死越者の行進

具体的な幽霊 

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10ー2. 信仰の対象者

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 雨が上がり、分厚い灰色の雲の切れ目から朝日が覗いてきた頃、東へひたすら歩き続けていたラリアは、五軒ほどの茅葺かやぶき屋根の家と、様々な作物が青々と育っている畑だけしかない小さな農村に着いた。
 畑には、中腰で農作業に勤しむ数人の人々がいた。雨上がりの柔らかな地面は、草むしりをするのに適している。

 ラリアが近づいていくと、畑で働く人の一人が声をかけてきた。

 「あなたが勇者様ですね。神様がお待ちです」

 朗らかな笑顔を浮かべてそう言ってきた男の顔はやけに白く、ムルドのような『鳥人』を連想させた。纏っている雰囲気も、鳥人特有の人間とも魔獣とも違う独特なものだった。
 鳥人と同じ雰囲気の男に、神が現世で自分の事を待っているなどという世迷言を伝えられるという不可解な状況を無理矢理呑み飲んだラリアは、男に誘導されて村の奥に入っていく。
 少し歩くと、村にあった家々よりも一回り大きな倉庫のような建物が目に付いた。

 「前に見える建物に神様がいらっしゃいます。私達はここから先に立ち入る事を許されていないので、案内できるのはここまでです。それでは」

 倉庫から十数メートル手前で、男はそう言い残して去っていった。
 扉の前まで来たラリアは、意を決して扉に手をかけた。
 すると、力を入れる前に、扉がひとりでに開いた。

 「いらっしゃい、勇者。それとも、ラリア・アンフェリルというべきかしら」

 扉を開けたのは、背の高い銀髪の女性だった。
 彼女の声を聞いたラリアは内心激しく動揺した。なぜなら、その声はラリアが昨夜聴いたばかりの天啓を告げる神の声にそっくりだったから。
 先ほどの男の言う通り、目の前の女性が現世に顕現した神だとするにしては、女性が纏う雰囲気は人間以外の何ものでも無かった。神たる存在が纏っているであろう、近づきがたいほどの威厳や、眩しいほどの高潔さといった神々しさは、微塵も感じられない。

 「とりあえず中に入って。座ってゆっくりと話しましょう」

 返事を待つことなく踵を返した彼女の後に続き、ラリアは扉をくぐった。

 扉の向こうは、本の森だった。
 四方の壁にある本棚には、様々な分野の本が隙間なく敷き詰められており、入りきらなかったらしい本が、あちらこちらで塔を成している。
 
 「ごめんなさい。片付けるのが面倒でね」

 そう言って女性は、慣れた様子で本の森を避けて、部屋の中央にあるテーブルまで進んだ。

 「さあ、座って。話は長くなるでしょうから」

 テーブルの近くにある二脚の椅子の一つを引いて、ラリアに座るよう促した女性は、部屋の隅にある棚から木製のコップを二つ取り出してテーブルに置き、その中に甘酸っぱい香りのする紫色の液体を注いだ。

 「近くの森で採れる山葡萄を絞ったものを水で割った飲み物なの。アルコールも入っていないわ」

 椅子に座った女性は、山葡萄水を一口飲んでから本題に切り出した。

 「さて、あなたは私に訊きたいことが沢山あるはずよね。まず何を訊きたい?」

 「あなたは誰なんですか」

 ラリアは即座にそう言った。仮にこの女性が神なのであれば、その事を本人の口から聴きたかったから。
 
 「言われてみれば、自己紹介がまだだったわね。私の名前はメライア・ウィズザム。占星魔術師リアス・ウィズザムの娘よ。といっても、私はリアスの愛人の子だから、法律上は存在する事すら認められていない存在なんだけどね」

 ラリアの感じた通り、目の前に座る女性、メライアは人間だった。そして彼女は、かの有名な予言者、リアス・ウィズザムの隠し子なのだという。
 嫌な予感がした。

 「あなたの声は、天啓を告げる声と酷似しています。あなたと天啓とは、どのような関係なのですか」

 ラリアは質問しながら、この質問の答えに自分でも薄々勘付いていた。そして、自分の予想とは違う答えをメライアが出してくれる事を願った。ラリアの予想は、ラリア自身にとってあまりにも信じがたいものだったから。

 「あなたが聴いていた天啓は、私が魔法で語りかけていたのよ」

 そこまで言ったメライアは、ラリアの方に右の掌を向けた。

 『ほら、こんな風に』
 
 ラリアの旋毛つむじの上から、彼女が神だと信じてきた存在の声が響いた。
 その瞬間、ラリアは否応無く確信させられた。私が信じていた神は、目の前にいる一人の人間に過ぎなかったのだと。
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