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7-2. 未知との邂逅
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貧民街に着いた四騎士は、迷うことなく魔獣の住処だとされる廃墟へと向かった。
その廃墟には、瓦礫が散乱し、屋根もなく、所々にある壁だけが、かつて住居だった頃の面影を残していた。
冷静に、慎重に、音を殺して討伐対象を探していく。
奥に、一人の少女が立ち尽くしていた。
最初に少女の存在に気付いたのはバーデンだった。
教会からの情報通りの、色白で栗色の長髪の少女。瞳の色は見えないが、討伐対象とみて間違いないだろう。バーデンはハンドサインを出して、他三人の騎士に「俺に続け」と指示する。
バーデンは息を吸い込み、剣の柄を握り、少女を見据え、少し息を吐き、止め、踏み込む。
刹那、少女の緑色の瞳と目が合い、少女は何かを言おうと唇を動かそうとした。
だが、その唇が言葉を紡ぐことは無かった。
金剛鉄の剣によって切断された少女の首から上が、地面へ落ちていく。
首から下が、膝から崩れ落ちていく。
切断面からは、一滴の血も流れ出てこなかった。
バーデンに続いた三騎士は、彼の剣戟に思わず息を呑んだ。
だからだろうか、自分達を取り囲む気配に気付くのが遅れてしまった。
「こんにちは、皆さん」
声の聞こえた方へ、バーデンは即座に視線を向け、剣を構えた。だが、気配が一つだけではないため、不用意に斬りかかるのは躊躇われた。目前の敵一匹を殺そうとする隙に、後ろから自分が殺されては面白くない。
「私に交戦の意図はありません」
そう言って、瓦礫の陰から出てきたのは、顔がやけに白い事以外、人間といって差し支えない姿をした男。
バーデンは、その男の顔に見覚えがあった。
「お前、ザイマ・リィレバントか」
報告書にあった、最初に墓地で行方不明になった騎士達の内の一人の似顔絵と、男の顔は酷似していた。
「そうです。いや、そうでした、というべきでしょうか。ザイマ・リィレバントは一度死に、新たな存在として生き返ったんです」
洗脳の類いか、魔法による現実改変か、麻薬による錯乱か。バーデンは眼前の男が陥っている状態を推測する。
「一度死んで生き返った事は、お前はゾンビだっていう認識でいいのか?」
バーデンはそう言いながら構えていた剣を下ろし、会話に応じるような態度を取った。当然、バーデンは交戦の意図はないという男の言葉を信じたわけではない。即座に襲い掛かってこない以上、対話に応じた方が良いと判断したのだ。
教会からの情報と、状況が全く異なっている。情報と時間を稼ぐ必要があった。相手はこちらの数と位置を把握しているのに対し、こちらは相手の正確な数も、位置も、全く持って見当がついていない。
「ゾンビですか。確かに、そういう側面もあります。死んだ人間の肉体に、もう一度魂が宿っているという点では、私とゾンビに違いは無いでしょう。違うのは、ゾンビは一つの肉体を一つの魂が操っているのに対し、私は多くの肉体を、肉体に元来宿っていた意識と、私の中に新たに宿った単一の知性が操っているという点です」
この言葉を聴いて、バーデンの脳裏に降霊術という魔法が想起された。魔導士が降霊術によって多くの死体を操っているならば、行方不明の騎士達の死体が見つからないのにも説明がつく。
だが、死体の原型を美しくとどめ、流暢に言葉を話せるゾンビを創り出すことが出来る降霊術など聞いたことがなかった。
「正確に言うと、私の内には、私の肉体に元来宿っていたザイマ・リィレバントという意識と、一度死んだ事によって後天的に獲得した”新しい知性”とが入っています。つまり私は、ザイマ・リィレバントでありながら、生前の自分を超越した存在になっているのです」
男は悠然とした語り口で自分が何者かを伝えようとしているのにもかかわらず、バーデンは男の正体を掴みきれずにいた。
「つまりお前は、死んだら賢くなって生き返ったって事だよな」
「ええ。端的に言えばそうです」
バーデンは、目の前の男が降霊術によって生み出されたゾンビであるという仮説を証明するため、男を裏で操っているであろう魔導士の気配を探した。これだけ会話を重ねて不自然な応答が無いという事は、近くで術者がゾンビを直接操っているはずだと考えたから。
「ちなみに私は、降霊術といった類いの魔法によって生み出された存在ではありません。よって、私を操る術者も存在しません。強いて言うならば、私自身が私を操る術者です」
自分の思考を見透かされているかのような男の言葉に、バーデンは戸惑わなかった。男が否定した仮説は、一般的な思考回路を持った魔法を知る人間が、今までの男の説明を聴いて真っ先に思い付く説であるからだ。
だが、その説を自ら口に出すという事は、少なくとも近くには術者がいないのだろう。でなければ、わざわざ術者が近くにいるかもしれないという疑念を抱かせるような発言はしないはずだ。
「さて、この辺りで本題に入りましょう」
入ってくる情報から現状を打破する糸口を見つけ出せずにいるバーデンを翻弄するかのように、男は話を進めていく。
「皆さんには、私と同じ存在になって欲しいのです。死を受け入れ、超越し、新しい知性と共に再び一個の肉体へと収まるという進化の過程を、皆さんにも経験して欲しいのです」
男はそう言って、バーデン達を受け入れようとするように両手を広げた。
「つまりそれは、俺達に一度死ねって言っているんだよな」
「ええ、極端に言えばそうです。ですが、死後に生前よりも優れた知性を得て蘇ることが出来るのですよ。それは素晴らしい事だと思いませんか?」
バーデンの疑問に、男は新興宗教の開祖が教義に対し疑義を呈する信者へ向けて説法をするかような態度で受け答えた。
「その提案に、拒否権はあるのか?」
そう言いながらバーデンは、後ろにいる三人の騎士に向けてハンドサインを出した。
「やれ」と。
「もちろん、そんなものは――」
その先を紡ぐはずだった男の頭は、ヒュマスの一撃により宙に飛んだ。
その廃墟には、瓦礫が散乱し、屋根もなく、所々にある壁だけが、かつて住居だった頃の面影を残していた。
冷静に、慎重に、音を殺して討伐対象を探していく。
奥に、一人の少女が立ち尽くしていた。
最初に少女の存在に気付いたのはバーデンだった。
教会からの情報通りの、色白で栗色の長髪の少女。瞳の色は見えないが、討伐対象とみて間違いないだろう。バーデンはハンドサインを出して、他三人の騎士に「俺に続け」と指示する。
バーデンは息を吸い込み、剣の柄を握り、少女を見据え、少し息を吐き、止め、踏み込む。
刹那、少女の緑色の瞳と目が合い、少女は何かを言おうと唇を動かそうとした。
だが、その唇が言葉を紡ぐことは無かった。
金剛鉄の剣によって切断された少女の首から上が、地面へ落ちていく。
首から下が、膝から崩れ落ちていく。
切断面からは、一滴の血も流れ出てこなかった。
バーデンに続いた三騎士は、彼の剣戟に思わず息を呑んだ。
だからだろうか、自分達を取り囲む気配に気付くのが遅れてしまった。
「こんにちは、皆さん」
声の聞こえた方へ、バーデンは即座に視線を向け、剣を構えた。だが、気配が一つだけではないため、不用意に斬りかかるのは躊躇われた。目前の敵一匹を殺そうとする隙に、後ろから自分が殺されては面白くない。
「私に交戦の意図はありません」
そう言って、瓦礫の陰から出てきたのは、顔がやけに白い事以外、人間といって差し支えない姿をした男。
バーデンは、その男の顔に見覚えがあった。
「お前、ザイマ・リィレバントか」
報告書にあった、最初に墓地で行方不明になった騎士達の内の一人の似顔絵と、男の顔は酷似していた。
「そうです。いや、そうでした、というべきでしょうか。ザイマ・リィレバントは一度死に、新たな存在として生き返ったんです」
洗脳の類いか、魔法による現実改変か、麻薬による錯乱か。バーデンは眼前の男が陥っている状態を推測する。
「一度死んで生き返った事は、お前はゾンビだっていう認識でいいのか?」
バーデンはそう言いながら構えていた剣を下ろし、会話に応じるような態度を取った。当然、バーデンは交戦の意図はないという男の言葉を信じたわけではない。即座に襲い掛かってこない以上、対話に応じた方が良いと判断したのだ。
教会からの情報と、状況が全く異なっている。情報と時間を稼ぐ必要があった。相手はこちらの数と位置を把握しているのに対し、こちらは相手の正確な数も、位置も、全く持って見当がついていない。
「ゾンビですか。確かに、そういう側面もあります。死んだ人間の肉体に、もう一度魂が宿っているという点では、私とゾンビに違いは無いでしょう。違うのは、ゾンビは一つの肉体を一つの魂が操っているのに対し、私は多くの肉体を、肉体に元来宿っていた意識と、私の中に新たに宿った単一の知性が操っているという点です」
この言葉を聴いて、バーデンの脳裏に降霊術という魔法が想起された。魔導士が降霊術によって多くの死体を操っているならば、行方不明の騎士達の死体が見つからないのにも説明がつく。
だが、死体の原型を美しくとどめ、流暢に言葉を話せるゾンビを創り出すことが出来る降霊術など聞いたことがなかった。
「正確に言うと、私の内には、私の肉体に元来宿っていたザイマ・リィレバントという意識と、一度死んだ事によって後天的に獲得した”新しい知性”とが入っています。つまり私は、ザイマ・リィレバントでありながら、生前の自分を超越した存在になっているのです」
男は悠然とした語り口で自分が何者かを伝えようとしているのにもかかわらず、バーデンは男の正体を掴みきれずにいた。
「つまりお前は、死んだら賢くなって生き返ったって事だよな」
「ええ。端的に言えばそうです」
バーデンは、目の前の男が降霊術によって生み出されたゾンビであるという仮説を証明するため、男を裏で操っているであろう魔導士の気配を探した。これだけ会話を重ねて不自然な応答が無いという事は、近くで術者がゾンビを直接操っているはずだと考えたから。
「ちなみに私は、降霊術といった類いの魔法によって生み出された存在ではありません。よって、私を操る術者も存在しません。強いて言うならば、私自身が私を操る術者です」
自分の思考を見透かされているかのような男の言葉に、バーデンは戸惑わなかった。男が否定した仮説は、一般的な思考回路を持った魔法を知る人間が、今までの男の説明を聴いて真っ先に思い付く説であるからだ。
だが、その説を自ら口に出すという事は、少なくとも近くには術者がいないのだろう。でなければ、わざわざ術者が近くにいるかもしれないという疑念を抱かせるような発言はしないはずだ。
「さて、この辺りで本題に入りましょう」
入ってくる情報から現状を打破する糸口を見つけ出せずにいるバーデンを翻弄するかのように、男は話を進めていく。
「皆さんには、私と同じ存在になって欲しいのです。死を受け入れ、超越し、新しい知性と共に再び一個の肉体へと収まるという進化の過程を、皆さんにも経験して欲しいのです」
男はそう言って、バーデン達を受け入れようとするように両手を広げた。
「つまりそれは、俺達に一度死ねって言っているんだよな」
「ええ、極端に言えばそうです。ですが、死後に生前よりも優れた知性を得て蘇ることが出来るのですよ。それは素晴らしい事だと思いませんか?」
バーデンの疑問に、男は新興宗教の開祖が教義に対し疑義を呈する信者へ向けて説法をするかような態度で受け答えた。
「その提案に、拒否権はあるのか?」
そう言いながらバーデンは、後ろにいる三人の騎士に向けてハンドサインを出した。
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