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5-2. 円卓の四騎士
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曇天の昼下がり、第三騎士団本部にある一室で、円卓を囲むのは四人の騎士。バーデンと、彼が最も信頼を置いている部下達だ。
「わかっているとは思うが、お前達を呼び出したのは、俺と共に魔獣討伐を行ってもらうためだ。討伐する魔獣は魔法卿級の魔法を使ってくる。各自、心して準備してもらいたい」
バーデンからの説明を受けて、この場で最も若い男、ヒュマス・ノルガロッサが発言する。
彼は、思った事をすぐに口に出す。良く言えば素直、悪く言えば思慮が足りない。
「魔獣って、あれですよね。最近調査していた事件の実行犯の事ですよね。やっぱり人間じゃなくて魔獣だったんですか」
「教会からの情報には、若い女性のような見た目の魔獣だと書いてあったが、実際はわからん。どちらにせよ、人類にとっての脅威である以上、排除する事に変わりわない」
教会はしばしば、危険な存在だと判断した人間の事を魔獣と呼ぶ。その方が、大手を振って正義を主張できるから。
人間を殺しましょうって言うより、魔獣を討伐しましょうって言う方が、耳障りが良い。
「ああ、結局こっちの調査じゃ何もわかんなかったのね」
そう言って場の空気を重くさせたのは、集まった騎士達の中で唯一の女、シアン・ルナノーツ。
彼女は空気を読まない。読めないのではなく、読まない。人のために自分を捻じ曲げるのが大嫌いだから。
「その通りだ。今回は、教会からの情報に基づいて行動する事になる。そのため、教会から情報が来るまでは待機となる。あまり乗り気はしないだろうが、教会とこちらの利害が一致している以上、嘘の情報を掴まされるとも考えにくいのでな」
「という事は、教会はまだその魔獣のいる位置を特定できていないのですか。見た目も、強力な魔法を使う事も分かっているというのに。それは少しおかしいのでは?」
バーデンの説明に疑問を呈したのは、今まで沈黙を貫いていた男、ギムレット・ドクトラード。
幾多の戦場でバーデンの背中を守り、バーデンの右腕とまで称される彼は基本的に無口だが、騎士としての職務に関する疑問点を放置するような事は絶対にしない。
「お前の疑問はもっともだ。だが、教会からの情報を信じるほかに選択肢はない。我々が調査を行った結果はお前も知っているだろう。これ以上、我々は無駄な犠牲を出すわけにはいかないんだ。それに俺は、たとえ教会が情報の一部を隠匿していようとも、相手の位置と大まかな戦力さえ知る事さえできれば問題ないと思っている」
バーデンも、ギムレットと同じような疑問は抱いていた。
教会ともあろう組織が、魔獣が街中にいるという事を知っていながら、その魔獣の詳細を調べ切れていないという事があり得るのだろうか、と。だが、すぐにその疑問は考える必要のないものだと悟った。
「何が待ち受けていようと、正面から全力でもって叩き潰せばいい。そのために、お前達を呼んだんだ」
純粋な戦闘にさえ持ち込めれば、多少の情報不足があろうとも、第三騎士団の騎士が魔獣に遅れを取るはずがないという確固たる自信を、バーデンは持っていた。
「分かりました。仲間の鎮魂を我々の手で為すためにも、多少のリスクは覚悟しましょう」
ギムレットは、バーデンの強さを信頼していた。
バビリア王国第三騎士団が設立された当初から、騎士団長として騎士達を率い、凶悪な魔獣を何体も狩ってきたバーデンの雄姿を、ギムレットは誰よりも近くで見てきたから。
「感謝するギムレット。ヒュムスとシアンもな」
珍しく感謝の言葉を口にしたバーデンに、
「貴方の背中を守るのが、私の務めですから」
と、ギムレットは静かに言い、
「感謝するのは俺のほうです。俺は、団長の元で剣を振るえるのが嬉しんですよ」
と、ヒュマスは照れ臭そうに笑って言い、
「そんな事言わなくても、給料分の仕事はします」
と、シアンは不満げに言った。
バーデンは弛緩した雰囲気を払うように咳払いをしてから、今後の行動についての話をする。
「説明は以上だ。教会からの情報がいつ来るかわからないため、今日からお前達には、いつでも出撃できるように本部内で寝泊まりをしてもらう。部屋はいつも使ってるところを使ってくれ」
かくして、円卓の会合は幕を閉じた。
窓の外では、小雨が降り始めていた。
「わかっているとは思うが、お前達を呼び出したのは、俺と共に魔獣討伐を行ってもらうためだ。討伐する魔獣は魔法卿級の魔法を使ってくる。各自、心して準備してもらいたい」
バーデンからの説明を受けて、この場で最も若い男、ヒュマス・ノルガロッサが発言する。
彼は、思った事をすぐに口に出す。良く言えば素直、悪く言えば思慮が足りない。
「魔獣って、あれですよね。最近調査していた事件の実行犯の事ですよね。やっぱり人間じゃなくて魔獣だったんですか」
「教会からの情報には、若い女性のような見た目の魔獣だと書いてあったが、実際はわからん。どちらにせよ、人類にとっての脅威である以上、排除する事に変わりわない」
教会はしばしば、危険な存在だと判断した人間の事を魔獣と呼ぶ。その方が、大手を振って正義を主張できるから。
人間を殺しましょうって言うより、魔獣を討伐しましょうって言う方が、耳障りが良い。
「ああ、結局こっちの調査じゃ何もわかんなかったのね」
そう言って場の空気を重くさせたのは、集まった騎士達の中で唯一の女、シアン・ルナノーツ。
彼女は空気を読まない。読めないのではなく、読まない。人のために自分を捻じ曲げるのが大嫌いだから。
「その通りだ。今回は、教会からの情報に基づいて行動する事になる。そのため、教会から情報が来るまでは待機となる。あまり乗り気はしないだろうが、教会とこちらの利害が一致している以上、嘘の情報を掴まされるとも考えにくいのでな」
「という事は、教会はまだその魔獣のいる位置を特定できていないのですか。見た目も、強力な魔法を使う事も分かっているというのに。それは少しおかしいのでは?」
バーデンの説明に疑問を呈したのは、今まで沈黙を貫いていた男、ギムレット・ドクトラード。
幾多の戦場でバーデンの背中を守り、バーデンの右腕とまで称される彼は基本的に無口だが、騎士としての職務に関する疑問点を放置するような事は絶対にしない。
「お前の疑問はもっともだ。だが、教会からの情報を信じるほかに選択肢はない。我々が調査を行った結果はお前も知っているだろう。これ以上、我々は無駄な犠牲を出すわけにはいかないんだ。それに俺は、たとえ教会が情報の一部を隠匿していようとも、相手の位置と大まかな戦力さえ知る事さえできれば問題ないと思っている」
バーデンも、ギムレットと同じような疑問は抱いていた。
教会ともあろう組織が、魔獣が街中にいるという事を知っていながら、その魔獣の詳細を調べ切れていないという事があり得るのだろうか、と。だが、すぐにその疑問は考える必要のないものだと悟った。
「何が待ち受けていようと、正面から全力でもって叩き潰せばいい。そのために、お前達を呼んだんだ」
純粋な戦闘にさえ持ち込めれば、多少の情報不足があろうとも、第三騎士団の騎士が魔獣に遅れを取るはずがないという確固たる自信を、バーデンは持っていた。
「分かりました。仲間の鎮魂を我々の手で為すためにも、多少のリスクは覚悟しましょう」
ギムレットは、バーデンの強さを信頼していた。
バビリア王国第三騎士団が設立された当初から、騎士団長として騎士達を率い、凶悪な魔獣を何体も狩ってきたバーデンの雄姿を、ギムレットは誰よりも近くで見てきたから。
「感謝するギムレット。ヒュムスとシアンもな」
珍しく感謝の言葉を口にしたバーデンに、
「貴方の背中を守るのが、私の務めですから」
と、ギムレットは静かに言い、
「感謝するのは俺のほうです。俺は、団長の元で剣を振るえるのが嬉しんですよ」
と、ヒュマスは照れ臭そうに笑って言い、
「そんな事言わなくても、給料分の仕事はします」
と、シアンは不満げに言った。
バーデンは弛緩した雰囲気を払うように咳払いをしてから、今後の行動についての話をする。
「説明は以上だ。教会からの情報がいつ来るかわからないため、今日からお前達には、いつでも出撃できるように本部内で寝泊まりをしてもらう。部屋はいつも使ってるところを使ってくれ」
かくして、円卓の会合は幕を閉じた。
窓の外では、小雨が降り始めていた。
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