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第9章
トリン改造計画「恋する乙女は、いつの時代でも強いものね」
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トリンから時間をもらえないかと言われた私とリアは、いつものカフェでランチを一緒にすることにした。
私とリアが先にカフェで注文をして待っていると、遅れてトリンがカフェに入ってきた。
相変わらず髪が乱れ、大きな足音を立てながら。
「お待たせして申し訳ありません!」
「そ、その格好のまま来たんですか?」
リアが驚くのも無理はない。
トリンが着ていたのは、訓練用のトレーニングウェアだった。
前身を黒いタイツでおおわれているように、身体のラインにピッタリとフィットしている。
「はい! 午後もまたトレーニングですから」
わざわざ着替えるのは面倒なのだろう。
私とリアも会社の制服のままだし、服装のタイプは違うものの仕方ないわね。
「大変ですわね。トリンさんも注文をどうぞ」
私は毎回同じ、小さなマフィンとカフェラテ。
リアはサンドイッチと、今日はプリンをデザートに食べるみたい。
それに比べてトリンは、ハンバーガーとサンドイッチを2セットずつ、サラダとマックスサイズの炭酸飲料を頼んだ。
「す、すごい食欲ですね……」
リアが呆気に取られている。
「私昔から大食漢なんですよ。お二人はそれで足りるんですか?」
「今日はデザートまであるので、いつもより食べる方ですよ。ダチュラ先輩は本当に小食です」
「でも、私もリアちゃんも基本はデスクワークですから。トリンさんはずっと体を動かしてますし、それぐらい食べるのは当然かもしれませんね」
トリンは既にサンドイッチを平らげていた。
「それだけ食べても、運動すれば太らないんですね。トリンさん細いもん」
リアが少しだけ羨ましそうにトリンの身体を見た。
昨日のサイズが合わない服装とは違い、彼女のボディーラインがはっきりと見える。
胸はそこまで大きくはないがキュッと腰がくびれ、足も細くて長い。
顔もそうだが、素材としては悪くないと思う。
「今回、お二人にお時間をいただいたのは他でもありません!」
すっかり食事を終え、残すは飲み物だけという状態になっていた彼女が改まったように私達に向き直った。
「お二人に、私を改造してほしいのです!!」
「は?」
リアは思わず間抜けな声を出していた。
「改造……と言いますと?」
「お二人程とは言いませんが、私ももう少し女らしくなりたいのです!」
トリンは神妙な面持ちで言った。
「まさか昨日ジェイドさんに言われた事を気にしているのですか? トリンさんはそのままで良いという話だったじゃないですか」
「いや、別にジェイド先輩は毎回あんな感じなんでどうでもいいんですけど。その――」
「本当の本当に、うちの主任が好きなんですか?」
言い淀んでいるトリンの言葉を待つ前に、リアが驚きの表情を浮かべながら尋ねた。
「ななななな何で知ってるんですか!」
トリンが驚きとともに立ち上がった。
店内の他の客がこちらを向く。
トリンが慌てて座る。
「トリンさん、昨日の感じでもしかしたら主任のこと好きかもとは思いましたけど、主任の為に綺麗になりたいとかそういう展開なわけですか?」
「うわ~バレてた……。恥ずかしい」
リアの鋭いツッコミに、トリンは顔を覆った。
「マジですか、でも主任って女の見た目をあまり気にしないんですよ。私はおろか、このダチュラ先輩にもいつもの反応を崩さないんですよ! 普通の男なら絶対に態度が変わるんです。隠しているつもりでも!」
リアが熱弁している。
私の場合は、むしろルチルに怖がられているけれどね。
「だから、私にもチャンスがあるかなと思ったんです。でも、さすがにこのままでは女として見てくれないかと。私不器用でファッションにも疎くて、何をどうすればいいのか分からず。ちょっとだけ、お二人の力を貸していただけないでしょうか!」
トリンは頭を下げた。
とても健気ね。
好きな人のために外見を気にしている。
私にもこんな時代があったわ……。
「分かりました、力になりましょう! ただし、条件があります!」
「条件ですか? 私にできることでしたら!」
リアが含み笑いをしている。
何か悪知恵が働いたに違い無いわ。
「私はジェイド先輩を狙っています。彼の情報提供&私の良い情報を流すことをお願いします!」
なるほどね。
「お安い御用です! 何なら、いつでも飲み会にお呼びします!」
「分かってるじゃないですか! これで契約成立です!」
「はい! 私、ダブルデートというものが夢だったんです! 上手くいったらご一緒しましょう!」
「だ、ダブル? まあ、何でもいいです! 宜しくお願いしますね」
二人はガッチリと手を組んでいる。
昨日会ったばかりなのに、強い絆で結ばれているようだった。
女子の恋愛が絡んだ団結程強いものは無いのかもしれない。
これ、私は関わらなくても良いのかしら。
そういうわけにはいかず、次の休みの日にリアとトリンに呼び出されてしまった。
待ち合わせは、この地域一番の繁華街。
トリンを改造するために、服や化粧品を選ぶことになった。
トリンは自分の身なりに無頓着だが、国家防衛管理局の戦闘課2年目ということもあり、お金は充分に持っている。
最新トレンドのブランドの服やコスメを買っても、そこまで生活を逼迫しないわね。
一通りお店を巡り、トリンに似合う洋服を選んだ。
フィッティング室で着替えてもらい、髪も下しただけで見違えた。
パウダールームでお化粧方法を教え、トリンは何度も失敗しながらメイクアップを完成させた。
こうして見ると、普通の可愛い女の子ね。
まだ歩き方など落ち着きがないけれど、そこはおいおいね。
「本日は本当にありがとうございました! 自分が自分じゃ無いみたいです!」
帰り道、トリンは何度も私たちに頭を下げた。
せっかく整えた髪がまた乱れてしまっている。
リアが慌てて整えてあげた。
「トリンさん本当に綺麗! もうダボダボの服なんて買っちゃダメですからね! せっかく細いんだから」
「ファッションは奥が深いんですね! 機能性よりも見栄えが大切だと学びましたよ!」
「でもトリンさんが綺麗になったら、ジェイドさんがトリンさんを好きになっちゃうかもしれない。ジェイドさん取らないでくださいね」
リアは案外、本気で心配している。
「それは無いですよ。ジェイド先輩は私のことを弟だと思ってますから。妹ですら無いんですよ」
「いやいや、ギャップ萌えというものがあるんですよ。今まで弟のようだと思っていたのに、いつの間にか……みたいな!」
ジェイドはトリンがルチルを好きだということを認識しているみたいだから、大丈夫だとは思うけれど。
確かに、何が起こるか分からないものね。
容姿が急に変わったら、ちょっとは気になるだろうし。
ルチルみたいな殻に閉じこもっているタイプを落とす方が難しいかもしれない。
「ねえねえ君たち、これから一緒に遊びに行かない?」
私達の目の前に、少しガラの悪い5人組の男性が現れた。
どこかで飲んできたのか、酔っていて顔が赤い。
ここは繁華街だから、こういう輩も少なからずいる。
「ごめんなさ~い」
リアはナンパに慣れているのか、憶することなく男性を避けて前へ進んだ。
その時、近くの男性がリアの腕を掴む。
「ちょっとぐらい、付き合ってくれてもいいじゃん!」
「無理です」
リアは男を睨んだ。
「怒った顔も可愛いね~」
「はあ? 私に声かけてくるなんて、余程のエリートですか?」
エリートなら良いのかしら?
「うわ! 君すげー美人。モデル?」
別の男が私の肩に手をかけた。
これだから外を出歩くのは面倒なのよね。
「あの~、二人とも嫌がってるので止めてもらえませんか?」
今まで状況を見ていたトリンが、流石にまずいと感じたようで止めに入ってくれた。
「いやいや、君も一緒に遊ぼうよ!」
「えっ? 私もですか?」
トリンが驚いている。
今までナンパというものに縁が無かったのかもしれない。
男がトリンの背中から抱き着いた途端、トリンは一瞬の内に男を背負い投げしてしまった。
男は背中を地面に思い切り打ち付けて呻いている。
「あ……すいません。背中を取られたのでつい……」
「何すんだ! このアマ!」
リアの腕を掴んでいた男が、腕を放しトリンにめがけて拳をふるう。
トリンは難なく片手で受け止め、そのまま静止した。
男は拳をトリンの手からはがそうと動いているが、ビクともしない。
「お友達を投げてしまったのは謝りますが、嫌がる女性を無理やり誘うのもどうかと思います。あなたが腕を掴んでいた彼女の手首、痕がついてます。あなたも謝ってください」
リアが急いでトリンの後ろに移動した。
「この人、潜力めっちゃ高いですよ! 今なら見逃してあげるから、怪我しないうちに帰って」
「謝ってもらわなくていいんですか?」
トリンがリアに振り向きながら尋ねる。
「そんなのどうでもいい! トリンさんその人の手、放しちゃって」
トリンは腑に落ちないようだったが、男の手を放した。
男達はそのまま走ってどこかへ行ってしまった。
おそらくあの男達も潜力がそれなりにあるから、あのような横柄な態度を取っていたのだろう。お酒も入っていたし。
でもトリンには歯が立たないと分かったのね。
トリンが手を放さない間、あの男性はちょっと泣きそうだったもの。
声をかける相手を間違えたってところね。
「リアさん、その手大丈夫ですか?」
「ありえないんだけど~。まあ、トリンさんが蹴散らしてくれたから、ちょっとスッキリしました」
リアの手の痕はそんなに酷いものではない。
あの男性も危害を加えようとしたわけではないだろうから。
明日には薄くなっているでしょう。
「お二人はよく男性に絡まれたりするんですか?」
「まあ、ぼちぼちね」
「怖くないですか? きっと戦いにも不慣れでしょうし。もし私がいなかったら、どうしたんでしょうか?」
「ここは人通りも多いから、大声出したら何とかなりますよ。人が少ない夜道は歩かないようにしてます」
「美人って大変なんですね」
リアの逞しさに、トリンは感心したようだった。
「でもトリンさんがいてくれて助かりました。ありがとうございます」
私もリアもトリンにお礼を述べて、途中で別れた。
「私、ジェイドさんと上手くいかなかったら、トリンさんと一緒に暮らそうかな」
帰り道にリアがよく分からないことを言い出した。
絡まれた時リアは毅然とした態度だったけれど、本当はちょっと怖かったのね。
それにしても、トリンは思っていたよりも戦闘スキルに長けているのかもしれない。
彼女と接点ができたことは、私にとって好都合だった。
茶番はこのくらいにして、自分の目的を果たさなければね。
私とリアが先にカフェで注文をして待っていると、遅れてトリンがカフェに入ってきた。
相変わらず髪が乱れ、大きな足音を立てながら。
「お待たせして申し訳ありません!」
「そ、その格好のまま来たんですか?」
リアが驚くのも無理はない。
トリンが着ていたのは、訓練用のトレーニングウェアだった。
前身を黒いタイツでおおわれているように、身体のラインにピッタリとフィットしている。
「はい! 午後もまたトレーニングですから」
わざわざ着替えるのは面倒なのだろう。
私とリアも会社の制服のままだし、服装のタイプは違うものの仕方ないわね。
「大変ですわね。トリンさんも注文をどうぞ」
私は毎回同じ、小さなマフィンとカフェラテ。
リアはサンドイッチと、今日はプリンをデザートに食べるみたい。
それに比べてトリンは、ハンバーガーとサンドイッチを2セットずつ、サラダとマックスサイズの炭酸飲料を頼んだ。
「す、すごい食欲ですね……」
リアが呆気に取られている。
「私昔から大食漢なんですよ。お二人はそれで足りるんですか?」
「今日はデザートまであるので、いつもより食べる方ですよ。ダチュラ先輩は本当に小食です」
「でも、私もリアちゃんも基本はデスクワークですから。トリンさんはずっと体を動かしてますし、それぐらい食べるのは当然かもしれませんね」
トリンは既にサンドイッチを平らげていた。
「それだけ食べても、運動すれば太らないんですね。トリンさん細いもん」
リアが少しだけ羨ましそうにトリンの身体を見た。
昨日のサイズが合わない服装とは違い、彼女のボディーラインがはっきりと見える。
胸はそこまで大きくはないがキュッと腰がくびれ、足も細くて長い。
顔もそうだが、素材としては悪くないと思う。
「今回、お二人にお時間をいただいたのは他でもありません!」
すっかり食事を終え、残すは飲み物だけという状態になっていた彼女が改まったように私達に向き直った。
「お二人に、私を改造してほしいのです!!」
「は?」
リアは思わず間抜けな声を出していた。
「改造……と言いますと?」
「お二人程とは言いませんが、私ももう少し女らしくなりたいのです!」
トリンは神妙な面持ちで言った。
「まさか昨日ジェイドさんに言われた事を気にしているのですか? トリンさんはそのままで良いという話だったじゃないですか」
「いや、別にジェイド先輩は毎回あんな感じなんでどうでもいいんですけど。その――」
「本当の本当に、うちの主任が好きなんですか?」
言い淀んでいるトリンの言葉を待つ前に、リアが驚きの表情を浮かべながら尋ねた。
「ななななな何で知ってるんですか!」
トリンが驚きとともに立ち上がった。
店内の他の客がこちらを向く。
トリンが慌てて座る。
「トリンさん、昨日の感じでもしかしたら主任のこと好きかもとは思いましたけど、主任の為に綺麗になりたいとかそういう展開なわけですか?」
「うわ~バレてた……。恥ずかしい」
リアの鋭いツッコミに、トリンは顔を覆った。
「マジですか、でも主任って女の見た目をあまり気にしないんですよ。私はおろか、このダチュラ先輩にもいつもの反応を崩さないんですよ! 普通の男なら絶対に態度が変わるんです。隠しているつもりでも!」
リアが熱弁している。
私の場合は、むしろルチルに怖がられているけれどね。
「だから、私にもチャンスがあるかなと思ったんです。でも、さすがにこのままでは女として見てくれないかと。私不器用でファッションにも疎くて、何をどうすればいいのか分からず。ちょっとだけ、お二人の力を貸していただけないでしょうか!」
トリンは頭を下げた。
とても健気ね。
好きな人のために外見を気にしている。
私にもこんな時代があったわ……。
「分かりました、力になりましょう! ただし、条件があります!」
「条件ですか? 私にできることでしたら!」
リアが含み笑いをしている。
何か悪知恵が働いたに違い無いわ。
「私はジェイド先輩を狙っています。彼の情報提供&私の良い情報を流すことをお願いします!」
なるほどね。
「お安い御用です! 何なら、いつでも飲み会にお呼びします!」
「分かってるじゃないですか! これで契約成立です!」
「はい! 私、ダブルデートというものが夢だったんです! 上手くいったらご一緒しましょう!」
「だ、ダブル? まあ、何でもいいです! 宜しくお願いしますね」
二人はガッチリと手を組んでいる。
昨日会ったばかりなのに、強い絆で結ばれているようだった。
女子の恋愛が絡んだ団結程強いものは無いのかもしれない。
これ、私は関わらなくても良いのかしら。
そういうわけにはいかず、次の休みの日にリアとトリンに呼び出されてしまった。
待ち合わせは、この地域一番の繁華街。
トリンを改造するために、服や化粧品を選ぶことになった。
トリンは自分の身なりに無頓着だが、国家防衛管理局の戦闘課2年目ということもあり、お金は充分に持っている。
最新トレンドのブランドの服やコスメを買っても、そこまで生活を逼迫しないわね。
一通りお店を巡り、トリンに似合う洋服を選んだ。
フィッティング室で着替えてもらい、髪も下しただけで見違えた。
パウダールームでお化粧方法を教え、トリンは何度も失敗しながらメイクアップを完成させた。
こうして見ると、普通の可愛い女の子ね。
まだ歩き方など落ち着きがないけれど、そこはおいおいね。
「本日は本当にありがとうございました! 自分が自分じゃ無いみたいです!」
帰り道、トリンは何度も私たちに頭を下げた。
せっかく整えた髪がまた乱れてしまっている。
リアが慌てて整えてあげた。
「トリンさん本当に綺麗! もうダボダボの服なんて買っちゃダメですからね! せっかく細いんだから」
「ファッションは奥が深いんですね! 機能性よりも見栄えが大切だと学びましたよ!」
「でもトリンさんが綺麗になったら、ジェイドさんがトリンさんを好きになっちゃうかもしれない。ジェイドさん取らないでくださいね」
リアは案外、本気で心配している。
「それは無いですよ。ジェイド先輩は私のことを弟だと思ってますから。妹ですら無いんですよ」
「いやいや、ギャップ萌えというものがあるんですよ。今まで弟のようだと思っていたのに、いつの間にか……みたいな!」
ジェイドはトリンがルチルを好きだということを認識しているみたいだから、大丈夫だとは思うけれど。
確かに、何が起こるか分からないものね。
容姿が急に変わったら、ちょっとは気になるだろうし。
ルチルみたいな殻に閉じこもっているタイプを落とす方が難しいかもしれない。
「ねえねえ君たち、これから一緒に遊びに行かない?」
私達の目の前に、少しガラの悪い5人組の男性が現れた。
どこかで飲んできたのか、酔っていて顔が赤い。
ここは繁華街だから、こういう輩も少なからずいる。
「ごめんなさ~い」
リアはナンパに慣れているのか、憶することなく男性を避けて前へ進んだ。
その時、近くの男性がリアの腕を掴む。
「ちょっとぐらい、付き合ってくれてもいいじゃん!」
「無理です」
リアは男を睨んだ。
「怒った顔も可愛いね~」
「はあ? 私に声かけてくるなんて、余程のエリートですか?」
エリートなら良いのかしら?
「うわ! 君すげー美人。モデル?」
別の男が私の肩に手をかけた。
これだから外を出歩くのは面倒なのよね。
「あの~、二人とも嫌がってるので止めてもらえませんか?」
今まで状況を見ていたトリンが、流石にまずいと感じたようで止めに入ってくれた。
「いやいや、君も一緒に遊ぼうよ!」
「えっ? 私もですか?」
トリンが驚いている。
今までナンパというものに縁が無かったのかもしれない。
男がトリンの背中から抱き着いた途端、トリンは一瞬の内に男を背負い投げしてしまった。
男は背中を地面に思い切り打ち付けて呻いている。
「あ……すいません。背中を取られたのでつい……」
「何すんだ! このアマ!」
リアの腕を掴んでいた男が、腕を放しトリンにめがけて拳をふるう。
トリンは難なく片手で受け止め、そのまま静止した。
男は拳をトリンの手からはがそうと動いているが、ビクともしない。
「お友達を投げてしまったのは謝りますが、嫌がる女性を無理やり誘うのもどうかと思います。あなたが腕を掴んでいた彼女の手首、痕がついてます。あなたも謝ってください」
リアが急いでトリンの後ろに移動した。
「この人、潜力めっちゃ高いですよ! 今なら見逃してあげるから、怪我しないうちに帰って」
「謝ってもらわなくていいんですか?」
トリンがリアに振り向きながら尋ねる。
「そんなのどうでもいい! トリンさんその人の手、放しちゃって」
トリンは腑に落ちないようだったが、男の手を放した。
男達はそのまま走ってどこかへ行ってしまった。
おそらくあの男達も潜力がそれなりにあるから、あのような横柄な態度を取っていたのだろう。お酒も入っていたし。
でもトリンには歯が立たないと分かったのね。
トリンが手を放さない間、あの男性はちょっと泣きそうだったもの。
声をかける相手を間違えたってところね。
「リアさん、その手大丈夫ですか?」
「ありえないんだけど~。まあ、トリンさんが蹴散らしてくれたから、ちょっとスッキリしました」
リアの手の痕はそんなに酷いものではない。
あの男性も危害を加えようとしたわけではないだろうから。
明日には薄くなっているでしょう。
「お二人はよく男性に絡まれたりするんですか?」
「まあ、ぼちぼちね」
「怖くないですか? きっと戦いにも不慣れでしょうし。もし私がいなかったら、どうしたんでしょうか?」
「ここは人通りも多いから、大声出したら何とかなりますよ。人が少ない夜道は歩かないようにしてます」
「美人って大変なんですね」
リアの逞しさに、トリンは感心したようだった。
「でもトリンさんがいてくれて助かりました。ありがとうございます」
私もリアもトリンにお礼を述べて、途中で別れた。
「私、ジェイドさんと上手くいかなかったら、トリンさんと一緒に暮らそうかな」
帰り道にリアがよく分からないことを言い出した。
絡まれた時リアは毅然とした態度だったけれど、本当はちょっと怖かったのね。
それにしても、トリンは思っていたよりも戦闘スキルに長けているのかもしれない。
彼女と接点ができたことは、私にとって好都合だった。
茶番はこのくらいにして、自分の目的を果たさなければね。
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