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鬼の章
違和感の正体らしきもの・中
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※長めです。
「君、誰?」
俺は自分の耳を疑った。
「誰、って…」
暁浦は眉をひそめて俺を見る。
「僕の記憶にはない見た目だなぁ…ということは違うクラスかな?」
俺は手のひらに汗が滲むのを感じた。
目の前にいるのは暁浦のはずだ。
暁浦の見た目で、暁浦の声で喋っている。
そのはずなのに、このうまく言えない気持ち悪さはなんだ?このしっくりこない感じは?
こいつは俺の知っている暁浦優じゃない。
「お前は…暁浦じゃ、ない?」
目の前の人物はあっさり頷いた。
「君が言っているのが優のことなら、違うよ。僕は暁浦優じゃない」
「じゃあ、誰だ?」
自分でもびっくりするほどかすれた声が出る。
俺はさっきまで確かに暁浦と喋っていた。
静かに涙をこぼす暁浦を見ていた。
その、はずだ。
だというのに、今ここに座っているのは暁浦ではないという。
暁浦がふざけているのでなければ、だが。
どういうことなのか、全く飲み込めなかった。
暁浦の見た目をした誰かは、自分の顔と頬に触って寂しそうに微笑んだ。
話しているときにいつも暁浦が浮かべているものとは似ても似つかない、どこか人間離れした笑みだった。
俺はなんとなく、偶然廊下ですれ違ったあの時に見かけた虚ろな笑顔を思い出した。
「優…まだ駄目なんだね、雷」
ごく小さな声で呟かれた言葉は、妙に俺の耳に残った。
俺がその内容について問おうとした直前、暁浦の見た目をした…ああもう、暁浦(仮)でいいや…は俺の方を向き直り、にこりと口だけで笑って言った。
「で、まだ答えてもらってないよ。君は誰?」
俺は少しむっとしながら答える。
「いきなり失礼だな…ひとに名前を訊く時は、まず自分から名乗るものだろ」
暁浦(仮)は、朗らかに笑った。
その顔にはもう、さっきまでの涙は見られない。
「あはは、君、なかなか言うね。まあでも君の言うことにも一理あるし、僕から名乗ろうか」
暁浦(仮)はおどけたように片手を胸に添え、小さく頭を下げた。
その仕草にまた違和感が大きくなる。
「僕は暁浦希、以後よろしく。ここにいる暁浦優の兄…って言ったらわかりやすいかな?」
「……は?」
こいつは何を言っているんだ?
ぽかんとする俺を置いて、暁浦(仮)…希というらしい…は、背中を大きくそらして伸びをした。
「いやー、起きたらいきなり知らない奴が目の前にいるとか。流石の僕もちょっとびっくりしたなぁ」
言いながらハンカチを取り出し、乾いた涙が筋を作っている頬を拭いた。
「で、誰?僕は名乗ったよ?」
頭がついていかず、ぽかんとしたままそれを見ていた俺は我に返った。
「あ、ああ。俺は夜部悠久」
「ほほう、あの夜部クンか。あだ名は?」
「は?」
なんだこいつ。
あの夜部クン、と言われて少しイラッとしたが、あだ名は?と聞かれて毒気が削がれた。
暁浦と思考回路がそっくりのようだ。兄妹と言われたら確かに納得である。
「暁浦…暁浦優の方からは、ハルと呼ばれている」
「ハルか!いいじゃん、優もいいのつけるねぇ」
「バカにしてんのかお前」
「してないしてない、してないよ!…っぷ」
「してるだろ!!」
俺は思わず身を乗り出して叫んだ。
暁浦(仮)は肩を震わせて笑っている。
それに気勢を削がれて、俺はため息をついた。
「なあ暁浦(仮)」
暁浦(仮)は嫌そうに顔をしかめた。
「やめてくれない?その呼び方。僕には希って名前があるんだけど。希って呼んでよ」
「俺の中でお前の存在に納得がいったらそうしてやる」
不満そうにしながらも、暁浦(仮)は引き下がって保健室のベッドに座り直した。
「しょうがないな、僕は歳上だからそれくらい付き合ってあげよう。質問をどーぞ!」
ふふん、と胸を張っているのはやはりどこからどう見ても暁浦である。
ぱっと見だけでは、俺には違いがわからない。
ベッドから少し離れたところにあったイスを引きずって持ってきて座る。
「って待て。お前歳上なのか?!」
思わず俺は立ち上がりかけた。
歳上?!暁浦は俺と同じ年齢のはずだぞ?!
ますます訳がわからない。
暁浦(仮)はドヤ顔で胸を張った。
「そう!僕はハルくんより年上だよー。敬え、敬うがいい!」
「……………。」
歳上だなんて何かの間違いとしか思えない。
というか、意味がわからない。
「おい!勝手にくんをつけるな!俺は悠久だ!」
ハルというのも暁浦が勝手に呼び出したものだし、そこにくんまでつけられるともはや俺の名前ではない。
「ええ、いいじゃん。僕は歳上だからね!」
「そこで歳上を主張しなくていい!」
暁浦(仮)はまたけらけらと笑った。
話が進まない……!
俺が少々腹を立てていると、暁浦(仮)はふっと真面目な顔になった。
「まぁ、僕が歳上なのは本当だよ。多分ね」
「多分てお前な…」
何も質問の答えになっていない。
「まあまあ、いいじゃん。質問をどうぞ。そんな長時間は無理だけど答えられることは答えてあげよう」
何故上から目線なんだ、ったく。
気を取り直して俺は質問をすることにした。
他人に不躾に色々訊くのには抵抗があるが、そうも言っていられない。
このままだと気持ち悪いからだ。
「わかった、じゃあ訊かせてもらう」
暁浦(仮)はどこか冷めた表情で俺の言葉を待っている。
俺はまっすぐ目を見て、一番聞きたいと思ったことを口に出した。
「まずお前のことを詳しく教えてくれ」
「え?」
暁浦(仮)は訝しげな顔になった。
俺にしてみれば、何故訝しげな顔をするのかわからないが。
「だってお前、俺の知ってる暁浦じゃないんだろ?そしたら何を話すにせよ、多少の情報はあった方がいいだろ」
「確かにそう、だけど…訊かないの?優の状態とか」
「それは聞きたいが、それより先にお前のことだな。でないと会話に支障が」
「…ぷっ」
今度は俺が顔をしかめた。
「笑うとこじゃないだろう」
「いやいや、僕はこれでも喜んでるんだよ?ハルくん。君はいいひとだね」
暁浦(仮)は嬉しそうに小さく笑った。
「僕のことならいくらでも教えるよ。でも一つ条件」
指を一本ぴんと立て、暁浦(仮)は俺を見返した。
「僕の質問にも答えて。それが条件。いい?君はイイヒトっぽいから、聞いてくれると信じてるけど!」
「…………わかっ」
た、と言い終える前に暁浦(仮)が嬉しそうに俺の手を掴んだ。
意外と柔らかい手に少々ドキリとしたが、それは暁浦(仮)の表情を見ると吹っ飛んだ。
暁浦(仮)はニヤニヤしていた。嬉しそうというより、面白そうである。
「君も男子なんだねぇ」
「…殴っていいか?」
「あっはっは、冗談冗談。で、何から聞きたい?」
俺は深くため息をついた。
なんとも目まぐるしい奴だ。
「まず名前…は、暁浦希…で合ってるか?」
暁浦(仮)は頷いた。
「うん。僕は暁浦希だよ。年齢は十九歳で、優の」
「おい待て待て」
俺は突っ込んだ。
そこから理解できていないのだから、話を飛ばさないでほしい。
「まずその年齢が十九ってのはどういうことなんだ?暁浦の兄とか言ってただろ。そこから意味不明だ」
ああ、と暁浦(仮)もとい希は、遠い目をした。
「事情があってね、かくかくしかじか」
「そうか、大変だな……って分かるか!」
「ノリツッコミありがとう!やっぱり君面白いね、噂とは大違いだよハルくん」
「………本気で殴っていいか」
俺がこぶしを握りしめると、希はひい!と楽しそうに気の抜けた悲鳴(らしきもの)を上げてから真面目な顔に戻った。
「ちょーっと重い話だけど」
真剣な希の目線が俺を射抜く。
「覚悟はある?」
「覚悟…」
自分の喉がごくりと鳴ったのが分かった。
希がさっきまでのようにふざけているわけではないことは分かる。
だが覚悟を問うほど重大な話なのか。そこまでとは正直思っていなかった。
いや、思っていないというべきか。
今この瞬間も、どこか非現実的にふわふわした感じがしていて、目の前で起きていることを俺は信じきれていない。
だって、見知った人がいきなり別人になっているのだ。驚くなという方が無理があるだろう。
でも。
「聞く。その権利が俺にはある」
希はほう?と面白そうな顔をする。
「暁浦、俺を最初に見たとき、いきなり妙な質問をしてきたんだよ。『君は人間?』って。そんなこと聞いてくる時点で俺のこと知ってたんだろう?なら俺も知る権利があるはずだ」
俺は有名人のようだが、俺本人とまともに会話をしようと接触してきた奴は暁浦くらいしかいない。
面白半分とはいえ、俺に直に質問してきたのも暁浦だけだ。
つまり、質問してくる程度には暁浦は俺のことを知っている。
でも俺は暁浦のことを名前とクラスくらいしか知らない。
不公平だとまでは言わないが、俺の静かな休み時間を勝手に侵食してきたのだ。俺にもちょっとくらい知る権利はあると思う。
「初対面で失礼な質問をしてきたのも暁浦くらいだ。普通しないだろ?」
「そうだね。優はちょっと…その…失礼な子だから」
希は明後日の方向を見ながらぼそぼそとそう言った。
うまい言葉が見つからなかったらしい。
「だから今更だ。俺からしてみればお前も大概変だから」
「僕は変じゃないよ?優と比べたら」
「比べる対象間違えてるだろ」
「あ、ばれた?」
希はふう、と息をついた。
「じゃあ話そうかな。と言っても、ほとんど一言で終わるんだけど…」
俺には、この時の希の顔がどこか寂しそうに見えた。
希は逡巡するように口を開きかけ、やめて、もう一度口を開いた。
「優はね。『多重人格』なんだよ」
「君、誰?」
俺は自分の耳を疑った。
「誰、って…」
暁浦は眉をひそめて俺を見る。
「僕の記憶にはない見た目だなぁ…ということは違うクラスかな?」
俺は手のひらに汗が滲むのを感じた。
目の前にいるのは暁浦のはずだ。
暁浦の見た目で、暁浦の声で喋っている。
そのはずなのに、このうまく言えない気持ち悪さはなんだ?このしっくりこない感じは?
こいつは俺の知っている暁浦優じゃない。
「お前は…暁浦じゃ、ない?」
目の前の人物はあっさり頷いた。
「君が言っているのが優のことなら、違うよ。僕は暁浦優じゃない」
「じゃあ、誰だ?」
自分でもびっくりするほどかすれた声が出る。
俺はさっきまで確かに暁浦と喋っていた。
静かに涙をこぼす暁浦を見ていた。
その、はずだ。
だというのに、今ここに座っているのは暁浦ではないという。
暁浦がふざけているのでなければ、だが。
どういうことなのか、全く飲み込めなかった。
暁浦の見た目をした誰かは、自分の顔と頬に触って寂しそうに微笑んだ。
話しているときにいつも暁浦が浮かべているものとは似ても似つかない、どこか人間離れした笑みだった。
俺はなんとなく、偶然廊下ですれ違ったあの時に見かけた虚ろな笑顔を思い出した。
「優…まだ駄目なんだね、雷」
ごく小さな声で呟かれた言葉は、妙に俺の耳に残った。
俺がその内容について問おうとした直前、暁浦の見た目をした…ああもう、暁浦(仮)でいいや…は俺の方を向き直り、にこりと口だけで笑って言った。
「で、まだ答えてもらってないよ。君は誰?」
俺は少しむっとしながら答える。
「いきなり失礼だな…ひとに名前を訊く時は、まず自分から名乗るものだろ」
暁浦(仮)は、朗らかに笑った。
その顔にはもう、さっきまでの涙は見られない。
「あはは、君、なかなか言うね。まあでも君の言うことにも一理あるし、僕から名乗ろうか」
暁浦(仮)はおどけたように片手を胸に添え、小さく頭を下げた。
その仕草にまた違和感が大きくなる。
「僕は暁浦希、以後よろしく。ここにいる暁浦優の兄…って言ったらわかりやすいかな?」
「……は?」
こいつは何を言っているんだ?
ぽかんとする俺を置いて、暁浦(仮)…希というらしい…は、背中を大きくそらして伸びをした。
「いやー、起きたらいきなり知らない奴が目の前にいるとか。流石の僕もちょっとびっくりしたなぁ」
言いながらハンカチを取り出し、乾いた涙が筋を作っている頬を拭いた。
「で、誰?僕は名乗ったよ?」
頭がついていかず、ぽかんとしたままそれを見ていた俺は我に返った。
「あ、ああ。俺は夜部悠久」
「ほほう、あの夜部クンか。あだ名は?」
「は?」
なんだこいつ。
あの夜部クン、と言われて少しイラッとしたが、あだ名は?と聞かれて毒気が削がれた。
暁浦と思考回路がそっくりのようだ。兄妹と言われたら確かに納得である。
「暁浦…暁浦優の方からは、ハルと呼ばれている」
「ハルか!いいじゃん、優もいいのつけるねぇ」
「バカにしてんのかお前」
「してないしてない、してないよ!…っぷ」
「してるだろ!!」
俺は思わず身を乗り出して叫んだ。
暁浦(仮)は肩を震わせて笑っている。
それに気勢を削がれて、俺はため息をついた。
「なあ暁浦(仮)」
暁浦(仮)は嫌そうに顔をしかめた。
「やめてくれない?その呼び方。僕には希って名前があるんだけど。希って呼んでよ」
「俺の中でお前の存在に納得がいったらそうしてやる」
不満そうにしながらも、暁浦(仮)は引き下がって保健室のベッドに座り直した。
「しょうがないな、僕は歳上だからそれくらい付き合ってあげよう。質問をどーぞ!」
ふふん、と胸を張っているのはやはりどこからどう見ても暁浦である。
ぱっと見だけでは、俺には違いがわからない。
ベッドから少し離れたところにあったイスを引きずって持ってきて座る。
「って待て。お前歳上なのか?!」
思わず俺は立ち上がりかけた。
歳上?!暁浦は俺と同じ年齢のはずだぞ?!
ますます訳がわからない。
暁浦(仮)はドヤ顔で胸を張った。
「そう!僕はハルくんより年上だよー。敬え、敬うがいい!」
「……………。」
歳上だなんて何かの間違いとしか思えない。
というか、意味がわからない。
「おい!勝手にくんをつけるな!俺は悠久だ!」
ハルというのも暁浦が勝手に呼び出したものだし、そこにくんまでつけられるともはや俺の名前ではない。
「ええ、いいじゃん。僕は歳上だからね!」
「そこで歳上を主張しなくていい!」
暁浦(仮)はまたけらけらと笑った。
話が進まない……!
俺が少々腹を立てていると、暁浦(仮)はふっと真面目な顔になった。
「まぁ、僕が歳上なのは本当だよ。多分ね」
「多分てお前な…」
何も質問の答えになっていない。
「まあまあ、いいじゃん。質問をどうぞ。そんな長時間は無理だけど答えられることは答えてあげよう」
何故上から目線なんだ、ったく。
気を取り直して俺は質問をすることにした。
他人に不躾に色々訊くのには抵抗があるが、そうも言っていられない。
このままだと気持ち悪いからだ。
「わかった、じゃあ訊かせてもらう」
暁浦(仮)はどこか冷めた表情で俺の言葉を待っている。
俺はまっすぐ目を見て、一番聞きたいと思ったことを口に出した。
「まずお前のことを詳しく教えてくれ」
「え?」
暁浦(仮)は訝しげな顔になった。
俺にしてみれば、何故訝しげな顔をするのかわからないが。
「だってお前、俺の知ってる暁浦じゃないんだろ?そしたら何を話すにせよ、多少の情報はあった方がいいだろ」
「確かにそう、だけど…訊かないの?優の状態とか」
「それは聞きたいが、それより先にお前のことだな。でないと会話に支障が」
「…ぷっ」
今度は俺が顔をしかめた。
「笑うとこじゃないだろう」
「いやいや、僕はこれでも喜んでるんだよ?ハルくん。君はいいひとだね」
暁浦(仮)は嬉しそうに小さく笑った。
「僕のことならいくらでも教えるよ。でも一つ条件」
指を一本ぴんと立て、暁浦(仮)は俺を見返した。
「僕の質問にも答えて。それが条件。いい?君はイイヒトっぽいから、聞いてくれると信じてるけど!」
「…………わかっ」
た、と言い終える前に暁浦(仮)が嬉しそうに俺の手を掴んだ。
意外と柔らかい手に少々ドキリとしたが、それは暁浦(仮)の表情を見ると吹っ飛んだ。
暁浦(仮)はニヤニヤしていた。嬉しそうというより、面白そうである。
「君も男子なんだねぇ」
「…殴っていいか?」
「あっはっは、冗談冗談。で、何から聞きたい?」
俺は深くため息をついた。
なんとも目まぐるしい奴だ。
「まず名前…は、暁浦希…で合ってるか?」
暁浦(仮)は頷いた。
「うん。僕は暁浦希だよ。年齢は十九歳で、優の」
「おい待て待て」
俺は突っ込んだ。
そこから理解できていないのだから、話を飛ばさないでほしい。
「まずその年齢が十九ってのはどういうことなんだ?暁浦の兄とか言ってただろ。そこから意味不明だ」
ああ、と暁浦(仮)もとい希は、遠い目をした。
「事情があってね、かくかくしかじか」
「そうか、大変だな……って分かるか!」
「ノリツッコミありがとう!やっぱり君面白いね、噂とは大違いだよハルくん」
「………本気で殴っていいか」
俺がこぶしを握りしめると、希はひい!と楽しそうに気の抜けた悲鳴(らしきもの)を上げてから真面目な顔に戻った。
「ちょーっと重い話だけど」
真剣な希の目線が俺を射抜く。
「覚悟はある?」
「覚悟…」
自分の喉がごくりと鳴ったのが分かった。
希がさっきまでのようにふざけているわけではないことは分かる。
だが覚悟を問うほど重大な話なのか。そこまでとは正直思っていなかった。
いや、思っていないというべきか。
今この瞬間も、どこか非現実的にふわふわした感じがしていて、目の前で起きていることを俺は信じきれていない。
だって、見知った人がいきなり別人になっているのだ。驚くなという方が無理があるだろう。
でも。
「聞く。その権利が俺にはある」
希はほう?と面白そうな顔をする。
「暁浦、俺を最初に見たとき、いきなり妙な質問をしてきたんだよ。『君は人間?』って。そんなこと聞いてくる時点で俺のこと知ってたんだろう?なら俺も知る権利があるはずだ」
俺は有名人のようだが、俺本人とまともに会話をしようと接触してきた奴は暁浦くらいしかいない。
面白半分とはいえ、俺に直に質問してきたのも暁浦だけだ。
つまり、質問してくる程度には暁浦は俺のことを知っている。
でも俺は暁浦のことを名前とクラスくらいしか知らない。
不公平だとまでは言わないが、俺の静かな休み時間を勝手に侵食してきたのだ。俺にもちょっとくらい知る権利はあると思う。
「初対面で失礼な質問をしてきたのも暁浦くらいだ。普通しないだろ?」
「そうだね。優はちょっと…その…失礼な子だから」
希は明後日の方向を見ながらぼそぼそとそう言った。
うまい言葉が見つからなかったらしい。
「だから今更だ。俺からしてみればお前も大概変だから」
「僕は変じゃないよ?優と比べたら」
「比べる対象間違えてるだろ」
「あ、ばれた?」
希はふう、と息をついた。
「じゃあ話そうかな。と言っても、ほとんど一言で終わるんだけど…」
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