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4-2. 教会への報告書
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「これからどうするつもりなんですか」
日が沈み、天井から吊り下がったランプの捻りを回し、明かりをつけた男は、窓を見つめるラリアに問いかける。
返事を待っている間、ディエスは鞄から万年筆と洋墨、書類挟みに挟まっている羊皮紙を取り出し、洋墨の蓋を開ける。
「どうもしませんよ。昨日までと同じです。行くべきだと思ったところに歩いていくだけです」
ラリアは、先ほどまでの自分と同じような不安を、男も感じているのかもしれないと思った。
だが、それは違った。
男は、修道騎士としての誇りや信念、正義感とかいうものを、全く持ち合わせてなかった。だから、「この行動は人民の為になっているのだろうか?」なんてこと、考えてやいない。
男は仕事をしていた。
教会からの指示は、「勇者の行動を適宜報告せよ」というもの。
勇者を監視してもう一週間も経つ。このまま寝てしまいたくても、流石に何かしらの報告をするべきだった。
万年筆に洋墨を付け、すらすらと紙の上で滑らせる。
とりあえず書くのは、報告書としての体裁を整えるための形式的な文章。
適切に行間や段落を変え、<日付:ラプラス歴29年4月21日、宛先:教会本部御中、報告者:ディエス・ロアソレーク、件名:勇者の行動に関する報告書>というところまで一息に走り書く。
「何書いているんですか?」
ラリアは、男が何かしている事に気付いた。
「教会への報告書です。あなたの事を書いてるんですよ」
男は、紙から顔を上げずに言う。
別に教会から、報告している事を勇者に隠せとは言われていない。
「へ~」
ラリアは興味本位で男が書いている紙を覗き込み、男の名がディエス・ロアソレークと言う事を今更ながらに知った。
ラリアにとっても、自分の行動が教会に報告されている事は想定通りだった。
ただ、ディエスがその役割を担っているとは思っていなかった。
ディエスの振る舞い――胸を張らない歩き方とか、はきはきとしない話し方とか、がさつな食べ方とか――は、そのどれをとっても教会の人間らしくなかったから。
「私の事、なんて書くんです?」
「今のところ何の情報も得られていないし、得られる予定もない、と書いてます」
「そんな報告で良いんですか。もっとこう、なんというか、沢山書くべきでは」
「内容のない文章を長引かせても意味がありませんから」
文章を書き終えたディエスは、羊皮紙を書類挟みから取り外し、裏面に描かれた円形の魔法術式の欠けている部分に、ヴァイガルム大聖堂の位置を記す。
すると、羊皮紙は独りでに折り畳まれ、丸まり、翼が生えてくる。
「今、教会は”燕”を使ってるんですね」
今時、羊皮紙なんて旧時代の遺物を使う理由は一つ。
動物の皮から作られ、一枚一枚が厚い羊皮紙は、魔法術式を書きやすい。
「本当は”隼”を使いたいんですが、このサイズの羊皮紙に描ける魔法術式の中では、”燕”が最速ですから」
ディエスが持つ羊皮紙に描かれているのは、独立飛行魔法術式の一種。
飛行速度が遅い方から順に、”雀”、”鳩”、”烏”、”燕”、”隼”という、鳥の名前の通称で呼ばれるこの魔法は、術式を描いた物体を目的地まで飛行させる事が出来る。
だけど、速い術式ほど描くためのスペースが必要となるため、大きな羊皮紙を使わなくてはならず、値段が高くなる。だから、教会は情報伝達手段として、最速の”隼”ではなく、コストパフォーマンスの高い”燕”を採用している。
ディエスが窓を開けると、燕となった羊皮紙は力強く翼を動かし、夜空へと飛び出した。
「では、私はこれで寝かせてもらいます。明かり、消してもいいですか」
ディエスは窓を閉め、手早く筆記具を鞄に詰め込み、ランプの捻りに手をかけながら言う。
「いいですよ。私ももう寝ますから」
明かりを消したディエスは、すぐさまベッドに潜り込み、ものの数分も経たないうちに静かな寝息を立て出した。
眠れないラリアはベッドに腰かけて目を閉じ、息を吐き、両手を組んで神への祈りを捧げた。
日が沈み、天井から吊り下がったランプの捻りを回し、明かりをつけた男は、窓を見つめるラリアに問いかける。
返事を待っている間、ディエスは鞄から万年筆と洋墨、書類挟みに挟まっている羊皮紙を取り出し、洋墨の蓋を開ける。
「どうもしませんよ。昨日までと同じです。行くべきだと思ったところに歩いていくだけです」
ラリアは、先ほどまでの自分と同じような不安を、男も感じているのかもしれないと思った。
だが、それは違った。
男は、修道騎士としての誇りや信念、正義感とかいうものを、全く持ち合わせてなかった。だから、「この行動は人民の為になっているのだろうか?」なんてこと、考えてやいない。
男は仕事をしていた。
教会からの指示は、「勇者の行動を適宜報告せよ」というもの。
勇者を監視してもう一週間も経つ。このまま寝てしまいたくても、流石に何かしらの報告をするべきだった。
万年筆に洋墨を付け、すらすらと紙の上で滑らせる。
とりあえず書くのは、報告書としての体裁を整えるための形式的な文章。
適切に行間や段落を変え、<日付:ラプラス歴29年4月21日、宛先:教会本部御中、報告者:ディエス・ロアソレーク、件名:勇者の行動に関する報告書>というところまで一息に走り書く。
「何書いているんですか?」
ラリアは、男が何かしている事に気付いた。
「教会への報告書です。あなたの事を書いてるんですよ」
男は、紙から顔を上げずに言う。
別に教会から、報告している事を勇者に隠せとは言われていない。
「へ~」
ラリアは興味本位で男が書いている紙を覗き込み、男の名がディエス・ロアソレークと言う事を今更ながらに知った。
ラリアにとっても、自分の行動が教会に報告されている事は想定通りだった。
ただ、ディエスがその役割を担っているとは思っていなかった。
ディエスの振る舞い――胸を張らない歩き方とか、はきはきとしない話し方とか、がさつな食べ方とか――は、そのどれをとっても教会の人間らしくなかったから。
「私の事、なんて書くんです?」
「今のところ何の情報も得られていないし、得られる予定もない、と書いてます」
「そんな報告で良いんですか。もっとこう、なんというか、沢山書くべきでは」
「内容のない文章を長引かせても意味がありませんから」
文章を書き終えたディエスは、羊皮紙を書類挟みから取り外し、裏面に描かれた円形の魔法術式の欠けている部分に、ヴァイガルム大聖堂の位置を記す。
すると、羊皮紙は独りでに折り畳まれ、丸まり、翼が生えてくる。
「今、教会は”燕”を使ってるんですね」
今時、羊皮紙なんて旧時代の遺物を使う理由は一つ。
動物の皮から作られ、一枚一枚が厚い羊皮紙は、魔法術式を書きやすい。
「本当は”隼”を使いたいんですが、このサイズの羊皮紙に描ける魔法術式の中では、”燕”が最速ですから」
ディエスが持つ羊皮紙に描かれているのは、独立飛行魔法術式の一種。
飛行速度が遅い方から順に、”雀”、”鳩”、”烏”、”燕”、”隼”という、鳥の名前の通称で呼ばれるこの魔法は、術式を描いた物体を目的地まで飛行させる事が出来る。
だけど、速い術式ほど描くためのスペースが必要となるため、大きな羊皮紙を使わなくてはならず、値段が高くなる。だから、教会は情報伝達手段として、最速の”隼”ではなく、コストパフォーマンスの高い”燕”を採用している。
ディエスが窓を開けると、燕となった羊皮紙は力強く翼を動かし、夜空へと飛び出した。
「では、私はこれで寝かせてもらいます。明かり、消してもいいですか」
ディエスは窓を閉め、手早く筆記具を鞄に詰め込み、ランプの捻りに手をかけながら言う。
「いいですよ。私ももう寝ますから」
明かりを消したディエスは、すぐさまベッドに潜り込み、ものの数分も経たないうちに静かな寝息を立て出した。
眠れないラリアはベッドに腰かけて目を閉じ、息を吐き、両手を組んで神への祈りを捧げた。
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