53 / 119
53 国見氏、天然説
しおりを挟む
金曜日、一般的なサラリーマンにはちょっと楽しくなれる唯一の平日。今まで付き合ってきた相手も大体は金曜日って楽しそうにしてたし、デートしたりとかしてたし。夕食は外で、そしてそのままラブホ、とか行ったりもしてた、し。
「いらっしゃいませ」
でも、エリート官僚は一般的サラリーマンとはちょっと違っているらしい。
「こちらのコートはゆったり着ていただいた方が今年っぽいラインになりますよ」
今日、夜遅くなるって言ってた。金曜日なのに? 華の。
そして、なんと明日、土曜日も仕事なんだって。もう大変じゃん。超、大変じゃん。なのにさ。
――全然。まぁ、こういう仕事なのはわかってたからな。聡衣も疲れただろ? 早く寝ろよ?
俺の方が帰りが早くて、でも、ご飯もお風呂も済ませた頃にやっと帰宅する旭輝はそう言って笑って、また、頭をポンポンって。
「…………」
ポンポンって。
「どうかした? 頭痛い?」
「! いえ、大丈夫です」
「そう?」
さすが金曜日、やっぱり他の曜日の平日とは違って忙しい。って、そりゃそうだよね。今年のクリスマスってさ。
「やっぱり今年は忙しいさがちょっとすごいね」
土日がクリスマスだもん。
「あは、やっぱりそうですよね。明日、土曜日はクリスマスイブですもんね」
「うん」
そりゃみんな楽しみでしょ。恋人と過ごすのも家族で過ごすのも、どれもワクワクしそう。
「ごめんね」
「ぇ? ……あ、出勤のことですか? 全然です。そもそもここで国見さんに雇ってもらってなかったとしても、アパレルで働くつもりだったんで、どっちにしてもこの土日なんてフル出勤ですよ」
「そうだったの?」
「まぁ、仕事見つからなくて……ちょっと迷ったりもしたんですけど」
「迷う?」
「とにかく仕事しないと……って」
「あぁ」
「でも、旭輝が無理に探さなくていいんじゃないかって言ってくれたんで」
あのおかげで、自分の好きな仕事を探せたっていうの、けっこうある。焦って、とにかく急いで決めなくちゃって、ぎゅっと肩に入ってた力がふわりと抜けたっていうか。
「……良い彼だね」
「はい」
「なら、あんまり不安に思わなくても平気だよ」
「え?」
「……顔、引き攣ってる」
「……」
国見さんはそう言いながら、自分の唇の端を指先でキュッと上に押し上げた。
「余計な一言、言ってしまったかなって。甥っ子の佳祐にも、いらない一言を言ってよく怒られるんだ」
「あは、仲良しですね」
「いや、あの様子だからね。暴走しそうで心配なんだ」
確かに……かなり暴走しそうなタイプではあるよね。蒲田さん。
「女ったらしでも手が早いとは限らない!」
「だからその一言が余計なんですよ」
「「うわぁぁ!」」
国見さんと俺は二人でその背後から聞こえた声に飛び上がった。よかった。お客さんがいなくて。店員同士、オーナーと従業員だけど、私語してた上に叫んでたら、なんだこの店ってなっちゃう。
慌てて振り返るとそこには帽子にサングラス、それから……マスク。
「な」
何してんの? 蒲田さん。
「お、お客様、大変失礼いたしました」
えっ? 国見さん?
「何かお探しでしょうか」
「……いえ、探してたんじゃないです」
「? ……! 佳祐っ!」
え、えぇ……まさかの、この超絶下手な変装に、騙されたの? 国見さん?
「そうです。僕ですよ」
「びっくりした。てっきりお客さまかと。よかった」
えぇ……むしろ、俺は今驚いたけど。変装しきれてないのにわからなかった国見さんにも、わからなくて当然ですよ、やれやれ、みたいな顔をしてサングラスと帽子をしまい込む蒲田さんにも。スーツに帽子にサングラスにマスクって、変装とかじゃなく、もう変態だと思うんだけど。
「今日は……貴方にお話があってきました」
そしてその変態蒲田さんが真っ直ぐこっちを見て、そう言った。
「お仕事中に失礼しました」
「……いえ」
バックヤードにある小さな椅子とテーブル。普段、出勤してきたらここに荷物とか全部置いておくんだけど。そんな小さな倉庫に大先生の秘書である蒲田さんがちょこんと座って、ペコリと頭を下げた。
「もう、聞いてるかと思います。私が叔父に頼んで何をしようとしてたか」
「ぁ……うん」
「……」
国見さんはきっと横恋慕できないくらいに仲のいいカップルだよって言ってくれたんだと思う。蒲田さんは唇をキュッと噛み締めて、俯いていた。
「あの……」
あのね。きっと秘書さんってさ、その大先生のために色々しないといけない仕事なんだろうって思う。大変なお仕事だよねって。
「もしかして、蒲田さんって」
でも、それだけであんなに必死に旭輝の素性とか調べるのかなぁって。
大事な大先生の娘さんに変なちょっかい出されないようにって、興信所頼んでまで俺たちの様子見てみたり。それで、恋人同士のようですって報告が来ても信じられなくて、尾行しちゃったり。そんなのするものかなぁって。
「あのさ……旭輝のこと、好き、だったんだよね」
「!」
その一言に蒲田さんは顔をパッと上げて、大きく見開いた瞳から、ポロンって。
「ごめんね」
大粒の涙を一つ、高いスーツの裾に落っことした。
「いらっしゃいませ」
でも、エリート官僚は一般的サラリーマンとはちょっと違っているらしい。
「こちらのコートはゆったり着ていただいた方が今年っぽいラインになりますよ」
今日、夜遅くなるって言ってた。金曜日なのに? 華の。
そして、なんと明日、土曜日も仕事なんだって。もう大変じゃん。超、大変じゃん。なのにさ。
――全然。まぁ、こういう仕事なのはわかってたからな。聡衣も疲れただろ? 早く寝ろよ?
俺の方が帰りが早くて、でも、ご飯もお風呂も済ませた頃にやっと帰宅する旭輝はそう言って笑って、また、頭をポンポンって。
「…………」
ポンポンって。
「どうかした? 頭痛い?」
「! いえ、大丈夫です」
「そう?」
さすが金曜日、やっぱり他の曜日の平日とは違って忙しい。って、そりゃそうだよね。今年のクリスマスってさ。
「やっぱり今年は忙しいさがちょっとすごいね」
土日がクリスマスだもん。
「あは、やっぱりそうですよね。明日、土曜日はクリスマスイブですもんね」
「うん」
そりゃみんな楽しみでしょ。恋人と過ごすのも家族で過ごすのも、どれもワクワクしそう。
「ごめんね」
「ぇ? ……あ、出勤のことですか? 全然です。そもそもここで国見さんに雇ってもらってなかったとしても、アパレルで働くつもりだったんで、どっちにしてもこの土日なんてフル出勤ですよ」
「そうだったの?」
「まぁ、仕事見つからなくて……ちょっと迷ったりもしたんですけど」
「迷う?」
「とにかく仕事しないと……って」
「あぁ」
「でも、旭輝が無理に探さなくていいんじゃないかって言ってくれたんで」
あのおかげで、自分の好きな仕事を探せたっていうの、けっこうある。焦って、とにかく急いで決めなくちゃって、ぎゅっと肩に入ってた力がふわりと抜けたっていうか。
「……良い彼だね」
「はい」
「なら、あんまり不安に思わなくても平気だよ」
「え?」
「……顔、引き攣ってる」
「……」
国見さんはそう言いながら、自分の唇の端を指先でキュッと上に押し上げた。
「余計な一言、言ってしまったかなって。甥っ子の佳祐にも、いらない一言を言ってよく怒られるんだ」
「あは、仲良しですね」
「いや、あの様子だからね。暴走しそうで心配なんだ」
確かに……かなり暴走しそうなタイプではあるよね。蒲田さん。
「女ったらしでも手が早いとは限らない!」
「だからその一言が余計なんですよ」
「「うわぁぁ!」」
国見さんと俺は二人でその背後から聞こえた声に飛び上がった。よかった。お客さんがいなくて。店員同士、オーナーと従業員だけど、私語してた上に叫んでたら、なんだこの店ってなっちゃう。
慌てて振り返るとそこには帽子にサングラス、それから……マスク。
「な」
何してんの? 蒲田さん。
「お、お客様、大変失礼いたしました」
えっ? 国見さん?
「何かお探しでしょうか」
「……いえ、探してたんじゃないです」
「? ……! 佳祐っ!」
え、えぇ……まさかの、この超絶下手な変装に、騙されたの? 国見さん?
「そうです。僕ですよ」
「びっくりした。てっきりお客さまかと。よかった」
えぇ……むしろ、俺は今驚いたけど。変装しきれてないのにわからなかった国見さんにも、わからなくて当然ですよ、やれやれ、みたいな顔をしてサングラスと帽子をしまい込む蒲田さんにも。スーツに帽子にサングラスにマスクって、変装とかじゃなく、もう変態だと思うんだけど。
「今日は……貴方にお話があってきました」
そしてその変態蒲田さんが真っ直ぐこっちを見て、そう言った。
「お仕事中に失礼しました」
「……いえ」
バックヤードにある小さな椅子とテーブル。普段、出勤してきたらここに荷物とか全部置いておくんだけど。そんな小さな倉庫に大先生の秘書である蒲田さんがちょこんと座って、ペコリと頭を下げた。
「もう、聞いてるかと思います。私が叔父に頼んで何をしようとしてたか」
「ぁ……うん」
「……」
国見さんはきっと横恋慕できないくらいに仲のいいカップルだよって言ってくれたんだと思う。蒲田さんは唇をキュッと噛み締めて、俯いていた。
「あの……」
あのね。きっと秘書さんってさ、その大先生のために色々しないといけない仕事なんだろうって思う。大変なお仕事だよねって。
「もしかして、蒲田さんって」
でも、それだけであんなに必死に旭輝の素性とか調べるのかなぁって。
大事な大先生の娘さんに変なちょっかい出されないようにって、興信所頼んでまで俺たちの様子見てみたり。それで、恋人同士のようですって報告が来ても信じられなくて、尾行しちゃったり。そんなのするものかなぁって。
「あのさ……旭輝のこと、好き、だったんだよね」
「!」
その一言に蒲田さんは顔をパッと上げて、大きく見開いた瞳から、ポロンって。
「ごめんね」
大粒の涙を一つ、高いスーツの裾に落っことした。
2
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
僕の目があなたを遠ざけてしまった
紫野楓
BL
受験に失敗して「一番バカの一高校」に入学した佐藤二葉。
人と目が合わせられず、元来病弱で体調は気持ちに振り回されがち。自分に後ろめたさを感じていて、人付き合いを避けるために前髪で目を覆って過ごしていた。医者になるのが夢で、熱心に勉強しているせいで周囲から「ガリ勉メデューサ」とからかわれ、いじめられている。
しかし、別クラスの同級生の北見耀士に「勉強を教えてほしい」と懇願される。彼は高校球児で、期末考査の成績次第で部活動停止になるという。
二葉は耀士の甲子園に行きたいという熱い夢を知って……?
______
BOOTHにて同人誌を頒布しています。(下記)
https://shinokaede.booth.pm/items/7444815
その後の短編を収録しています。
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる