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8-4. 静寂な余韻
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ムルドとラリアのやり取りを傍から見ていたディエスは、状況を理解しきれずにいた。
恐らく、ムルドが用いた魔法は<飛翔する破滅の権化>。現在、存在が確認されている中でも最上位の魔法であり、現役の魔導士でこの魔法を扱えるのは片手で数えるほどしかいない。
そんな魔法を、数日前まではただの酔っ払いだった男が使ったという事実は、ムルドの言っていた御伽噺のような発言の、少なくとも一部は真実であるという証拠として申し分なかった。また、仮にムルドの発言の全てが真実だったとした場合、あのレベルの魔法を使える危険思想を持った人間モドキが、王国内に何体も存在している事になる。
そこまで考えてようやくディエスは、ムルドと以前遭遇した女性とが同じ類いの存在なのではないか、と気付いた。
「もし、この男の言っていた事が全て事実なら、この問題は教会の手に負えるものじゃない。どうするつもりなんですか?」
ディエスは、自分で答えを出すのを諦め、ムルドがいた場所を見たまま立ち尽くしているラリアに回答を求めた。ムルドが放とうとした最上位魔法を容易く破壊した勇者ならば、何らかの解決案を持ち合わせているかもしれないと思ったから。
ラリアは、ムルドの魔法によってクレーターのように抉れた地面を魔法:<再生>で埋めてから、その問いに答えた。
「森羅万象には必ず起源があります。この事態の起源を突き止めれば、何か解決の糸口が掴めるかもしれません」
「具体的には?」
「こちらから動かなくても、向こうから声をかけてくるはずです。これほどの力を持っているのなら、脅威となり得るのは勇者である私くらいでしょうから」
そう断言するラリアの底知れぬ強さに恐怖心を抱いたディエスは、その心を悟られないよう、努めて穏やかに言葉を発した。
「狩りに来きた奴らを逆に狩り取るという事ですか」
「いえ、恐らく向こうは、私に直接的な戦闘で勝てる確率は低いとみているはずです。でなければ、情報を与えるリスクを冒してまで出来るか出来ないか分からない勧誘をするのではなく、奇襲なり何なりで私を殺しに来た方が良かったと思うんです。ムルドの発言を信じるなら、どんな手段であれ殺せてしまえば仲間に出来るんですから」
「つまり、相手の方から話し合いに来るって言いたいのですか」
言外に、そんな楽観的な考えでいいのかという疑問を含ませたディエスの問いかけに、ラリアは平然と答えた。
「疑問に思うのは最もだと思います。ですが、あなたに合理的な理由を説明する事は出来ません。私が直感的にそう思ったからだけだからです」
ディエスは、それ以上の追求が出来なかった。
確かに、今までもラリアの直感だけを頼りに動き、なんとなくではあるが、この事態の核心に近づいているという実感があった。だが、根拠のない直感だけを根拠に予測した未来を信じて行動する勇気を、ディエスは持ち合わせていない。
「では、もう行きましょう」
そう言って、再びラリアは歩き出した。
歩きながらラリアは、ムルドから投げかけられた”人間とは何か?”という問いについて考えた。
人間の自由意志を無視した行為をしたためにムルドを罰したが、今後ムルドと同じような存在と対峙した時、人間と同様に救済の対象とみなすべきか、魔獣と同様に断罪の対象とみなすべきかを決めかねていたラリアにとって、この問いに対する答えを見出す事は重要だった。
ラリアは、簡単に答えが出ないだろうと思っていた。教会の聖典が定義する人間とは、”人間特有の崇高な魂を持った存在”なのだが、人間の魂が外部から”新しい知性”なるものを加えられた場合、その魂は”人間特有の崇高な魂”足り得るのかどうかなんて、考えた事すらなかったから。
仮に、こんな事を考えている者がいるとすれば、それはムルドのような存在の生みの親だろう。
そこまで考えたラリアは、思考を放棄して歩く事のみに集中力を使い始めた。
自分でゼロから答えを探し出すより、その道の先駆者に直接尋ねた方が早いと思ったから。
恐らく、ムルドが用いた魔法は<飛翔する破滅の権化>。現在、存在が確認されている中でも最上位の魔法であり、現役の魔導士でこの魔法を扱えるのは片手で数えるほどしかいない。
そんな魔法を、数日前まではただの酔っ払いだった男が使ったという事実は、ムルドの言っていた御伽噺のような発言の、少なくとも一部は真実であるという証拠として申し分なかった。また、仮にムルドの発言の全てが真実だったとした場合、あのレベルの魔法を使える危険思想を持った人間モドキが、王国内に何体も存在している事になる。
そこまで考えてようやくディエスは、ムルドと以前遭遇した女性とが同じ類いの存在なのではないか、と気付いた。
「もし、この男の言っていた事が全て事実なら、この問題は教会の手に負えるものじゃない。どうするつもりなんですか?」
ディエスは、自分で答えを出すのを諦め、ムルドがいた場所を見たまま立ち尽くしているラリアに回答を求めた。ムルドが放とうとした最上位魔法を容易く破壊した勇者ならば、何らかの解決案を持ち合わせているかもしれないと思ったから。
ラリアは、ムルドの魔法によってクレーターのように抉れた地面を魔法:<再生>で埋めてから、その問いに答えた。
「森羅万象には必ず起源があります。この事態の起源を突き止めれば、何か解決の糸口が掴めるかもしれません」
「具体的には?」
「こちらから動かなくても、向こうから声をかけてくるはずです。これほどの力を持っているのなら、脅威となり得るのは勇者である私くらいでしょうから」
そう断言するラリアの底知れぬ強さに恐怖心を抱いたディエスは、その心を悟られないよう、努めて穏やかに言葉を発した。
「狩りに来きた奴らを逆に狩り取るという事ですか」
「いえ、恐らく向こうは、私に直接的な戦闘で勝てる確率は低いとみているはずです。でなければ、情報を与えるリスクを冒してまで出来るか出来ないか分からない勧誘をするのではなく、奇襲なり何なりで私を殺しに来た方が良かったと思うんです。ムルドの発言を信じるなら、どんな手段であれ殺せてしまえば仲間に出来るんですから」
「つまり、相手の方から話し合いに来るって言いたいのですか」
言外に、そんな楽観的な考えでいいのかという疑問を含ませたディエスの問いかけに、ラリアは平然と答えた。
「疑問に思うのは最もだと思います。ですが、あなたに合理的な理由を説明する事は出来ません。私が直感的にそう思ったからだけだからです」
ディエスは、それ以上の追求が出来なかった。
確かに、今までもラリアの直感だけを頼りに動き、なんとなくではあるが、この事態の核心に近づいているという実感があった。だが、根拠のない直感だけを根拠に予測した未来を信じて行動する勇気を、ディエスは持ち合わせていない。
「では、もう行きましょう」
そう言って、再びラリアは歩き出した。
歩きながらラリアは、ムルドから投げかけられた”人間とは何か?”という問いについて考えた。
人間の自由意志を無視した行為をしたためにムルドを罰したが、今後ムルドと同じような存在と対峙した時、人間と同様に救済の対象とみなすべきか、魔獣と同様に断罪の対象とみなすべきかを決めかねていたラリアにとって、この問いに対する答えを見出す事は重要だった。
ラリアは、簡単に答えが出ないだろうと思っていた。教会の聖典が定義する人間とは、”人間特有の崇高な魂を持った存在”なのだが、人間の魂が外部から”新しい知性”なるものを加えられた場合、その魂は”人間特有の崇高な魂”足り得るのかどうかなんて、考えた事すらなかったから。
仮に、こんな事を考えている者がいるとすれば、それはムルドのような存在の生みの親だろう。
そこまで考えたラリアは、思考を放棄して歩く事のみに集中力を使い始めた。
自分でゼロから答えを探し出すより、その道の先駆者に直接尋ねた方が早いと思ったから。
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