人を愛したら魔女と呼ばれていた

トトヒ

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第7章

昇進「私も戦略会議に参加することになりました」

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「今日からうちの課にいるダチュラも、戦略会議に参加することになりました。では、挨拶を」

「はい。至らない点があると思いますが皆さんの足を引っ張らないように精進致します。宜しくお願い致します」

私は頭を深く下げた。
ジェイドの大きな拍手に先導されるように、会議室に集合していた戦闘課達が一斉に拍手をし始めた。

ルチルとの密会で私が提案したのは、戦略会議に私を参加させることだった。
私の提案に一瞬唖然としていたけれど、給与はそのままで立場もルチルのアシスタントという形をとることで渋々同意してくれた。
結局ルチルは注文したお茶に口をつけることなく、その店を後にした。
毒なんて入れていなかったのに、用心深い男ね。
今後も注意しなければ……。


会議の最中、私の仕事はほとんどメモを取ることや資料を配るといった雑務に徹していた。
血気盛んな戦闘課の意見に対し、全て冷静に対処するルチルは事務課の主任という仕事時の時とはまるで別人だった。
この様子を見たら、事務課の女の子達も見直すんじゃないかしら。リアは別として。

「ちんたら戦ってたって何の改善もしないんだ! ここは一気に叩きつぶす作戦にしねーと!」

一人の戦闘課社員が声を荒げる。

「相手の動向が分からない以上、むやみに飛び込むことは避けましょう。今は何よりも、データを集めることが先決かと」

「データっつても、もう3年だぞ! このまま防御に徹していても仕方ないだろ」

あらら、熱くなっちゃって。
ルチルは表情一つ変えないし、この話はこのまま平行線じゃないかしら。
その時ジェイドが立ち上がり、発言していた戦闘課を制した。

「まあ落ち着けよ。気持ちは分かるが、お前も犬死は嫌だろ」

「だ、だが……」

「ここにいるやつらは、この国の中でも飛び抜けた能力値をもっている。この国を守れるのは俺たちしかいない。そういう意味で、退ける時は退くべきだ。なあルチル?」

「はい。この3年で、エネミーには強さに段階があるところまでは分かっています。その中でもエネミーパニック時に現れた敵が最もレベルが高かったと考えられますが、その後に同レベルの敵は現れていません。また現れないとは限りませんので、データを蓄え二度とあのような悲劇を繰り返さないようにしなければ」

それを聞いて納得したのか、強く発言していた戦闘課社員は何も言わなくなった。
今日の戦略会議はそのまま終わり、私とルチルも会議室から退出した。



「さすがルチル主任は冷静ですね。戦闘課に振り回されずに戦略を練れて」

私とルチルは事務課のフロアへ向かうため、廊下を並んで歩いている。

「何も練れていません。3年経っても敵に関して何もかも分かっていないのですから。先程の社員が言ったように、完全に逃げ腰の戦略にすぎません」

「本当にネガティブですね。今できる最善の方法だと思いますよ」

ルチルはふとこちらを見た。
あの密会以来、目を合わせてくれるようになったわね。

「会議に参加した目的を聞いても?」

「嫌だと言ったら?」

「僕の質問を取り消してください」

ふふ、少し意地悪だったわね。
距離のとり方が上手い子には優しくしなくちゃね。

「冗談ですよ。データを見たかったのです。事務課には閲覧権限がありませんでしたから」

「エネミーのデータですか? そんなものをどうするのですか?」

「私は知らないことの方が怖いのです。ルチル主任と違って」

「この世は知らない方が良いことの方が多いと思いますが。まあ、その抱えているデータを見た所で新しい発見はないと思いますよ」

私の腕にはファイリングされた大量のデータが抱えられている。
この国は、データ管理などまだアナログな部分が多い。
私にとってはそれが少し不便なのよね。

「ルチル主任は、エネミーは一体何のためにこの国に攻め込んでいるのだと思いますか?」

「推測だけで話しても不毛だと思います」

ということは、何か思うことがあるというわけかしら。
もう少しつっこんでみようと思ったけれど、その時後ろから駆け寄ってくる足音が聞こえた。

「ダチュラさん!」

振り向くとブライトが駆け寄ってくる。

「あら、どうかなさいましたか?」

「ダチュラさんすごいですね! 昇進ですか?」

目をキラキラ輝かせて私を見る。

「そこまでのことではありませんよ。ルチル主任のアシスタントです」

「いや~ルチルが誰かと仕事するなんて珍しいよな」

ブライトの後ろからジェイドがやってきた。
廊下を走るなよとジェイドがブライトを小突く。

「ジェイドさん。先程はありがとうございました。お陰様で今日の会議も上手くいきました」

ルチルが頭を下げる。
ルチルの方がジェイドより会社にいる歴が長いはずだけれど、明らかにルチルの方が腰が低い。
ルチルの性格もあるでしょうけど、やはり事務課と戦闘課じゃ立場が違うのね。

「こっちも熱いヤツばかりで、やりづらいだろ? いつも悪いな。でも、皆ダチュラ嬢の登場で舞い上がったのもあるかもな」

ジェイドが悪戯っ子のように笑った。

「まあ、ご迷惑だったかしら?」

「そ、そんなことありませんよ!」

ブライトの顔が赤らんでいる。

「そうそう。こいつみたいにやる気を出してもらえればこっちも助かる。戦闘課の女性陣は女として見れないしな」

あら酷い。

「そうだダチュラさん。お昼まだですか? 良ければ一緒にどうでしょうか?」

ブライトの天真爛漫な性格には少々困っている。

「私いつも後輩と一緒にランチをとっているので」

「そうですか……。急にすみません」

ブライトは残念そうに頭を掻いた。

「後輩って……あのリアって子か?」

ジェイドが躊躇気味に私に聞いてきた。

「よく分かりましたね。そうです」

「俺、この前の飲み会後にあの子に説教しちまったんだよ。やっぱり飲み過ぎはダメだな」

「その話ならリアちゃんから聞きました。あの子も失礼な質問をしてしまい、謝りたいと言っていましたよ」

私がそう言うと、ジェイドは何か閃いたかのように手を叩いた。

「俺も丁度謝りたいと思ってたんだよ。それじゃあ、今晩その子も誘って飲みに行かないか? ダチュラ嬢の昇進祝いも兼ねて。ルチルも参加だぞ!」

「いえ、僕は遠慮します」

ルチルは頭を下げてその場から離れようとしたが、素早いジェイドに捕まった。

「お前さ~、俺の誘いいつも断るじゃん。俺のこと嫌いなわけ?」

ジェイドはルチルにヘッドロックをかけている。
ルチルにこんなことができるのは、世界中でジェイドくらいじゃないかしら。

「いえ、決してそうではありません。仕事がたまっておりまして――」

「嘘つけ。お前みたいな優秀な奴が、仕事をためるわけないだろうが」

「いや……でも……、僕が行っても意味が――」

「意味って何だよ、意味って! 来いったら来い! 意味はその後考えろ。よく分からんが」

「わ、分かりました」

ルチルは遂に観念したようだった。
ジェイドは満足気な表情で、ルチルを離した。
ルチルは首をさすっている。

「じゃあ、今晩よろしく! 店は俺が探しとくな。会社前に集合で~」

ジェイドは去りながら手をひらひらさせていた。
私、まだ参加するなんて言ってないのだけれど。
ルチルを見ると、彼は苦虫を噛み潰したよう表情をしている。

「ダチュラさん! また後で! 楽しみにしてますからね!」

ブライトが満面の笑みで私に手を振っていた。
ジェイド先輩ありがとうございます! なんてはしゃぎながら……。

 本当に、あの子の笑顔は眩しすぎて辛いわ。
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