ジェンダーレス男子と不器用ちゃん

高井うしお

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真希が水着に着替えたら

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 仕事帰りに今日はかのん君の所に行く。今日は梅雨寒だから白菜とベーコンのお鍋なんだって。それってお鍋なのかな、スープじゃなくて?
 私は駅前のスーパーで、かのん君が切らしたというベーコンを買ってから向かった。

「おまたせ、これで合ってる?」
「うん、この厚切りのやつがよかったんだ。じゃあ、すぐできるから座って待っててよ」
「はーい」

 リビングのソファーに腰掛け、鞄を置き胸元のブラウスを一つだけゆるめた。この頃は気温は低いのに蒸し暑い。身体がおかしくなりそうだ。

「あれ、これなに……?」

 ローテーブルの上にはそんな梅雨を吹き飛ばしそうな常夏のビーチが表紙の、旅行パンフレットが何冊も置いてあった。

「……? かのん君、旅行に行くの?」
「え? ああうん、やっぱりここは南の島かなーって。紫外線が怖いけど」
「そうなんだ、気を付けてね」

 紫外線かー、確かにかのん君は日本人ばなれした色の白さだ。春の内からせっせと日焼け止めを塗っているのも知っている。

「真希ちゃん、真希ちゃんも行くんだよ?」
「……え?」
「だって水族館行った時、真希ちゃんがダイビングするっていうから沖縄にしようって思ったの」
「えっ、えっ」

 かのん君はキッチンからとことことやって来ると、ソファーに座っていた私に跪いた。

「真希ちゃん、先日はありがとう。事務所の社長が彼女と旅行でもいってらっしゃいって休みくれたんだ。一緒に来てくれるよね」
「そうなんだ……だったら喜んで。でも沖縄で本当にいいの?」
「うん、なんか調べたらマリンスポーツ以外にも色々あるし、ここは俺の誕生日なんだから好きにしてもいいかなって」
「そう、誕生日……誕生日!?」
「うん六月二十四日が誕生日。言ってなかったっけ」
「ごめん聞いて無かった……それじゃあ、せっかくの沖縄漫喫しないとね」
「うん」

 その後、かのん君が作った白菜のベーコン鍋を囲みながら旅行のプランを練ったのだった。白菜のベーコン鍋は鍋一杯に白菜とベーコンとプチトマトを詰め込んだ洋風の鍋だった。一風変わった感じだけどベーコンの旨味が出ておいしい。最後はパスタを入れてスープパスタみたいにして残さず食べた。



「それにしても……むむむ……水着か……」

 夕食を食べた帰り道、私は一人で呟いていた。かのん君との初めての旅行、それも沖縄となると持ってる水着が全部気に入らなくなってきた。

『桜井さん至急応援請う』

 こういう時の神様仏様桜井様。私は桜井さんに応援を求めた。すぐさま『OK』のスタンプが飛んでくる。

『して今回の任務は』

 ノリノリだな、桜井さん。私は沖縄にかのん君と旅行に行く旨を伝えた。

『なるほど、水着選びは重要な任務と心得ますが、貴殿は何かお忘れではないか?』
『え、なに?』
『ブラとパンツは万全か……!!』

 ……忘れていた……そうだよ、旅行だよ。もしがいちまんがいち、いやいやそういう時の下着も買っとかなきゃ……だめ? だめだよね。

『貴殿の助言、深く痛み入りました。ついては翌日、付き添いをお願いしたい』
『了解』

 そっかあ……そっかあ……。旅行ってことは一緒の部屋で寝起きするんだよね。下手したらお風呂もっ……ていうか……。

「初……えっち……?」

 わー! なんか意識したたはずかしくなって来ちゃった。私はうちにもどるとタンスをひっくり帰して下着をひっぱりだした。

「これもダメ、こっちも……」

 買うしかないか、桜井さんと。どうせなら最高の一夜にするために。パンツの山の中で私はひとり、決意を固くするのだった。
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