8 / 29
3-1. 騎士団の調査経過
しおりを挟む
騎士団員殺人事件の調査を開始してから、三日が経った。
「事件が発生した墓地周辺を調査していますが、今のところ有益だと思われる情報は得られていません」
第三騎士団副団長は、相変わらずの冷めた口調で淡々とした現状報告を行う。
「しかし、教会もこの事件について調べているようで、調査に向かわせた我々の騎士団員が、教会の騎士団員らしき者を何度か目撃しています」
議会の管轄機関である第一から第三までの騎士団とは別に、教会は独自の騎士団を保有している。
教会の永世中立を護るために結成された、正式名称のないこの騎士団――通称:盾の騎士団は、構成員数的には大国と比較しても引けを取らない軍隊ではあるけれど、常備軍というわけではなく、少数の専属騎士(修道騎士もこれに含まれる)を除く大半の兵士は平時の際、教会関係の労働に従事している。
「教会が動いてるって事は、十中八九良からぬ天啓があったんだろうな」
第三騎士団長は、中身の殆どないであろう調査報告書をしかめっ面で斜め読みしながら、この事件が当初想定していた以上の面倒事になりつつあるという予感に、溜息を吐いた。
「まあ、そうでしょうね。以前、大型魔獣の襲来が予言された時は、最終的に我々への協力要請が来ましたし、今回も内々で調査して解決案を出した後、我々か第二騎士団に投げてくるのかもしれません」
「だとしても、教会が協力要請してくるのは大規模な武力行使が必要になった時だけだ。あいつらの隠蔽体質はもう少しどうにかなって欲しいが、情報が上がってこないのだから、こちらとしても調査を止めるわけにはいくまい」
最近の盾の騎士の任務は、専ら諜報活動だ。
国家間の諍いが滅多に起こらず、中立の立場を脅かされる危険性が薄れていた教会は次第に、神の慈悲の代行者として信者の安全を守護するため、一部の専属騎士を動員するようになった。
彼らの行動はいつも突発的で、動き出した当初は、教会が武力蜂起によって国を乗っ取ろうとしている前兆だと考えた議会が大慌てしたものだ。
後に教会から「我々は神から与えられた天啓に基づき、信仰を捧げる全ての人民、またその人民達によって構成されている主体である国家を護るため、兵を動かしているに過ぎない」という、国家転覆の疑いに対する否定的声明が出され、この騒動は一件落着となったのだけれど、その影響からか教会も大規模な軍事行動を避けるようになり、信者の守護のために大規模な武力行使が必要だと判断された時には、その国の議会に協力を要請するようになった。
「天啓などという説得力皆無の未来予知に、客観的な信憑性を持たせるために調査を行うというのは至極当然の流れですが、今までの功績を鑑みれば、天啓があった時点で議会にその内容を報告してくれさえすれば議会管轄の騎士団が解決に動くでしょう。それなのに教会は、自身の組織で調査した情報しか報告してこない。これってどういう事なんですかね」
逆に言うと、教会は自身が調査した情報しか議会側に提供せず、天啓の原文自体は公開された事がない。
「大方、天啓っての自体が具体性を欠いたものなんだろう。具体的にいつ、どこで、何が起きるのか分かっているのなら、調査なんてせずにそれっぽい嘘を吐いて議会を動かせばいい。教会からの進言を議会も無下には出来ないだろうし、正しさの証明は未来がしてくれるんだからな」
「抽象的であるなら尚更、早期から議会と協力すべきなんじゃないですか。調査するにしても、人数をかけた方が早く結論に辿り着けると思うのですが」
「皆が皆、お前みたいに事件解決が最優先なわけじゃない」
教会が何よりも守りたいのは、一人の信者の命ではなく、多くの信者達からの信仰。
予言された災厄が予防できる可能性を上げるより、災厄が起こってしまった時に怒りの矛先を向けられない事の方が、教会にとって大切。
だから恐らく、教会は予言された災厄が解決できるか否かを自力で判断し、解決出来る時は議会等に協力を要請し、解決出来ない時は見て見ぬふりを決め込むようにしているのだろう――と、バーデンは考えている。あくまで憶測に過ぎないので、考えるにとどめているが。
「私と違ってしがらみが多そうですからね、上流階級の人達って」
呆れたような眼差しで、シェーラはバーデンを見つめる。
「上から見ると、守らなきゃいけないものが多すぎるんだよ。自分の地位とか、部下の生活とかな。人類皆平等って口じゃ言うが、どうしても自分や、自分の周りの人間を優先しちまうんだ。人民を護るための騎士だってのにな」
その眼差しを受け、バーデンは苦笑いで言い訳をする。
「別に、あなたの批判をしていたんじゃないんですけど」
「一緒だよ。俺も、教会にいる連中も。一度高いところまで昇ると降りるのが怖くなるし、自分の部下達が他人よりも可愛い」
自分の事を買い被っている節があるシェーラに、バーデンは諭すように言う。
その言葉を受け、シェーラは微笑して言葉を返す。
「別に、身近な人を優先してもいいんじゃないですか。その上で人民を護れるのであれば、誰も文句は言えないでしょう。騎士道全書にも、人民全員を等しく愛せとは書かれていませんし」
恥ずかしいほど清々しい理想を、さも当然だというように話すシェーラに、バーデンは新芽のような若さを感じた。良い意味でも、悪い意味でも。
「さ、手が止まってますよ。仕事してください」
「はいはい」
そうして、部屋には紙をめくる音のみが残った。
「事件が発生した墓地周辺を調査していますが、今のところ有益だと思われる情報は得られていません」
第三騎士団副団長は、相変わらずの冷めた口調で淡々とした現状報告を行う。
「しかし、教会もこの事件について調べているようで、調査に向かわせた我々の騎士団員が、教会の騎士団員らしき者を何度か目撃しています」
議会の管轄機関である第一から第三までの騎士団とは別に、教会は独自の騎士団を保有している。
教会の永世中立を護るために結成された、正式名称のないこの騎士団――通称:盾の騎士団は、構成員数的には大国と比較しても引けを取らない軍隊ではあるけれど、常備軍というわけではなく、少数の専属騎士(修道騎士もこれに含まれる)を除く大半の兵士は平時の際、教会関係の労働に従事している。
「教会が動いてるって事は、十中八九良からぬ天啓があったんだろうな」
第三騎士団長は、中身の殆どないであろう調査報告書をしかめっ面で斜め読みしながら、この事件が当初想定していた以上の面倒事になりつつあるという予感に、溜息を吐いた。
「まあ、そうでしょうね。以前、大型魔獣の襲来が予言された時は、最終的に我々への協力要請が来ましたし、今回も内々で調査して解決案を出した後、我々か第二騎士団に投げてくるのかもしれません」
「だとしても、教会が協力要請してくるのは大規模な武力行使が必要になった時だけだ。あいつらの隠蔽体質はもう少しどうにかなって欲しいが、情報が上がってこないのだから、こちらとしても調査を止めるわけにはいくまい」
最近の盾の騎士の任務は、専ら諜報活動だ。
国家間の諍いが滅多に起こらず、中立の立場を脅かされる危険性が薄れていた教会は次第に、神の慈悲の代行者として信者の安全を守護するため、一部の専属騎士を動員するようになった。
彼らの行動はいつも突発的で、動き出した当初は、教会が武力蜂起によって国を乗っ取ろうとしている前兆だと考えた議会が大慌てしたものだ。
後に教会から「我々は神から与えられた天啓に基づき、信仰を捧げる全ての人民、またその人民達によって構成されている主体である国家を護るため、兵を動かしているに過ぎない」という、国家転覆の疑いに対する否定的声明が出され、この騒動は一件落着となったのだけれど、その影響からか教会も大規模な軍事行動を避けるようになり、信者の守護のために大規模な武力行使が必要だと判断された時には、その国の議会に協力を要請するようになった。
「天啓などという説得力皆無の未来予知に、客観的な信憑性を持たせるために調査を行うというのは至極当然の流れですが、今までの功績を鑑みれば、天啓があった時点で議会にその内容を報告してくれさえすれば議会管轄の騎士団が解決に動くでしょう。それなのに教会は、自身の組織で調査した情報しか報告してこない。これってどういう事なんですかね」
逆に言うと、教会は自身が調査した情報しか議会側に提供せず、天啓の原文自体は公開された事がない。
「大方、天啓っての自体が具体性を欠いたものなんだろう。具体的にいつ、どこで、何が起きるのか分かっているのなら、調査なんてせずにそれっぽい嘘を吐いて議会を動かせばいい。教会からの進言を議会も無下には出来ないだろうし、正しさの証明は未来がしてくれるんだからな」
「抽象的であるなら尚更、早期から議会と協力すべきなんじゃないですか。調査するにしても、人数をかけた方が早く結論に辿り着けると思うのですが」
「皆が皆、お前みたいに事件解決が最優先なわけじゃない」
教会が何よりも守りたいのは、一人の信者の命ではなく、多くの信者達からの信仰。
予言された災厄が予防できる可能性を上げるより、災厄が起こってしまった時に怒りの矛先を向けられない事の方が、教会にとって大切。
だから恐らく、教会は予言された災厄が解決できるか否かを自力で判断し、解決出来る時は議会等に協力を要請し、解決出来ない時は見て見ぬふりを決め込むようにしているのだろう――と、バーデンは考えている。あくまで憶測に過ぎないので、考えるにとどめているが。
「私と違ってしがらみが多そうですからね、上流階級の人達って」
呆れたような眼差しで、シェーラはバーデンを見つめる。
「上から見ると、守らなきゃいけないものが多すぎるんだよ。自分の地位とか、部下の生活とかな。人類皆平等って口じゃ言うが、どうしても自分や、自分の周りの人間を優先しちまうんだ。人民を護るための騎士だってのにな」
その眼差しを受け、バーデンは苦笑いで言い訳をする。
「別に、あなたの批判をしていたんじゃないんですけど」
「一緒だよ。俺も、教会にいる連中も。一度高いところまで昇ると降りるのが怖くなるし、自分の部下達が他人よりも可愛い」
自分の事を買い被っている節があるシェーラに、バーデンは諭すように言う。
その言葉を受け、シェーラは微笑して言葉を返す。
「別に、身近な人を優先してもいいんじゃないですか。その上で人民を護れるのであれば、誰も文句は言えないでしょう。騎士道全書にも、人民全員を等しく愛せとは書かれていませんし」
恥ずかしいほど清々しい理想を、さも当然だというように話すシェーラに、バーデンは新芽のような若さを感じた。良い意味でも、悪い意味でも。
「さ、手が止まってますよ。仕事してください」
「はいはい」
そうして、部屋には紙をめくる音のみが残った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話
トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる