死越者の行進

具体的な幽霊 

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10-4 大いなる虚構の構築

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 「当時の占星魔術師はまず、教会の教典に書かれていた魔王という存在に目を付けた。魔王は、洪水や飢饉、疫病や魔獣による被害をもたらす災厄の権化として描かれていて、人々の恐怖の象徴だった。そして、その魔王を討ち滅ぼすためには、聖なる信仰心が必要だと説いていたの」

 教典については、教会で穴が空くほど読んでいたラリアは、メライアの言うような記述が確かに書かれていたことを思い出す。自分の存在意義についても教わっていたことも。

 「予言と称して、占星魔術師が魔王の襲来を予感させるような嘘を吐くと、それを聞いた教会は大いに動揺したわ。影響力が減少したとはいえ、今まで一度も外れていない予言が持つ力は充分にあったの。その動揺が教会全体に広がった頃、占星魔術師は重ねて嘘を吐いた。『魔王の出でる魔界の門を塞ぐため、聖なる信仰心の権化たる人間が現れるだろう』と」

 そう言ったメライアは、ラリアの瞳をじっと見つめた。

 「その聖なる信仰心の権化たる人間が、勇者なんですね」

 ラリアは、神の前で罪を吐露する罪人のような重々しい口調でそう言った。
 その声を聴いて、メライアは満足そうに頷いた。

 「初めの勇者は、孤児院にいた子が選ばれたそうよ。占星魔術師の魔法による強力な洗脳で、操り人形みたいに言動の隅々まで術者の操作した通りに動いた勇者は、民衆の前で勇者としての力を存分に見せつけたわ。まあ、実際は裏方の魔術師達が必死になって大規模な魔法を唱えていたってだけらしいけれど。とにかく、そのおかげで勇者は教会から祭り上げられた。魔王の襲来がなかったことも、勇者の力に恐れをなしたのだと解釈されて、嘘だとは思われなかったわ。占星魔術師が企てた一世一代の大博打は上手くいったの。
 でも、問題もあった。洗脳で思考回路をズタズタにされた勇者は、術者が操作しないと全く動かなくなっていたから、付きっ切りで誰かが付いていなきゃいけなかったの。人間一人を一から十まで操作することが出来るほど優秀な術者は少なくて、それを一日中行わなければならないのは、大きな負担になったわ。だから、初代勇者以外は、今のあなたと同じように身寄りのない子供を幼少期から育てて、その中で最も優秀な者を選んで勇者とする事にしたの。
 具体的には、初代勇者を通して占星魔術師の意見を伝えて、教会を動かしたの。教会がその言葉を神からのものだと信じるように、あえて難しい言葉や婉曲な表現を使ってね。教会は多くの孤児院を運営していたから、その中から賢い子供を選んで集め、次の勇者候補として教育するように勇者が求めると、教会はすぐに行動してくれたわ。彼らにとって神を疑うこと自体が神への冒涜だったから、人間よりも神に近い存在とみなされた勇者の言葉を疑おうとする者はいなかった。
 こうして占星魔術師は、表向きは影響力を弱めながらも、裏から実権を握ることが出来た」

 メライアは山葡萄水を飲んで口を潤し、少し時間を置いてから再び口を開いた。

 「これが、あなたのような勇者が生まれてきた経緯いきさつよ。つまり、あなたは神様のしもべじゃなくて、占星魔術師の僕だったってわけ。どう?自分の行動の根拠としていた部分が、実は嘘で塗り固められたものだったことに気付いた気分は」

 メライアから語られる情報の激流が収まり、考えることだけに集中することが出来るようになったラリアは、しばらく黙して流れ込んできた情報を懸命に整理する。
 自分の存在意義が大きく揺らぎ、もはやこの場にいる意味すらないのではという考えも浮かんだが、最終的にラリアが下したのは、自暴自棄にも似た自己犠牲の精神に満ちた結論だった。

 「確認しますが、あなたの先祖は、王国のためを思って、私のような存在を生み出したのですよね」

 「ええ、その通りよ。占星魔術師は代々、王国の繁栄と安寧のために心血を注いできたの。多少の犠牲を厭うことなく、ね」

 メライアから予想通りの回答が返ってきたラリアは、すぐに次の言葉を発した。

 「ならば、私のやるべきことは変わりません。孤児として産み捨てられ、教会に拾われた私にとって、あなたに与えられた『人民を救済せよ』という言葉のみが生きる理由でした。それが神から与えられた言葉で無いと知っても、私の力を人々のために使おうという考えが正しくないはずがない以上、その言葉に従って生きることを変える必要はありませんから」
 
 ラリアは神に縋ることを諦めた。
 神がいないと確信したわけではない。ただ、自分だけに神の御言葉が授けられているなどとしたる根拠もなく盲信し、自分の行動の責任を誰かに求めるのを止めたのだ。
 人の身には有り余る力に伴う重責を、自らの双肩に背負う覚悟を決めたのだ。
 
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