死越者の行進

具体的な幽霊 

文字の大きさ
10 / 29

4-2. 教会への報告書

しおりを挟む
 「これからどうするつもりなんですか」

 日が沈み、天井から吊り下がったランプの捻りを回し、明かりをつけたディエスは、窓を見つめるラリアに問いかける。
 返事を待っている間、ディエスは鞄から万年筆と洋墨インク書類挟みクリップボードに挟まっている羊皮紙パーチメントを取り出し、洋墨インクの蓋を開ける。

 「どうもしませんよ。昨日までと同じです。行くべきだと思ったところに歩いていくだけです」

 ラリアは、先ほどまでの自分と同じような不安を、ディエスも感じているのかもしれないと思った。
 だが、それは違った。  
 ディエスは、修道騎士としての誇りや信念、正義感とかいうものを、全く持ち合わせてなかった。だから、「この行動は人民の為になっているのだろうか?」なんてこと、考えてやいない。

 ディエスは仕事をしていた。
 教会からの指示は、「勇者の行動を適宜報告せよ」というもの。
 勇者を監視してもう一週間も経つ。このまま寝てしまいたくても、流石に何かしらの報告をするべきだった。
 万年筆に洋墨インクを付け、すらすらと紙の上で滑らせる。
 とりあえず書くのは、報告書としての体裁を整えるための形式的な文章。
 適切に行間や段落を変え、<日付:ラプラス歴29年4月21日、宛先:教会本部御中、報告者:ディエス・ロアソレーク、件名:勇者の行動に関する報告書>というところまで一息に走り書く。
 
 「何書いているんですか?」

 ラリアは、ディエスが何かしている事に気付いた。

 「教会への報告書です。あなたの事を書いてるんですよ」

 ディエスは、紙から顔を上げずに言う。
 別に教会から、報告している事を勇者に隠せとは言われていない。
 
 「へ~」

 ラリアは興味本位でディエスが書いている紙を覗き込み、男の名がディエス・ロアソレークと言う事を今更ながらに知った。

 ラリアにとっても、自分の行動が教会に報告されている事は想定通りだった。
 ただ、ディエスがその役割を担っているとは思っていなかった。
 ディエスの振る舞い――胸を張らない歩き方とか、はきはきとしない話し方とか、がさつな食べ方とか――は、そのどれをとっても教会の人間らしくなかったから。

 「私の事、なんて書くんです?」

 「今のところ何の情報も得られていないし、得られる予定もない、と書いてます」

 「そんな報告で良いんですか。もっとこう、なんというか、沢山書くべきでは」

 「内容のない文章を長引かせても意味がありませんから」

 文章を書き終えたディエスは、羊皮紙を書類挟みから取り外し、裏面に描かれた円形の魔法術式の欠けている部分に、ヴァイガルム大聖堂の位置を記す。

 すると、羊皮紙は独りでに折り畳まれ、丸まり、翼が生えてくる。
 
 「今、教会は”ツバメ”を使ってるんですね」

 今時、羊皮紙なんて旧時代の遺物を使う理由は一つ。
 動物の皮から作られ、一枚一枚が厚い羊皮紙は、魔法術式を書きやすい。

 「本当は”ハヤブサ”を使いたいんですが、このサイズの羊皮紙パーチメントに描ける魔法術式の中では、”燕”が最速ですから」

 ディエスが持つ羊皮紙に描かれているのは、独立飛行魔法術式メールバードの一種。
 飛行速度が遅い方から順に、”スズメ”、”ハト”、”カラス”、”ツバメ”、”ハヤブサ”という、鳥の名前の通称で呼ばれるこの魔法は、術式を描いた物体を目的地まで飛行させる事が出来る。
 だけど、速い術式ほど描くためのスペースが必要となるため、大きな羊皮紙を使わなくてはならず、値段が高くなる。だから、教会は情報伝達手段として、最速の”隼”ではなく、コストパフォーマンスの高い”燕”を採用している。

 ディエスが窓を開けると、燕となった羊皮紙は力強く翼を動かし、夜空へと飛び出した。

 「では、私はこれで寝かせてもらいます。明かり、消してもいいですか」

 ディエスは窓を閉め、手早く筆記具を鞄に詰め込み、ランプの捻りに手をかけながら言う。

 「いいですよ。私ももう寝ますから」

 明かりを消したディエスは、すぐさまベッドに潜り込み、ものの数分も経たないうちに静かな寝息を立て出した。
 眠れないラリアはベッドに腰かけて目を閉じ、息を吐き、両手を組んで神への祈りを捧げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...