死越者の行進

具体的な幽霊 

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7-3. 斬り落とされた火蓋

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 「各自散開!周辺の敵を各個撃破せよ!!動きを止めるな、魔法で狙われるぞ!」

 バーデンの怒号で離散した騎士達を見て、隠れていた何十人もの人間の外見をした敵が、瓦礫の陰や壁の裏から飛び出してきた。
 顔がやけに白い事以外、服装も、年齢も、性別もバラバラの敵の首を、四騎士は全力で斬り落としにかかる。敵の中には、報告書の似顔絵や、第三騎士団本部ファイロットで見た事のある顔がいくつもあった。だが、騎士達の剣に迷いは生じなかった。
 
 最初に四騎士の標的となった四体の敵は、抵抗する間もなく首を斬り落とされた。
 だが、騎士達が次の標的へと身体を向ける頃には、敵も迎撃態勢を整えてきた。
 
 炎弾、氷弾、風刃といった魔法が、騎士達目掛け飛んでくる。だが、その殆どは当たらず、運よく当たった数発も、灰輝銀ミスリルの甲冑を貫通して騎士に致命傷を与えるには至らない。
  
 その間にも騎士達は、新たに二体の屍を築く。

 圧倒的な速度と自在な足運びで敵を翻弄するヒュマス、無詠唱の魔法で作った隙を確実に突いて敵を殺すシアン、凄まじい剣速で繰り出される斬撃により敵を斬り裂くギムレット、そして、純粋な強さで正面から敵を打ち砕くバーデン。四騎士の誰もが、その卓越した能力を存分に発揮していた。
 
 「止めて下さい!私は皆さんと争うつもりはありません!」

 遠くの方にいる敵の一人が叫んだが、騎士達の剣を振るう手が止まる事は無かった。彼らは今更、交渉のテーブルに座るつもりはない。

 騎士団の装備を身に付けた何人かの敵が魔法による攻撃を諦め、剣を抜いて応戦してきた。

 剣と剣がぶつかり、交錯し、火花を散らす。
 鍔迫り合いとなり、一度離れ、再度ぶつかり合う。

 相対する敵達の膂力と、騎士の膂力とに大きな差はなかったが、飛んだのは敵の首だけだった。第三騎士団の中でも実戦経験の多い四騎士の実力は、筋肉量だけで推し量れるものではない。
 
 敵の数は順当に減っていったが、四騎士は焦りを感じていた。敵の数が減るにつれ、敵一体当たりの強さが急速に増していたからだ。正確に言えば、敵の数が減るほど、敵のこちらの斬撃に対する対処が上手くなっていた。まるで、殺された敵の経験から学んでいるかのように。

 敵の数が二桁を切った頃には、敵は四騎士と互角以上の戦いを繰り広げるようになっていた。
 そして、いつの間にか四騎士は背中合わせとなり、敵に取り囲まれる形となった。

 「ぎりぎりでしたが、なんとか間に合いましたね」

 そう言った敵の一人は、安堵の溜息を付いてから続けた。

 「もう皆さんに勝機はありません。どうでしょう?どうせ死ぬのなら、潔く自ら死を受け入れてはいただけませんか」

 バーデンは、周りの三騎士の様子を見た。ヒュマスはまだ動けそうだが、シアンとギムレットは敵に隙を見せるのを承知で深く呼吸をし、少しでも体力を回復させることに努めており、限界が近そうだった。
 
 「なぜ、そんな事を訊くんだ?お前達はどっちにしろ俺達を殺すつもりなんだろう。それなら、こんな会話なんてせず、とっとと全員で襲い掛かってくればいいんじゃないか」

 この疑問は、バーデンの個人的な好奇心からくるものだった。今更多少時間を稼いだところで、勝算は上がりそうにない。
 
 「皆さんは死んだ後、私と同じ存在になるんですよ。私の一部になると言ってもいい。そんな将来の同志を、出来るだけ丁重に接しようとするのは当然でしょう」

 敵は、当然だというような口調で言った。
 だが、バーデンは敵が述べた言葉が当然だとは思えなかった。

 「俺達は、お前達の同志を何人も殺したんだぞ。憎くないのか?」

 将来の同志に対する思いやりを持っているのならば、殺された同志に対する思いやりもあるはずだ。それなのに彼らは、自分達の同志を何十人も殺した人間を、仲間に加えようとしている。その神経が、バーデンにはどうしても理解できなかった。

 「憎くはありません。皆さんは、私の目的の障害となる二大勢力の一つでしたから、それなりの犠牲は覚悟していました。それに、私にとって死とは、皆さんのように特別な事ではないのです。一度死を経験した私は、死の先に何があるのかを知っています。その先にあるのは、言葉にするのは難しいですが、少なくとも、哀しみや苦しみに満ちた地獄のような場所ではないのです。ですから、同志が殺されたからといって、憎いとまでは感じないのですよ。皆さんも、友達が仕事のせいで遠くに引っ越したとしても、その仕事を憎んだりはしないでしょう?それと同じです」

 生き返った事が無い人間には、理解できそうにない考えだと、バーデンは思った。

 「やはり、お前達の考えは分からないな」

 剣をしかと握り直し、覚悟を決めたバーデンは、敵と、背中を預ける三人の騎士達に向けて言う。

 「どうせ死ぬとしても、俺達は一秒でも長く生き続けなければならない。死んでいった仲間の分まで、一歩でも多く歩を進め、仲間が見たくても見れなかった景色を、代わりに見てやらないといけないんだ。だから、俺は、死ぬ寸前まで、生きる事を諦めはしない」

 三騎士は、バーデンの言葉に返事をすることなく、手に持つ剣を強く握りしめた。
 眼前の敵を倒す。それ以外の全ては、この死地を乗り越えてから考えればいい。

 「皆さんの考えはよく分かりました」

 敵もそれ以上は語ることなく、戦闘態勢に入る。
 
 一瞬の無音を皮切りに、四騎士にとって絶望的な最終局面が始まった。

 
 
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