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システムに埋もれゆく魂

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 「シャルエルエットバルーエルさんの魂がシステムと融合しそうって本当なのか⁉︎」

 「月雲‼︎」

 「どういうことだ?」

 だから言ったんだ。あれほど、この世界の人の住人に気を許すなぁって!

 「くそ!だめだ!シャルエルエットバルーエルさんの魂をこっちに引き寄せられない」
  
 慌てるシステム管理人たち

 「どうする?この状態じゃ、たとえシャルエルエットバルーエルさんが目覚めても後遺症が残る」

 そう。この特別なイベントはこの世界の体験。ただそれだけだった。体験と言ってもブイアールと同じ感覚のものだ。だから実際に魂がこの世界に入り込むのはまず不可能。だけど、月影朱計美はこの世界に入ってしまった。できるはずのないことを彼女はやってのけたのだ。

 「リリスさん。お願いだからもっと気をしっかり持つんだ」

 この頃、シャルエルエットバルーエルもとい、リリスは

 「お母様。お父様はいつ帰ってるんですか?」

 そう問いかけると柔らかい笑顔でこう答えた。

 「そうねぇー?後二ヶ月後ぐらいには帰って来れるみたいよ」

 そうソフィアが答えると、カルテがさらにこう言った。

 「父上は今、この国を大きくするための戦いをしている。だから誰にも負けないその力で真の英雄になるんだ」

 カルテってこんな性格だっけ?

 そう思いつつ二人の話を微笑ましく思うのだった。

 リリスの部屋

 「……」

 少し埃が溜まっている。

 「しばらくの間、誰にも使われずに埃を被るか……」
  
 まるで、今の私のようだ。

 「私もいつかはこの埃みたいにただそこにいるだけの存在になるのかなぁ?」

 あんな思いはもうしたくない。

 「親に愛されるってどんな気持ちなの?」
  
 リリスは悪役令嬢で必ずバッドエンドを迎えるゲームキャラクターのひとり。

 わかってる。わかっているのに、なんでこんなに胸が苦しいの?

 「昔の私とほんっとそっくりね?」

 だからこの世界に迷い込んだのかもしれない。

 「私も本当のお父さん、お母さんに愛されたかった」

 そう思ってももう遅い。この世界を抜け出すためには私の願いを思い出さないといけない。まずそのためにはヒリック.クロップの好感度を上げなきゃ!

 ヒリック.クロップはリリス、カルテの父親で、ソフィアに夫だ。

 彼はこの国では戰の悪魔と言われている。とても強いのだ。

 「早く会いたいなぁ?」

 彼もまた冷酷なのだろうか?

 そう思ってしまうのは彼は実の娘すら殺しているのだから。

 もちろんゲームのバッドエンドの話だ。

 ブヴーブヴー

 「くそ!ゲームのシステムの権限を持ってかれた!」

 「これじゃもう彼女を救出できない」

 「この世界で生きるしかないのか?」

 「まただ。まだ諦める時じゃない。まだ手は残っている」

 「……月雲さん?」

 「彼女の願いを叶えることさえできれば強制ログアウトを使えるようになる。だから彼女を……月影朱計美さんを全力でサポートするぞ!」

 「はい!」

 「了解です‼︎」

 「それまでは絶対にゲーム内で死ぬな?この世界で死んでも僕たちの手で再度、復活させられるかもしれない。だが、帰る道を完全に閉ざすことになる。なぜならこの世界の死は君にとってはゲームの一部になるということなのだから」
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