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1-2. 行方不明者四名
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翌朝、ザイマ達と巡回を交代するために来た墓守が、大量の血痕が墓地の一角を朱殷に彩っている光景を発見した。
その後、あの夜あの墓地を巡回していた四人の墓守全員が行方不明になっている事が判明し、それらの事実はすぐに、バビリア王国第三騎士団本部:ファイロットに伝えられた。
「可能性として一番に考えられるのは、どこぞの信仰なき人間、それも恐らく複数人が、武装した第三騎士団の騎士達を殺害し、遺体を別の場所に遺棄したという事でしょう。ゾンビによって殺されたのだとしたら死体が残るはずですし、そもそもゾンビ程度に殺されるような騎士はいません」
本部二階にある執務室で、極めて冷静な口調でそう言うのは、第三騎士団副団長シェーラ・ヴィルフェリア。女性でありながら齢二十八で第三騎士団の№2にまで上り詰めた秀才で、厳格な騎士道精神の信奉者。
「死体が出たわけでもないのに、我が騎士団の一員達が死んだ前提で話をするのはどうかと思うぞ」
そんな彼女の意見をたしなめるのは、バビリア王国第三騎士団の統括である、騎士団長バーデン・トラジェント。肉体的な衰えが来るはずの四十台後半でありながら、他の騎士を圧倒する剣と魔法の技量を持ち、他の王国騎士団の団長からも一目置かれるほどの豪傑。
「死んでいないのだとしたら職務放棄です。自分の使命を忘れて生きるような騎士の恥晒しなど、死んでいなくても私が殺します」
「仮にも王国法の庇護下にある人間、ましてや人民の規範たるべき騎士が、私情で殺人予告なんてするもんじゃないだろ」
「私情じゃありません。騎士としての誇りを失った愚か者に制裁を与えるだけです。自らの命よりも自らの使命を優先せよと、騎士道全書にも記載されています」
「確かに、騎士道全書に書かれている騎士としての立ち居振る舞い方は大いに参考とされるべきだが、記載事項に法的拘束力はないだろう。それに対し殺人は、道徳的にも法的にもアウトだ」
「どうせ死んでいるでしょうから、この議論に意味はないと思いますよ」
シェーラがばっさりと会話を切ったところで、議論は現実的なものへと変わっていく。
「で、人民を取り締まるための警察組織である第二騎士団ならまだしも、どうして、人類にとっての共通悪である魔獣を討伐するための組織である我ら第三騎士団の騎士が、四人も、人間に殺されなくちゃいけないんだ」
第三騎士団員が四人とも人間に殺されたのだとすれば、殺した人間は騎士個人に怨みがあるのではなく、第三騎士団自体に怨みがあると考えるのが妥当だ。
しかし、魔獣被害を激減させた第三騎士団は、人民から称賛される事こそあれど、怨恨の対象となる事はほとんど無かった。
「動機なんてどうでもいいです。最初に述べた仮定が一番現実的なんですから。それとも、騎士達を殺害し、その死体を装備ごと丸呑みに出来るような怪物が出現したとでも言うつもりですか」
「それを言うなら、武装した騎士を四人も殺せる人間がいるって仮説も現実的ではないだろ」
短く整えられた髭を触りながら、バーデンは難しい顔をする。
魔獣という奇々怪々な存在を相手取る職業柄、常識に基づいた妥当な見解を鵜呑みする事で何度も痛い目にあった事があるバーデンは、情報の少ない状況で立てた仮説を信用しきる事の危うさを理解していた。
また、彼には別の心配もあった。
「それにだ、これが単なる殺人事件だとしたら、管轄は第二騎士団だ。人間しか相手にしていない連中が、普段から対魔獣を想定した訓練をしている我々の仲間を四人も殺せるほど実力を持つ犯人を、簡単に捕まえられるとは思えん」
平和の代償として、騎士の剣は錆び付いた。
死の恐怖を身近に感じない環境下で、多くの騎士達は訓練を疎かにしがちになっていたのだ。その空気感を、第三騎士団の長として他の騎士団との接触が多いバーデンは肌で感じていた。
「……わかりました。この件は魔獣被害として第三騎士団が請け負うという旨の書類を、議会に提出しておきます」
バーデンの見解に否定すべき点が無かったシェーラは、書類作成のために執務室を後にする。
「仕事を増やしてすまんな」
シェーラの背中に、バーデンは言った。
「多くの騎士の上に立つ騎士団長が、そんなに簡単に謝らないでください。あなたの判断が間違っていると感じたら、こちらから謝罪を求めます」
立ち止まったシェーラは、振り返ることなくそう言った。
「ああ、よろしく頼む」
かくして、惨劇の舞台に魔獣討伐の専門家が上がった。
その後、あの夜あの墓地を巡回していた四人の墓守全員が行方不明になっている事が判明し、それらの事実はすぐに、バビリア王国第三騎士団本部:ファイロットに伝えられた。
「可能性として一番に考えられるのは、どこぞの信仰なき人間、それも恐らく複数人が、武装した第三騎士団の騎士達を殺害し、遺体を別の場所に遺棄したという事でしょう。ゾンビによって殺されたのだとしたら死体が残るはずですし、そもそもゾンビ程度に殺されるような騎士はいません」
本部二階にある執務室で、極めて冷静な口調でそう言うのは、第三騎士団副団長シェーラ・ヴィルフェリア。女性でありながら齢二十八で第三騎士団の№2にまで上り詰めた秀才で、厳格な騎士道精神の信奉者。
「死体が出たわけでもないのに、我が騎士団の一員達が死んだ前提で話をするのはどうかと思うぞ」
そんな彼女の意見をたしなめるのは、バビリア王国第三騎士団の統括である、騎士団長バーデン・トラジェント。肉体的な衰えが来るはずの四十台後半でありながら、他の騎士を圧倒する剣と魔法の技量を持ち、他の王国騎士団の団長からも一目置かれるほどの豪傑。
「死んでいないのだとしたら職務放棄です。自分の使命を忘れて生きるような騎士の恥晒しなど、死んでいなくても私が殺します」
「仮にも王国法の庇護下にある人間、ましてや人民の規範たるべき騎士が、私情で殺人予告なんてするもんじゃないだろ」
「私情じゃありません。騎士としての誇りを失った愚か者に制裁を与えるだけです。自らの命よりも自らの使命を優先せよと、騎士道全書にも記載されています」
「確かに、騎士道全書に書かれている騎士としての立ち居振る舞い方は大いに参考とされるべきだが、記載事項に法的拘束力はないだろう。それに対し殺人は、道徳的にも法的にもアウトだ」
「どうせ死んでいるでしょうから、この議論に意味はないと思いますよ」
シェーラがばっさりと会話を切ったところで、議論は現実的なものへと変わっていく。
「で、人民を取り締まるための警察組織である第二騎士団ならまだしも、どうして、人類にとっての共通悪である魔獣を討伐するための組織である我ら第三騎士団の騎士が、四人も、人間に殺されなくちゃいけないんだ」
第三騎士団員が四人とも人間に殺されたのだとすれば、殺した人間は騎士個人に怨みがあるのではなく、第三騎士団自体に怨みがあると考えるのが妥当だ。
しかし、魔獣被害を激減させた第三騎士団は、人民から称賛される事こそあれど、怨恨の対象となる事はほとんど無かった。
「動機なんてどうでもいいです。最初に述べた仮定が一番現実的なんですから。それとも、騎士達を殺害し、その死体を装備ごと丸呑みに出来るような怪物が出現したとでも言うつもりですか」
「それを言うなら、武装した騎士を四人も殺せる人間がいるって仮説も現実的ではないだろ」
短く整えられた髭を触りながら、バーデンは難しい顔をする。
魔獣という奇々怪々な存在を相手取る職業柄、常識に基づいた妥当な見解を鵜呑みする事で何度も痛い目にあった事があるバーデンは、情報の少ない状況で立てた仮説を信用しきる事の危うさを理解していた。
また、彼には別の心配もあった。
「それにだ、これが単なる殺人事件だとしたら、管轄は第二騎士団だ。人間しか相手にしていない連中が、普段から対魔獣を想定した訓練をしている我々の仲間を四人も殺せるほど実力を持つ犯人を、簡単に捕まえられるとは思えん」
平和の代償として、騎士の剣は錆び付いた。
死の恐怖を身近に感じない環境下で、多くの騎士達は訓練を疎かにしがちになっていたのだ。その空気感を、第三騎士団の長として他の騎士団との接触が多いバーデンは肌で感じていた。
「……わかりました。この件は魔獣被害として第三騎士団が請け負うという旨の書類を、議会に提出しておきます」
バーデンの見解に否定すべき点が無かったシェーラは、書類作成のために執務室を後にする。
「仕事を増やしてすまんな」
シェーラの背中に、バーデンは言った。
「多くの騎士の上に立つ騎士団長が、そんなに簡単に謝らないでください。あなたの判断が間違っていると感じたら、こちらから謝罪を求めます」
立ち止まったシェーラは、振り返ることなくそう言った。
「ああ、よろしく頼む」
かくして、惨劇の舞台に魔獣討伐の専門家が上がった。
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