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3話 説明して下さい!
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「それじゃあ、説明して下さい。ミユキさん」
「そうさぁねぇ……」
その日、『たつ屋』の店の奥の居間ではミユキを前に衛と瑞葉が膝をそろえて座っていた。
「簡単に言えば血かねぇ。私の母も祖母もそういう『見える』人間だったのさ」
「って事は……」
「無論、穂乃香もそうだった。本人はあやかし相手のよろず屋なんて嫌がって出て行ってしまったけどね」
「それじゃあ、瑞葉も……」
衛は不安げに娘の瑞葉を見つめた。
「ああ、あたしの見たところ『力』がだだ漏れだね。あんたが猫の言葉や葉月の姿を見られるようになったのもそのせいだと思うよ」
「それって危なくないんですか?」
衛は瑞葉の手をきゅっと握った。守るべき家族は瑞葉ただ一人だと衛は自分に言い聞かせる。そんな衛を安心させるかのようにミユキは笑った。
「ははは、過保護だねぇ。自転車だって転びながら乗り方を覚えるだろう?」
「でも……」
「パパ、瑞葉はちょっとへんなのが見えるけど。なれちゃったしへーきだよ」
「瑞葉……」
衛はこの時、安易に深川に越してきた事を後悔していた。なんだ、へんな物とは……。
「子煩悩なパパちゃんにプレゼントでもしようかね。それ、これをはめておくといい」
そう言ってミユキは二つの貴石のブレスレットを差し出した。衛には読めないが、いわゆる梵字と言われる文字が刻まれている。
「これで、瑞葉の力はコントロールしやすくなるし、あんたはその分力を出しやすくなる」
「えっ」
「だってこの仕事を手伝うんだろ? うれない総菜屋でうだうだするつもりかい? この穀潰しが」
「……なっ」
ミユキの口の悪さに衛が絶句している間に、ミユキがブレスレットを衛と瑞葉に填めた。
ブレスレットはまるであつらえたように二人の腕にぴったりと嵌まった。
「なんかへんー」
「うん……」
衛の身体に何か妙な感覚が走った。なにか柔らかいものに包まれているような、そんな感覚だ。瑞葉もなにか異変を感じたのか涙目になっている。
「さ、これで準備万端だね。今度お客が来たらしっかり頼むよ」
「そんな横暴な……」
「嫌なら出ていきな、じゃああたしはひとっ風呂浴びてくるから」
取り残された衛は考え込んでいた。瑞葉の育児が十分に出来て家賃もかからない今の条件はかなりいい。穂乃香が戻るかどうかも分からない以上、せめて高学年になるまでは……。衛は唇を噛みながらミユキの条件を飲む事にした。
「ねーえ、パパ」
その夜、隣で眠る瑞葉がふと衛を呼んだ。
「どうした? 眠れないのか」
「ママは帰ってくるよ……だからパパ、大丈夫だよ」
半分うとうとと眠りながら、瑞葉は言った。帰ってくる……それなら早く帰って来て欲しいと衛は思った。
「私も白玉みたいに選んだの……パパの所に居るって……」
「……? 瑞葉?」
寝言のようなその一言に衛は身を起こしたが、その時には瑞葉は深い寝息を立てていた。
「……選んだ……?」
衛はその謎めいた言葉に首を傾げたが、今日一日の怒濤のような出来事の疲れもあってそのまま眠りの淵へと落ちていった。
「おはよー! パパ!」
「げほっ」
翌朝、瑞葉のボディアタックで目を覚ます。いかん、寝過ぎたと衛は慌てて起き上がった。
「すいません、すぐに朝食作りますんで!」
慌てて、衛は台所に駆け込んだ。そんな衛をミユキは冷めた目でお茶をすすりながら見ていた。
「もうちょっとゆっくりすりゃいいじゃないか、土曜日なんだし」
「え? あ! 本当だ!」
「騒がしいねぇ……身体はだるくないのかい」
「え? 特に……」
「丈夫で何よりだ。その輪っかを填めたら普通は一日くらい寝込むもんだけど」
それを聞いた衛は自分の左手首を見た。これの事か。
「そんな危ない物を人に……」
「まぁいいじゃないか、なんともないのなら。さあとっとと朝食作っとくれ、卵は半熟だよ」
「……分かりましたよ」
衛はそれ以上意見する事を諦めて、朝食作りに取りかかった。まずはトースターにパンを入れ、続いてサラダ、そしてベーコンを弱火でじっくりとフライパンで炙る。カリカリになった所で、卵を落としてベーコンエッグを作る。
「っと、グッドタイミング!」
ちょうどいいタイミングで、トーストが焼き上がる。香ばしい匂いに釣られて瑞葉も台所に現れた。
「さぁ、朝ご飯できましたよ」
「いただきまーす」
「いただきます」
手を合わせて朝食を頂く。朝からしっかり朝食を作るのは衛の信念だ。そして朝ごはんがパンなのはミユキの流儀だ。
「瑞葉、たまごのぐちゅぐちゅきらい……」
「なんだ、美味いじゃないか」
「ああ、ああそれじゃパパのと取っ替えようね」
賑やかな食事である。こんな食事風景も、穂乃香が行方不明になった時は無くなってしまった。こうやって落ち着いてご飯が食べられるのも、ミユキのおかげでもあるのだ。
「お義……ミユキさん、その……」
「なんだい、もごもごしないではっきり言いな」
「よろず屋さん? ですか、その仕事手伝います。……穂乃香の戻るまでは」
「そうかい」
ミユキはそっけなく答えてコーヒーを飲んだ。口には出さないが、少し嬉しそうである。
「瑞葉も手伝うよー!」
「うんうん、そうかい」
なんでも真似をしたがる年頃の瑞葉がパパの後に続くと、今度こそ笑顔でミユキは頷いた。それを見た衛は焦って注意した。
「危ないのはダメだぞ!」
「大丈夫、大丈夫。あたしも付いているんだから」
ははは、とミユキはご機嫌に笑い、衛は盛大にため息をついた。
「そうさぁねぇ……」
その日、『たつ屋』の店の奥の居間ではミユキを前に衛と瑞葉が膝をそろえて座っていた。
「簡単に言えば血かねぇ。私の母も祖母もそういう『見える』人間だったのさ」
「って事は……」
「無論、穂乃香もそうだった。本人はあやかし相手のよろず屋なんて嫌がって出て行ってしまったけどね」
「それじゃあ、瑞葉も……」
衛は不安げに娘の瑞葉を見つめた。
「ああ、あたしの見たところ『力』がだだ漏れだね。あんたが猫の言葉や葉月の姿を見られるようになったのもそのせいだと思うよ」
「それって危なくないんですか?」
衛は瑞葉の手をきゅっと握った。守るべき家族は瑞葉ただ一人だと衛は自分に言い聞かせる。そんな衛を安心させるかのようにミユキは笑った。
「ははは、過保護だねぇ。自転車だって転びながら乗り方を覚えるだろう?」
「でも……」
「パパ、瑞葉はちょっとへんなのが見えるけど。なれちゃったしへーきだよ」
「瑞葉……」
衛はこの時、安易に深川に越してきた事を後悔していた。なんだ、へんな物とは……。
「子煩悩なパパちゃんにプレゼントでもしようかね。それ、これをはめておくといい」
そう言ってミユキは二つの貴石のブレスレットを差し出した。衛には読めないが、いわゆる梵字と言われる文字が刻まれている。
「これで、瑞葉の力はコントロールしやすくなるし、あんたはその分力を出しやすくなる」
「えっ」
「だってこの仕事を手伝うんだろ? うれない総菜屋でうだうだするつもりかい? この穀潰しが」
「……なっ」
ミユキの口の悪さに衛が絶句している間に、ミユキがブレスレットを衛と瑞葉に填めた。
ブレスレットはまるであつらえたように二人の腕にぴったりと嵌まった。
「なんかへんー」
「うん……」
衛の身体に何か妙な感覚が走った。なにか柔らかいものに包まれているような、そんな感覚だ。瑞葉もなにか異変を感じたのか涙目になっている。
「さ、これで準備万端だね。今度お客が来たらしっかり頼むよ」
「そんな横暴な……」
「嫌なら出ていきな、じゃああたしはひとっ風呂浴びてくるから」
取り残された衛は考え込んでいた。瑞葉の育児が十分に出来て家賃もかからない今の条件はかなりいい。穂乃香が戻るかどうかも分からない以上、せめて高学年になるまでは……。衛は唇を噛みながらミユキの条件を飲む事にした。
「ねーえ、パパ」
その夜、隣で眠る瑞葉がふと衛を呼んだ。
「どうした? 眠れないのか」
「ママは帰ってくるよ……だからパパ、大丈夫だよ」
半分うとうとと眠りながら、瑞葉は言った。帰ってくる……それなら早く帰って来て欲しいと衛は思った。
「私も白玉みたいに選んだの……パパの所に居るって……」
「……? 瑞葉?」
寝言のようなその一言に衛は身を起こしたが、その時には瑞葉は深い寝息を立てていた。
「……選んだ……?」
衛はその謎めいた言葉に首を傾げたが、今日一日の怒濤のような出来事の疲れもあってそのまま眠りの淵へと落ちていった。
「おはよー! パパ!」
「げほっ」
翌朝、瑞葉のボディアタックで目を覚ます。いかん、寝過ぎたと衛は慌てて起き上がった。
「すいません、すぐに朝食作りますんで!」
慌てて、衛は台所に駆け込んだ。そんな衛をミユキは冷めた目でお茶をすすりながら見ていた。
「もうちょっとゆっくりすりゃいいじゃないか、土曜日なんだし」
「え? あ! 本当だ!」
「騒がしいねぇ……身体はだるくないのかい」
「え? 特に……」
「丈夫で何よりだ。その輪っかを填めたら普通は一日くらい寝込むもんだけど」
それを聞いた衛は自分の左手首を見た。これの事か。
「そんな危ない物を人に……」
「まぁいいじゃないか、なんともないのなら。さあとっとと朝食作っとくれ、卵は半熟だよ」
「……分かりましたよ」
衛はそれ以上意見する事を諦めて、朝食作りに取りかかった。まずはトースターにパンを入れ、続いてサラダ、そしてベーコンを弱火でじっくりとフライパンで炙る。カリカリになった所で、卵を落としてベーコンエッグを作る。
「っと、グッドタイミング!」
ちょうどいいタイミングで、トーストが焼き上がる。香ばしい匂いに釣られて瑞葉も台所に現れた。
「さぁ、朝ご飯できましたよ」
「いただきまーす」
「いただきます」
手を合わせて朝食を頂く。朝からしっかり朝食を作るのは衛の信念だ。そして朝ごはんがパンなのはミユキの流儀だ。
「瑞葉、たまごのぐちゅぐちゅきらい……」
「なんだ、美味いじゃないか」
「ああ、ああそれじゃパパのと取っ替えようね」
賑やかな食事である。こんな食事風景も、穂乃香が行方不明になった時は無くなってしまった。こうやって落ち着いてご飯が食べられるのも、ミユキのおかげでもあるのだ。
「お義……ミユキさん、その……」
「なんだい、もごもごしないではっきり言いな」
「よろず屋さん? ですか、その仕事手伝います。……穂乃香の戻るまでは」
「そうかい」
ミユキはそっけなく答えてコーヒーを飲んだ。口には出さないが、少し嬉しそうである。
「瑞葉も手伝うよー!」
「うんうん、そうかい」
なんでも真似をしたがる年頃の瑞葉がパパの後に続くと、今度こそ笑顔でミユキは頷いた。それを見た衛は焦って注意した。
「危ないのはダメだぞ!」
「大丈夫、大丈夫。あたしも付いているんだから」
ははは、とミユキはご機嫌に笑い、衛は盛大にため息をついた。
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