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「……」
「……」

 重苦しい静寂が、夕食の席にのしかかっていた。

「おい、ラン」
「……」

 ぷい、とランはレクスの呼びかけを無視する。

「ごちそうさま」

 そう言ってランは席を立ってとっとと自室に引き上げてしまった。

「……くっそ……」
「レクス様、ランさんと話をしに行ったのでは……。なぜ余計にこじれてるんです」
「知るか!」

 呆れたような哀れむようなロランドの視線を受けて、レクスは頭を抱えた。



「あっちが話きかないならこっちが話する必要なんてないよね、ルゥ?」
「うーん?」

 部屋に戻ったランはルゥにそう話しかけた。ルゥは首を傾げている。

「わかんないか。そりゃそうだ」

 そうして我が子を抱きしめる。

「ママはルゥがいればいいんだよ」
「ママー?」
「うんうん」

 そうだよ、なんにも変わらない。とランは思った。自分にはルゥというかけがえのない存在がいる。ルゥと一緒にいられるのなら、他は些末な問題だと。

「さーてお風呂入ってねんねしようね」

 それから、ランはレクスを無視し続けた。昼間は部屋に立てこもり、朝夕の食事の時は一切反応しない。そんな日々が三日ほど続き、そして四日目の夜だった。

「ラン、俺が悪かった……」

 とうとうレクスが謝ってきた。

「本当に思ってる?」
「ああ……」

 そう答えるレクスの顔色はとても悪くて、ランは少しやり過ぎてしまったな、と思った。

「……こっちこそ、ごめん。大人げなかった」
「ラン」
「アレン様にはお世話になった、それだけだよ」
「ああ……分かってる。頭では……」

 レクスはそう言うと、自嘲的に笑った。

「なのに、どうしても許せないんだ。アレンが居なかったらランはずっと俺のところにいて、大きくなっていくお腹を撫でたり、産まれたばかりのルゥを抱くことだってできたのにと思ってしまって……」
「レクス……」

 その告白に、ランの胸は痛んだ。確かに、レクスの父親としての時間を一方的に奪ってしまったのは事実なのだ。

「ごめん。その時は戻らないけど、これから……ルゥと親子の時間を育んでくれる?」
「ああ、もちろんだ」

 レクスはそう言ってルゥの額に愛おしそうにキスをした。

「それで、父親として考えたんだが」
「ん?」
「動物園にいかないか?」
「動物園……」
「王都には近隣諸国一の王立動物園がある。珍しい動物も居るんだ」

 ランは以前にレクスと行った別邸のことを思い出した。

「馬もいるかな」
「ああ。小さいポニーもいる」
「じゃあ……行くよ。ルゥも喜びそうだし」
「良し、決まりだ」

 ランが頷くと、レクスはようやく笑顔を取り戻した。
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