死越者の行進

具体的な幽霊 

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8-2. 死を越えた者

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 「”こっち側”ってのは、簡単に言うと、死を乗り越えた側って意味だ」

 真剣な面持ちで、ムルドはラリアの質問に答え始めた。

 「俺は一度死に、”新しい知性”を得て蘇ったんだ。人間の知性っていうのは、自分で勉強とか経験とかをしていく事で更新されるんだが、この”新しい知性”っていうのは凄くて、俺自身が何もしてなくても情報がどんどん入ってくるんだ。それに、一度死ぬと、”死ぬ”っていうのがどういうものか分かるようになる。だから、前みたいに”死ぬ”ったことを過度に恐れたりしなくなるんだ。そうするとさ、なんていうか、世界の見え方が変わるんだ。俺の場合はさ、死なないためだけに地獄のような日々を生きていた今までが、バカバカしく思えたんだ。あんたらには分からないかもしれないが、俺にとって、このことに気付けたのは大きかった。長々と死んだように生きるくらいなら、短い命を全力で燃やした方がマシだって考えるようになれたんだからな」

 過去の自分を嘲笑うかのように顔を歪めたムルドは、一呼吸して表情を戻してから続けた。

 「あんたらも、俺みたく”こっち側”へ来れば、とんでもない景色が見えるかもしれないんだぜ。”新しい知性”と、死という経験を得た事で、自分が今まで持っていた常識の壁がぶっ壊れるんだからな」

 ラリアの後ろでムルドの話を聞いていたディエスは、都合が良すぎだと思った。死んだら新しい知性を得て、死に対する恐怖が無くなって蘇るなんて、夢で見るにしても出来過ぎだからだ。ゆえにディエスは、この話は、天から見放された男が現実逃避の末に生み出した、虚しい妄想の類いなのだろうと思っていた。
 
 だがラリアは、ムルドの語る荒唐無稽な話を全面的に信じていた。
 教会の教育により、嘘を吐く人間の仕草を知っていたラリアは、ムルドが嘘を吐いている可能性は低いという事を分かっていた。
 ゆえに、ラリアは自分の認識を確認するための問いを投げかけた。

 「それはつまり、人間としての自分を捨てる代わりに、新しい価値観を得られるという事ですか?」
 
 ラリアにとって重要なのは、ムルドのいう”こっち側”というのが、臨死体験のような疑似的な死を経た先にあるものなのか、それとも本当に人間として一度死んでからゾンビのような別の存在として蘇った先にあるものなのか、という事。前者ならば、人民を救済せよという使命に抵触しないが、後者ならば、人間として死のうとしている時点でその使命に反している。

 「あんたらにとっては、そうかもしれないな。でも、俺にとっては、”こっち側”に来る前の方が、人間としての尊厳は無かった」

 ラリアの問いかけに、ムルドは即答した。そして、こう返した。

 「そもそも、あんたにとって”人間”とは何なんだ?血と肉と骨で構成された器の中に、魂っていう命令装置が入っている物質を人間と呼んでいるのならば、自分の肉体に自分の魂を宿していると自覚している俺のような存在を、人間でないと言えるのか?」

 ラリアは、この問いに対する回答を持ち合わせていなかった。人間とは何か?なんて素朴な疑問を抱いた事が無かったから。彼女にとって人間とは人間であり、それ以上の説明が必要だとは思えなかったのだ。

 
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