死越者の行進

具体的な幽霊 

文字の大きさ
22 / 29

8-3. 穏やかな死を

しおりを挟む
 「じゃあ、俺の質問にも答えてくれるか?」

 ラリアが沈黙したのを見て、ディエスが議論に割って入った。
 ムルドが「もちろん」と言ったのを聴いてから、ディエスは問いかけた。

 「お前は、どうやってその”こっち側”とやらに行ったんだ?まさか単に自殺しただけで、都合よく蘇ったってわけじゃないんだろう」

 ラリアとムルドが問答をしている間に、ディエスの中には初めに立てたのとは別の仮説が出来上がっていた。
 その仮説とは、ムルドは教会とは違う教義を信仰する集団に洗脳されているのではないか、というもの。そう考えれば、個人の妄言にしては勧誘の言葉がすらすらと出てくる事や、酔ってないにもかかわらず、自信に満ちた表情をしている事にも納得がいく。

 「俺は、あんたらと会った後に、一人の女性に誘われたんだ。『私に賭けてみる気はない?』ってさ。それで―――」
 
 その先に興味は無かったディエスは、ムルドの話を遮るように質問を重ねた。

 「じゃあ、お前も今の俺達みたいに勧誘されたって事だよな。なら、お前が所属している集団は、俺達以外にも声をかけているはずだ。そうなると、お前のように話を信じた人間だけじゃなく、信じなかった人間も出てくるはずだ。その信じなかった人間を、お前達はどうしたんだ?仕方がないからって解放したのか?違うな。口封じのために殺したはずだ。教会に、お前達の行動が知られないようにするために」

 教会は、信者を奪い取ろうとする存在を許さない。特に、教会とは別の教義を信仰する集団は、全身全霊で叩き潰しに来る。教会で噂が流れていない以上、ムルドが所属している集団は、情報の流失を何らかの方法で防いでいるはずだった。

 「俺は知らない。俺が誘ったのはあんたらが初めてだ」

 ムルドが、自分達が他の人間にも勧誘をかけているという事を否定しなかったのを確認したディエスは、間髪入れずに追求する。

 「それにしては誘い方が流暢だったな。仮に、お前が直接勧誘したのは初めてだとしても、誰かから誘い方を教わったんじゃないか?それなら、誘いを断られた時の段取りも教わっているはずだ。まさか、『話を聞いて下さりありがとうございました』とだけ言って解放するわけじゃないだろう」

 ムルドは、どうするべきか迷った。
 ”新しい知性”からの情報で、ムルドはディエスの質問に対する答えを知っていた。また、この事を言えば、平和的な勧誘が出来なくなる確率が高くなるだろうという事も分かっていた。

 「そうだ。確かに、誘いを断った人間は殺すことになっている」

 そして、その場しのぎの嘘は、すぐにバレるだろうという事も、ムルドは理解していた。
 一度嘘を吐くと、その嘘を真実だと偽るために嘘を吐かなければならない。そうして次々と嘘を積み重ねていく内に、巨大な虚構が出来上がり、隠すのが困難になる。

 「だが、殺した後は、ちゃんと蘇らせた。蘇った人達は皆、”こっち側”へ来た事に感謝したぜ。”こっち側”に来ると、言葉で言い表せないような解放感みたいなものがあるんだ。”こっち側”に来た奴で、元に戻りたいって言いだす奴はいない。それだけ、”こっち側”は素晴らしいんだ!」

 ムルドは、事実を話した上でラリアを説得できる可能性に賭けた。はなからこちらを信用する気のないディエスは無理でも、ラリアならば、そのチャンスがあると思ったから。

 だが、ムルドの言葉を聴き終えたラリアは、彼に剣の切っ先を向けた。

 「あなたの言い分は、洗脳によって人間の自由意志を捻じ曲げる事を正当化しています。確かに、あなたの行いは、多くの人々を貧困の恐怖や無知の呪縛から解放したのかもしれません。ですが、自分の価値観のみに基づいて、他者の選択の余地を奪う行為は許されてはならない」

 教会の歪んだ価値観を押し付けられていたラリアにとって、ムルドのした行為は看過できるものではなかった。たとえその行為で、何人もの人間が救われたのだとしても。
 
 「ムルド・シュタイナー。修道騎士の権限で、あなたを拘束します。犯した罪を告白し、正当な裁きを受けて下さい」

 その宣言を聴き、ムルドはラリアから距離を取った。彼の目的は、教会が生み出した勇者を”こっち側”に迎え入れる事。そのための手段は、選ばない。
 
 ムルドは叫ぶ。

 「あんたらは俺の言葉より、法律に従うんだな。既存の権力の方が正しいなんて証拠はどこにも無いというのに!」
 
 そして右手を掲げ、小さく呟く。
 ムルドが呟いたのは滅びの呪文。正確な音程とリズムで韻を踏んだ言葉に力が宿り、純白のからすに似た形となる。

 だが、その鴉は飛び立つ前に翼をもがれ、地に堕ちた。
 
 「な……」

 地面に落ちた鴉は、その場で周囲に滅びをもたらした。魔法の使用者であるムルドを巻き込んで。
 
 「私にその程度の魔法は通用しません。本当は、正規の手順で裁かれて欲しかったですが、危険思想を持つ魔導士は即刻死罪です。さようなら」

 消滅していく身体を見ながら、ムルドは自分の数奇な人生を走馬灯のように思い起こした。
 大半が貧しく、虚しく、見るに堪えないような生き様ではあったが、最後だけは、物語の端役くらいの活躍は出来ただろうという事に満足したムルドは、死を越えるという決断を悔いること無く、二度目の死を穏やかに受け入れた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...