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2-2. 無神論者の修道騎士
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修道騎士。
それは、俗世から離れた山奥でひたすら神に祈りを捧げる修行生活の後に、騎士としての鍛錬を積んだ者に与えられる称号であり、教会の中でも特に信仰心の厚い存在を指す言葉。
だが、どんな集団にも例外はいる。
突如として枢機卿から直々に呼び出され、勇者という御伽噺のような存在ついての説明を受けた後に、「勇者に同伴して行動を監視し、適宜報告せよ。これは重要任務であるがゆえ、命に代えても完遂して欲しい」という命令を与えられた修道騎士、ディエス・ロアソレークは心の内で叫んだ。
(どうして俺なんだ!)
勿論、体裁上は信仰に厚い修道騎士である彼は、そんな感情を全て呑み込み、「御意」と一言で返答した。
安定した地位と安全な生活を獲得するためだけに神へ祈る演技を続けて修道騎士となった彼に、自分の命よりも大事なものなど無い。
けれど、教会という巨大組織に組み込まれた歯車の一つとして十年間回り続けていた彼に、上司からの命令を拒む事など出来るはずもなかった。
「面倒な事になったなぁ」
自分の部屋に戻った彼が唯一出来た反抗は、誰かに聞かせたいわけでもない小言を、ベッドの上で呟くくらいだった。
翌朝、太陽が地平線から顔を覗かせたばかりの時間帯に、鉛のような足をなんとか動かしてヴァイガルム大聖堂内の指定された場所へと向かった彼は、その場所で一人の少女が佇んでいる事に気付いた。
透き通るような白い髪を肩口まで垂らし、やけに格調の高い剣を腰に携えた少女は、深い湖のような青色の瞳で彼の目を見つめた。
「あなたが私の同伴者として選ばれた方ですね。本日から、よろしくお願いします」
目の前で凛と立つ可憐な少女が、昨日説明を受けた勇者とかいう存在であるという事実を認められなかった彼は、しばらく茫然としてしまい、言葉を返すまでに数舜かかった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「では、行きましょう」
男との挨拶を交わした少女は、早速大聖堂の外へと歩き出した。
教会の最高機密であるため滅多に外へ出る機会が無かった彼女は、地図上で大雑把にしか首都の道を把握していない。
けれど、彼女の歩みに迷いは無かった。
彼女は、自分の直感のみに従っていたから。
自分がこっちだと思った方向に、どこへ向かっているのかなんて考える事なく、小綺麗な人々が闊歩する石畳の大通りから逸れ、両側に露店が立ち並ぶ繁華街を通過し、地図には載っていない路地から路地へと。
その結果、少女と男は首都南西部の貧民街:フラジェイスにいた。
「この店で食事を取りましょうか」
飲食店らしき看板を引っさげた小屋を見つけた少女が一瞬の迷いなく中に入ろうとするのを、今まで無言で付き従ってきた男が引き止めた。
「ちょっと待って下さい。この辺りが何と呼ばれているのかご存じないのですか」
”神が死んだ街“という俗称で知られているこの場所では、バビリア王国の発展に取り残された人々と、その人間を食い物にしているギャングとかが、麻薬と暴力と汚いお金に塗れながら腐った生活している。
一応、この街にも警察組織である第二騎士団が常駐しているのだけれど、彼らが取り締まるのは一部の小悪党だけで、腐敗の根源である諸組織は野放しにされている。
理由は賄賂。正義はお金で買える。
「何と呼ばれていようと、食堂があるのですから食事が出来るはずです」
「その食事に何が入っているのか分からないような場所なんですよ」
「どんな場所に住んでいようと、人は人です。そして、人の善意を信じるのが勇者たる私の務めです」
”信じる者は救われる”なんて事を宣えるのは、全ての人間が信じるに値すると錯覚してしまうほど安全な環境下で育てられた人間だけだと思っている男と違い、神と人間を全面的に信頼している少女に、他人の善意を疑うという考えは無い。
「……分かりました」
先に折れたのは男の方。
優秀な修道騎士である彼の得意技は、妥協と諦めだ。
それは、俗世から離れた山奥でひたすら神に祈りを捧げる修行生活の後に、騎士としての鍛錬を積んだ者に与えられる称号であり、教会の中でも特に信仰心の厚い存在を指す言葉。
だが、どんな集団にも例外はいる。
突如として枢機卿から直々に呼び出され、勇者という御伽噺のような存在ついての説明を受けた後に、「勇者に同伴して行動を監視し、適宜報告せよ。これは重要任務であるがゆえ、命に代えても完遂して欲しい」という命令を与えられた修道騎士、ディエス・ロアソレークは心の内で叫んだ。
(どうして俺なんだ!)
勿論、体裁上は信仰に厚い修道騎士である彼は、そんな感情を全て呑み込み、「御意」と一言で返答した。
安定した地位と安全な生活を獲得するためだけに神へ祈る演技を続けて修道騎士となった彼に、自分の命よりも大事なものなど無い。
けれど、教会という巨大組織に組み込まれた歯車の一つとして十年間回り続けていた彼に、上司からの命令を拒む事など出来るはずもなかった。
「面倒な事になったなぁ」
自分の部屋に戻った彼が唯一出来た反抗は、誰かに聞かせたいわけでもない小言を、ベッドの上で呟くくらいだった。
翌朝、太陽が地平線から顔を覗かせたばかりの時間帯に、鉛のような足をなんとか動かしてヴァイガルム大聖堂内の指定された場所へと向かった彼は、その場所で一人の少女が佇んでいる事に気付いた。
透き通るような白い髪を肩口まで垂らし、やけに格調の高い剣を腰に携えた少女は、深い湖のような青色の瞳で彼の目を見つめた。
「あなたが私の同伴者として選ばれた方ですね。本日から、よろしくお願いします」
目の前で凛と立つ可憐な少女が、昨日説明を受けた勇者とかいう存在であるという事実を認められなかった彼は、しばらく茫然としてしまい、言葉を返すまでに数舜かかった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「では、行きましょう」
男との挨拶を交わした少女は、早速大聖堂の外へと歩き出した。
教会の最高機密であるため滅多に外へ出る機会が無かった彼女は、地図上で大雑把にしか首都の道を把握していない。
けれど、彼女の歩みに迷いは無かった。
彼女は、自分の直感のみに従っていたから。
自分がこっちだと思った方向に、どこへ向かっているのかなんて考える事なく、小綺麗な人々が闊歩する石畳の大通りから逸れ、両側に露店が立ち並ぶ繁華街を通過し、地図には載っていない路地から路地へと。
その結果、少女と男は首都南西部の貧民街:フラジェイスにいた。
「この店で食事を取りましょうか」
飲食店らしき看板を引っさげた小屋を見つけた少女が一瞬の迷いなく中に入ろうとするのを、今まで無言で付き従ってきた男が引き止めた。
「ちょっと待って下さい。この辺りが何と呼ばれているのかご存じないのですか」
”神が死んだ街“という俗称で知られているこの場所では、バビリア王国の発展に取り残された人々と、その人間を食い物にしているギャングとかが、麻薬と暴力と汚いお金に塗れながら腐った生活している。
一応、この街にも警察組織である第二騎士団が常駐しているのだけれど、彼らが取り締まるのは一部の小悪党だけで、腐敗の根源である諸組織は野放しにされている。
理由は賄賂。正義はお金で買える。
「何と呼ばれていようと、食堂があるのですから食事が出来るはずです」
「その食事に何が入っているのか分からないような場所なんですよ」
「どんな場所に住んでいようと、人は人です。そして、人の善意を信じるのが勇者たる私の務めです」
”信じる者は救われる”なんて事を宣えるのは、全ての人間が信じるに値すると錯覚してしまうほど安全な環境下で育てられた人間だけだと思っている男と違い、神と人間を全面的に信頼している少女に、他人の善意を疑うという考えは無い。
「……分かりました」
先に折れたのは男の方。
優秀な修道騎士である彼の得意技は、妥協と諦めだ。
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