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第156話
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朝陽先輩と並んで歩く道は、いつもより少しだけ静かに感じた。
車の音も、人の話し声も。
私の耳には、先輩の足音と、私の呼吸だけが響いていた。
そのときだった。
「あ、心桜ちゃんおはよう」
その声が耳に届いた瞬間、私の心臓がひとつ跳ねた。
振り返る前に、誰の声かは分かっていた。
沙紀先輩。
朝陽先輩が立ち止まり、私もその隣で足を止める。
沙紀先輩が、少し小走りで近づいてきていた。
明るくていつも通りで、何も変わっていないようなその声が、今の私には少しだけ眩しかった。
「…沙紀先輩、おはようございます」
声が少しだけ硬くなってしまった。
自分でも分かるくらいに。
でも、それ以上柔らかくできなかった。
今日は、会いたくなかったな、なんて。
そんなことを思ってしまう自分が、少しだけ嫌だった。
「沙紀ちゃんおはよう」
朝陽先輩の声は変わらず穏やかで、私の心のざわつきを少しだけ静めてくれる。
彼の声には、余計なものが何もない。
探るような響きも、遠慮がちな気配もない。
ただまっすぐで、わたしの隣にいてくれる音。
その声に、私は少しだけ呼吸を整えた。
「朝陽くんも一緒だったんだね」
沙紀先輩の言葉に、わたしは無意識に制服の袖を握った。
その目が、何かを言いたそうに揺れていた。
別に悪いことはしてないのに、冷や汗が出るのはどうしてだろう。
私は、ただ朝陽先輩と一緒に登校しているだけ。
柊先輩に頼まれて、それを受け入れて、
それだけのこと。
でも沙紀先輩の前に立つと、その“それだけ”が、急に意味を持ち始める。
「柊に頼まれて、一緒に登校してるんだ」
「柊が…?」
沙紀先輩の顔が少し曇ったように見えた。
「心桜ちゃんを一人にするのは危ないからって」
「そう…なんだ」
その声は、少しだけ沈んでいた。
その響きに、私は何かを感じ取ろうとしたけれど、
うまく言葉にならなかった。
彼女が何を考えているのか分からなかった。
「何か、あったの?」
朝陽先輩の問いかけに、私は立ち止まった。
心臓がひとつ跳ねた。
頭の中でゆっくりと浮かんでくる。
あの男のこと。
「え?」
声が、思ったよりも小さくなった。
喉が少しだけ詰まって、言葉がうまく出てこなかった。
私は、朝陽先輩の顔を見られなかった。
視線を地面に落として、靴のつま先を見つめた。
でも、きっと柊先輩は、あの男のことを話してないと思う。
柊先輩は、私のことを守ろうとしてくれている。
でも、その“守り方”は、誰かに話すことじゃない。
柊先輩は、私の不安を誰かに説明するよりも、
自分で受け止めようとしたんだと思うから。
「柊の声が、なんだか必死でさ。理由は教えてくれなかったから、ちゃんとは分からないけど」
朝陽先輩の言葉が、私の胸の奥に静かに落ちてきた。
必死。その言葉が、思った以上に重く響いた。
車の音も、人の話し声も。
私の耳には、先輩の足音と、私の呼吸だけが響いていた。
そのときだった。
「あ、心桜ちゃんおはよう」
その声が耳に届いた瞬間、私の心臓がひとつ跳ねた。
振り返る前に、誰の声かは分かっていた。
沙紀先輩。
朝陽先輩が立ち止まり、私もその隣で足を止める。
沙紀先輩が、少し小走りで近づいてきていた。
明るくていつも通りで、何も変わっていないようなその声が、今の私には少しだけ眩しかった。
「…沙紀先輩、おはようございます」
声が少しだけ硬くなってしまった。
自分でも分かるくらいに。
でも、それ以上柔らかくできなかった。
今日は、会いたくなかったな、なんて。
そんなことを思ってしまう自分が、少しだけ嫌だった。
「沙紀ちゃんおはよう」
朝陽先輩の声は変わらず穏やかで、私の心のざわつきを少しだけ静めてくれる。
彼の声には、余計なものが何もない。
探るような響きも、遠慮がちな気配もない。
ただまっすぐで、わたしの隣にいてくれる音。
その声に、私は少しだけ呼吸を整えた。
「朝陽くんも一緒だったんだね」
沙紀先輩の言葉に、わたしは無意識に制服の袖を握った。
その目が、何かを言いたそうに揺れていた。
別に悪いことはしてないのに、冷や汗が出るのはどうしてだろう。
私は、ただ朝陽先輩と一緒に登校しているだけ。
柊先輩に頼まれて、それを受け入れて、
それだけのこと。
でも沙紀先輩の前に立つと、その“それだけ”が、急に意味を持ち始める。
「柊に頼まれて、一緒に登校してるんだ」
「柊が…?」
沙紀先輩の顔が少し曇ったように見えた。
「心桜ちゃんを一人にするのは危ないからって」
「そう…なんだ」
その声は、少しだけ沈んでいた。
その響きに、私は何かを感じ取ろうとしたけれど、
うまく言葉にならなかった。
彼女が何を考えているのか分からなかった。
「何か、あったの?」
朝陽先輩の問いかけに、私は立ち止まった。
心臓がひとつ跳ねた。
頭の中でゆっくりと浮かんでくる。
あの男のこと。
「え?」
声が、思ったよりも小さくなった。
喉が少しだけ詰まって、言葉がうまく出てこなかった。
私は、朝陽先輩の顔を見られなかった。
視線を地面に落として、靴のつま先を見つめた。
でも、きっと柊先輩は、あの男のことを話してないと思う。
柊先輩は、私のことを守ろうとしてくれている。
でも、その“守り方”は、誰かに話すことじゃない。
柊先輩は、私の不安を誰かに説明するよりも、
自分で受け止めようとしたんだと思うから。
「柊の声が、なんだか必死でさ。理由は教えてくれなかったから、ちゃんとは分からないけど」
朝陽先輩の言葉が、私の胸の奥に静かに落ちてきた。
必死。その言葉が、思った以上に重く響いた。
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