私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

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第92話

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 歩いていると、後ろから肩を叩かれた。

 驚いて振り返ると、そこには遥希くんがいた。

「心桜ちゃん、おは…」

 遥希くんの声が少し明るく聞こえたが、彼の目が私の顔に留まった瞬間、言葉が途切れた。

「あ、遥希くん。おはよ、」

 私は泣いたのがバレないように、俯いて返事をした。

 泣いたって、バレたかな。

 声が震えないように気をつけたけど、自分の心の動揺は隠しきれなかった。

「…何があったの」

 遥希くんの声が急に真剣になった。

 その一言が、私の心に深く響く。

「別に、何も無いよ」

 無理に笑顔を作る元気もなく、俯いたまま答えた。

「嘘。じゃあこっち見てよ」

 目を合わせることが怖くて、必死に顔をそむけた。

 自分の涙を見られたくない。こんな情けない姿、見せたくない。

 それに、こんなことで心配をかけたくなかった。

「ごめん、ちょっと…先行くね、」

 私は早足でその場を離れようとした。

 一緒にいても、まともな言い訳なんて思いつきそうになかった。

 逃げるように歩き出したけど、その一歩一歩が重く感じられた。

「待って」

 遥希くんの声が響くと同時に、腕を思い切り掴まれた。

「…離して」

 私は弱々しく言った。

 だけど、遥希くんの手の力強さに、私の心が少しだけ落ち着くのを感じた。

「何があったのか教えて?」

 遥希くんの声が再び問いかけてきた。

 その優しさに、涙が溢れそうになる。

 彼が本当に私を心配していることが伝わってくると、心が揺れる。

 その優しさが辛くて、、心が痛む。

「だから、何もな」

 私は言葉を詰まらせながらも、何とか返事をしようとした。

 だけど、その言葉は遥希くんによって遮られる。

「何もないなら、そんな顔はしないでしょ」

 遥希くんの言葉が、私の心に深く突き刺さる。

 その一言が、私の涙を誘う。
 彼の言葉が、私の心の壁を崩していく。

「私が…私が、もう少し強かったら、」

 私の声が震える。

 心も、身体も、もう少し強かったら、怖がる必要なんてなかったのに、なんて、自分の弱さを感じるたびに、心が痛む。

 強くなれない自分に、苛立ちと悔しさが込み上げてくる。

「なんの話しを…っ、もしかして、あの男が」

 そういうと、私の顔を両手で優しく挟み、左右に動かしながら怪我をしていないか確認し始めた。

 その視線が不思議と温かく感じられた。

「違うよ、」

 私は急いで答えた。
 誤解をさせてしまったみたいだ。

「じゃあどうして…ところで、どうして先輩と一緒じゃないの」

 遥希くんの言葉に、私の心臓が一瞬止まる。
 心臓がバクバクと音を立てる。

「それ、は、」

 私は言葉を詰まらせた。

 自分の気持ちをどう伝えるべきなのか、その答えが見えない。

「…ねぇ、心桜ちゃん」

 今から何を言われるんだろう。
 何か、勘づいたんだろうか。

「何、?」

 答えを聞くのが怖かった。


 遥希くんは、私が心配しているのをよそに、優しく微笑んだ。




「学校、サボっちゃおっか」
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