先生、いい加減諦めてください!

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第20話

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 放課後の教室に、一人残って日誌を書いていた。

 窓の外はもう夕焼けの色を失いかけていて、

 空は灰色に近い青に沈み、街の音も遠くなっていた。

 教室の蛍光灯だけが、無機質な白さで机を照らしていた。

 その光は、どこか冷たくて、でも安心する。

 誰もいない空間は、少しだけ落ち着く。
 でも、少しだけ寂しくもある。

 静けさに包まれていると、自分の輪郭がはっきりする気がする。

 誰にも見られていないときほど、自分が“自分”でいられる。

「一人で何してんの」

 声が教室の静けさを破った。

 振り返ると、思った通りの顔。

 驚きはしなかった。

 いつでもどこでも現れるんだから。
 そういう人だって、もう分かってる。

「日誌を書いてるんです」

 できるだけ淡々と答えた。
 感情を乗せないように。

 でも、ペンを持つ手が少しだけ強く握られていた。

 一人でいることに、理由なんていらないはずなのに。

 説明を求められると、自分の選択が間違っていたような気がしてくる。

「いつもの2人は?」

 あの二人といることが定着している。

 それがなんだか嬉しかった。

 自分が誰かの一部になっているようで、少しだけ安心する。

「紬は彼氏とデートに行って、陽真は部活に行きました」

 紬は、久しぶりのデートに浮き足立っていた。

 誰かに期待されて、誰かに会いに行く。
 その姿が少しだけ眩しかった。

 陽真は、いつも通り。
 一番乗りに教室を出ていった。

 何も言わずに、でも確かに背中で伝えてくる。

 そんなに夢中になれるものがあるなんて、羨ましい限りだ。

「てか、日直って二人でするもんだろ?」

 先生は、私しかいないことを不思議に思ってるみたいだった。

 まぁ、そうなんだけど。

「藤崎くんなら部活に行きましたよ」

 名前を口にするだけで、少しだけ空気が変わる気がした。

 彼のことをどう思っているのか、自分でもまだ分からない。

「あいつ…呼んでこようか」

 その言葉に、ペンを持つ手が止まった。
 呼ばなくていい。

「私が、一人でできるって断ったんです」

 藤崎くんは、残るって言ってくれた。

 それを断ったのは私だ。

 そんなに時間もかからないだろうし、部活に行くべきだと。

 日誌は私でも書ける。

 だけど、部活に必要なのは藤崎くんだから。

「だとしても」

 先生は今にも動き出しそうだった。

 その足音が、まだ鳴っていないのに聞こえる気がした。

「日誌以外はちゃんと手伝ってくれたから、それで十分です」

 日直の仕事自体、全く手伝ってくれないと思っていたのに、

 予想とは違って、ちゃんと動いてくれた。

 ノートだって半分以上持ってくれたし、

 黒板だって「上の方は届かないでしょ」って、ほとんど彼が消してくれた。

 見た目や口調だけで、人を決めつけていたのかもしれない。

 人は見た目によらない。

 そう思った瞬間、少しだけ藤崎くんのことを見直した。
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