25 / 29
10-1. 信者の信じる神
しおりを挟む
第三騎士団本部で革命が起こった夜、勇者とその監視役は、貧民街から更に郊外へと進む最中、突然の雨に曝されていた。
雨宿りが必要だと思われるほど強い雨脚では無かったのだが、閑散とした道中で雨宿りに最適な営業中の宿屋を運命的に見つけ、幸いにも空き部屋が二部屋分あったため、ラリア達はこの宿屋で一晩を明かす事にした。
お世辞にも睡眠に適しているとは言い難い硬いベッドと、木製の簡素な椅子とテーブルだけが室内にあり、薄い壁越しに雨音がよく聞こえる簡素な部屋だった。歩くたびに床板の木が悲鳴を上げているかのような音を出した。店番をしていた店主曰く、「これでも、この宿の内で最も良い部屋なんだ」という。
部屋に入ったディエスは今日の出来事を纏めた報告書したためた後、泥のように眠ってしまった。
昨日までは、ラリアがいつ起きても物音で分かるように、最低限の睡眠以外は取っていなかったのだが、流石のディエスも体力の限界だった。心のどこかで、もし熟睡してしまったとしても、ラリアは起こしてくれるだろうという気がしていたのかもしれない。
一方でラリアは、明日からの行動に備え、すぐにベッドに横になった。
微睡んでいる最中、ラリアは神の声を聞いた。いつもと同じ、無機質で荘厳な声音で、神は次のように告げた。
『鳥人の翼の秘密を教えよう。すぐに一人で東へ向かえ。さすれば君は、私の唯一の理解者と成り得るだろう。あるいは君は、私の唯一の敵対者となるだろう』
今までの天啓とは違い、自分一人だけに語りかけてくるような言葉遣いや、具体的な行動指針が示されていることに、ラリアは戸惑った。だが、神からの御言葉に疑義を呈するという選択肢は、敬虔な神の信徒であるラリアには無かった。
天啓を聴き終えて目が覚めたラリアは、告げられた言葉に従い、ディエスを残して一人で宿屋を出た。店番がいなかったため、部屋に宿代を置いておいた。
未だ暗闇と雨音が周囲を支配する中、東に向かって進む。王国全土の地図を暗記し、自分が地図上のどこにいるのかを理解しているラリアは、どの方向が東かを正確に認識しているため、迷う事はない。
整備が整っていない泥濘んだ道を歩きながら、ラリアは先ほどの天啓の意味を考えた。
過去の天啓を鑑みるに、『鳥人達』とは、恐らく以前会った女性やムルドのような存在を示唆しているのだと思われる。ならば『翼の秘密』とは、人間とムルドのような存在との違いに関する秘密だろう。この秘密を知ることが出来れば、無罪の『鳥人達』を、救済すべきか断罪すべきかが分かるはずだ。
だが、その秘密を知った時、神に対して敵対する可能性が出てくるとはどういう事なのだろう。たとえ何を言われようとも、神に敵対するなどという愚かな行為を取るはずがないというのに。
雨宿りが必要だと思われるほど強い雨脚では無かったのだが、閑散とした道中で雨宿りに最適な営業中の宿屋を運命的に見つけ、幸いにも空き部屋が二部屋分あったため、ラリア達はこの宿屋で一晩を明かす事にした。
お世辞にも睡眠に適しているとは言い難い硬いベッドと、木製の簡素な椅子とテーブルだけが室内にあり、薄い壁越しに雨音がよく聞こえる簡素な部屋だった。歩くたびに床板の木が悲鳴を上げているかのような音を出した。店番をしていた店主曰く、「これでも、この宿の内で最も良い部屋なんだ」という。
部屋に入ったディエスは今日の出来事を纏めた報告書したためた後、泥のように眠ってしまった。
昨日までは、ラリアがいつ起きても物音で分かるように、最低限の睡眠以外は取っていなかったのだが、流石のディエスも体力の限界だった。心のどこかで、もし熟睡してしまったとしても、ラリアは起こしてくれるだろうという気がしていたのかもしれない。
一方でラリアは、明日からの行動に備え、すぐにベッドに横になった。
微睡んでいる最中、ラリアは神の声を聞いた。いつもと同じ、無機質で荘厳な声音で、神は次のように告げた。
『鳥人の翼の秘密を教えよう。すぐに一人で東へ向かえ。さすれば君は、私の唯一の理解者と成り得るだろう。あるいは君は、私の唯一の敵対者となるだろう』
今までの天啓とは違い、自分一人だけに語りかけてくるような言葉遣いや、具体的な行動指針が示されていることに、ラリアは戸惑った。だが、神からの御言葉に疑義を呈するという選択肢は、敬虔な神の信徒であるラリアには無かった。
天啓を聴き終えて目が覚めたラリアは、告げられた言葉に従い、ディエスを残して一人で宿屋を出た。店番がいなかったため、部屋に宿代を置いておいた。
未だ暗闇と雨音が周囲を支配する中、東に向かって進む。王国全土の地図を暗記し、自分が地図上のどこにいるのかを理解しているラリアは、どの方向が東かを正確に認識しているため、迷う事はない。
整備が整っていない泥濘んだ道を歩きながら、ラリアは先ほどの天啓の意味を考えた。
過去の天啓を鑑みるに、『鳥人達』とは、恐らく以前会った女性やムルドのような存在を示唆しているのだと思われる。ならば『翼の秘密』とは、人間とムルドのような存在との違いに関する秘密だろう。この秘密を知ることが出来れば、無罪の『鳥人達』を、救済すべきか断罪すべきかが分かるはずだ。
だが、その秘密を知った時、神に対して敵対する可能性が出てくるとはどういう事なのだろう。たとえ何を言われようとも、神に敵対するなどという愚かな行為を取るはずがないというのに。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる