりせねばならない。このルースのせいでわたし――エマであったわたしは命を落としたのだ。敵に同情してどうするのだ。
ルースはそれでもそそくさとベッドを降り、足がもつれて加速しただけのことかもしれないが、慌ててわたしの足下まで来て、跪いた。
驚いたのはわたしだ。そんなに近寄られては、顔もよく見られてしまう。思わずわたしは片手の袖で顔を隠そうとした。ルースはそんなわたしの仕草にはいっこうに気づかず、床に額を打ちつけんばかりに勢いよく頭を下げた。
「すまなかった……ほんとうにすまなかった……」
顔を見られそうになったわたしの危機には一刻の猶予がもたらされた。今のうちに、ルースと至近距離で話をしても困ることのないよう何か策を考え、手筈を整えねばならない。
と、ルースはもう顔を上げようとする。まずい……。
「待て!」
とわたしは叫んでいた。
ルースは何が起こったのかと、きょとんとしたように見えたが、それでも素直に、じっと蹲ったままだ。
「もう足が疲れてしまって……」
と急いでわたしは言った。「おまえの背中に座らせてもらえるかしら?」
わたしは言葉が口を衝いて出てくるのにまかせた。
ルースはその言葉の意味を確かめている風情で、意図が読めないものだから動けずにいる。
「おまえは崖の上から、谷底へと落ちてゆくわたしを見下ろしていたっけねえ……今度はわたしが見下ろしたいの、ねえ、いいでしょう?」
わたしは少しばかり媚びた声を出した。それで結果が得られるならば安いものだ。
ルースはじっと耳を澄ませていたが、
「わかりました。どうぞ背中にお乗りください」
と上ずった声で応えた。言葉遣いまでなぜか丁寧になっている。
こうしたことは、考える間を与えてはうまくいかない。わたしは、彼の脇腹の付近でくるりと半回転し、その背中にストンと腰を下ろした。その瞬間、彼の体はビクンと震えた。
「おまえは本当に言い訳ばかりだな。まず謝るのが先ではないのか?」
わたしが強い調子で詰問すると、
「ああ!……」
ルースはベッドの上に膝をつき、両手を胸の前で合わせて、姿勢まで祈りを捧げる体になった。
「ああ!……そうだ、ほんとうにそのとおりだ、どうかこのわたしを……この愚かなわたしを許してほしい……ほんとうに悪かった」
ルースは言い募り、拝むように両手を小刻みに擦り合わせた。
そうかと思うと、その両手をつき、顔がベッドに埋まるほど頭を下げた。だが、動かなくてよいベッドの上だけで何もかも済ませようとしているようにしかわたしには見えない。
わたしは無性に腹が立った。このようにちんけな男にわたしの運命が握られていたかと思うと、やるせなかったし、情けなかった。それでわたしは言ってやった。
「何してるの、そんな高いところで頭を下げて……それで謝っているつもり?」
ルースははっとした様子で、
「そんなつもりは……すまなかった」
と、まだベッドの上で頭を下げる。わたしは呆れ果てた。
「おまえは口ばかりで、全然行動が伴わないわね。床に降りて跪きなさい、と、そうわたしは云ったの」
すると、何とルースは片手にゲンコツを作り、ポカと自分の頭をたたいたのだ。大の大人のする所作ではなかった。わたしはまたもや呆れてしまった。いったいルースには少し頭の弱いところがあるのだろうか。いや、頭の回転まで鈍くなるほど、自責の念に押しつぶされそうになり、焦燥しているのかもしれない。かわいそうに、と、わたしはほだされかけた……
そういうところがわたしの甘いところだ。しっかりせねばならない。このルースのせいでわたし――エマであったわたしは命を落としたのだ。敵に同情してどうするのだ。
ルースはそれでもそそくさとベッドを降り、足がもつれて加速しただけのことかもしれないが、慌ててわたしの足下まで来て、跪いた。
驚いたのはわたしだ。そんなに近寄られては、顔もよく見られてしまう。思わずわたしは片手の袖で顔を隠そうとした。ルースはそんなわたしの仕草にはいっこうに気づかず、床に額を打ちつけんばかりに勢いよく頭を下げた。
「すまなかった……ほんとうにすまなかった……」
顔を見られそうになったわたしの危機には一刻の猶予がもたらされた。今のうちに、ルースと至近距離で話をしても困ることのないよう何か策を考え、手筈を整えねばならない。
と、ルースはもう顔を上げようとする。まずい……。
「待て!」
とわたしは叫んでいた。
ルースは何が起こったのかと、きょとんとしたように見えたが、それでも素直に、じっと蹲ったままだ。
「もう足が疲れてしまって……」
と急いでわたしは言った。「おまえの背中に座らせてもらえるかしら?」
わたしは言葉が口を衝いて出てくるのにまかせた。
ルースはその言葉の意味を確かめている風情で、意図が読めないものだから動けずにいる。
「おまえは崖の上から、谷底へと落ちてゆくわたしを見下ろしていたっけねえ……今度はわたしが見下ろしたいの、ねえ、いいでしょう?」
わたしは少しばかり媚びた声を出した。それで結果が得られるならば安いものだ。
ルースはじっと耳を澄ませていたが、
「わかりました。どうぞ背中にお乗りください」
と上ずった声で応えた。言葉遣いまでなぜか丁寧になっている。
こうしたことは、考える間を与えてはうまくいかない。わたしは、彼の脇腹の付近でくるりと半回転し、その背中にストンと腰を下ろした。その瞬間、彼の体はビクンと震えた。
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