私の大好きな彼氏はみんなに優しい

74話

「…もう落ち着いた」

　私は深呼吸をしながら言った。

　息を整えながら、少しずつ心が静まっていくのを感じた。

　胸の痛みが和らぎ、呼吸が楽になってきた。

「良かった」

　柊先輩の声には安堵が込められていた。

　先輩の優しい表情に、私は少しだけほっとした気持ちになる。

「ごめんね心配かけて」

「謝らなくていいよ。それより、これからは別の道を使った方が良さそうだね」

　避けるのは、逃げてるみたいで嫌だけど仕方ないか。

「うん、そうだね」

　私は頷きながら答えた。

「立てそう？」
と心配そうな表情で尋ねた。

　その優しい声が、私に安心感を与えてくれた。

　時計を見ると、予鈴まで後10分だった。

「うん。急いだらまだ間に合う…」

　私は立ち上がりながら言った。
　少しだけ力を入れて、足元を確かめる。

「無理しないでゆっくり行ってもいいんだよ？」

「ううん。大丈夫」

　遅刻したら、またみんなに心配かけちゃうし。

「そっか、じゃあ「…あ、」」

　私たちが歩き始めたその時、突然声がかかった。

　振り向くとそこには遥希くんが立っていた。

「遥希くん？遥希くんがこんな時間に登校って珍しいね」

　いつも20分前には学校に着いてるはずなのに。
　遅刻ギリギリなんて、珍しい。

「うん。ちょっと用事があってね」

　遥希くんは少し笑って答えた。

「そう、なんだ」

　何か、あったんだろうか。
　もしかして、昨日話そうとしていたことが原因なんだろうか。

「心桜ちゃん、大丈夫？ちょっと顔色悪いけど」

　遥希くんが心配そうに私を見て言った。

「あ、うん。大丈夫だよ」

　私は少し動揺しながら答えた。

　遥希くんが私の様子をじっと見つめる。

「何かあったの？」

　遥希くんがさらに問いかけてきた。

　あの人のことがトラウマになってるなんて、余計に心配かけるだけだ。

「ううん、ただちょっと風邪気味かも。でも、もう大丈夫」

　私は笑顔を作って答えた。
　少しでも元気に見せようと努めた。

「そうか、それならいいけど、無理しないでね」

「ありがとう」

　私たちは三人で学校へ向かって歩き出した。

　先輩と遥希くんと一緒に歩くことで、少しずつ心が軽くなっていくのを感じた。

　冷たい風が吹き抜ける中、二人の温かい存在が私を包んでくれる。

　歩いている途中で、柊先輩がふと立ち止まり、遥希くんに向き直った。

「遥希くん。心桜のこと頼むね、」

　真剣な表情で言った。

「…もちろんです」

　遥希くんは一瞬戸惑ったように見えたが、すぐに真剣な表情で答えた。 

　柊先輩は一瞬、遥希くんの目をじっと見つめてから、ゆっくりと頷いた。

「ありがとう、遥希くん」

　私は感謝の気持ちを込めて言った。

「大丈夫だよ。俺たちがついてるから」

　遥希くんは優しい声で言った。

　その言葉に、私は少しずつ心が軽くなるのを感じた。

　一人で抱えていた時は、真っ暗な道をただひたすら歩いていた。

　何も見えず、ただ先が不安で不安で仕方なかった。

　だけど今は、隣に頼れる人たちがいる。
　その存在が、私を照らしてくれる光となっている。


　それだけで、頑張れそうな気がした。