私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

文字の大きさ
114 / 181

第114話

しおりを挟む
「それでも、ごめんね。私のせいで色々気を使わせちゃって」  

 声が小さく震え、申し訳なさが胸の奥にじわじわと広がる。

 視線を床に落としながら、遥希くんの顔を見る勇気が出ない。

「心桜ちゃんの方こそ、びっくりしたでしょ」  

 遥希くんは、いつも自分のことよりも私のことを考えてくれる。

 遥希くんの優しさが痛いほど心に響き、自分の弱さがさらに際立つように思えた。

「したけど…実は私もちょっと前から知ってたんだよね」  

 思わず漏れたその言葉に、彼が少し驚いた表情を見せた。

「そうなの?」 

「うん。ほら、傘を取りに教室に戻った日」  

 その時の記憶が鮮明に蘇り、胸の奥が締め付けられる。

 沙紀先輩の声や視線が頭の中に響き、その場の恐怖が再び感覚として戻ってくる。

「あぁ。それで元気がなかったのか」  

「あの時は、沙紀先輩にバレずに逃げ出せたんだけど、」  

 声がかすかに震える。

 沙紀先輩のことを思い出すたびに、背筋が冷たくなるような感覚が蘇る。

「今日はなんの話を聞いたの?」  
 遥希くんが問いかけてくるその声に、胸がざわついた。

 その言葉を受けて、何を伝えるべきか迷い、言葉が詰まる。

 本当のことは話せそうにない。

「大した話じゃなかったよ、」  

 短い答えで彼の視線を避ける。

 真実を伝えるべきかどうか迷う中で、自分の気持ちを整理できずにいた。

 その言葉が自分の胸の奥で響き、押し込めていた恐怖が小さく膨らんでいく。

「そんなわけないでしょ?あんなに震えてたんだから」  

 彼が少し声を強くして問いかけてくるその瞬間、胸の中で緊張が大きくなった。

 自分の感情を隠すべきか、それとも伝えるべきか…

「それは、」  

 答えられないまま、言葉を途切れさせてしまう。

 その一瞬に彼が静かに息を吸い込む音が耳に届き、胸の奥で鼓動がさらに速くなる。

「教えてよ。なにか力になれることが、あるかもしれないしさ、」  

 彼が切り出したその言葉に、胸の奥でわずかに暖かさが広がる。

 それでも、その優しさを受け止めることができず、視線を逸らしてしまう。

 彼の誠実さが痛いほど響き、どうしても素直になれない自分がいた。

 遥希くんは優しい。
 だからこそ、頼るべきじゃないんだと思う。

「だからだよ、」  

 遥希くんが私を助けてくれたのは、一度や二度じゃない。

 沙紀先輩を押し倒したって、柊先輩に疑われてた時だって、私のことを信じてくれた。

 元気がなかった時も、ただ傍にいてくれた。

 今回のあの男の件だって。
 私に危険が及ばないように、こうして一緒に帰ってくれてる。

 私は、遥希くんに頼りすぎだ。

「え?」  

 遥希くんが小さく答えたその一言に、自分の言葉の重さを改めて感じる。

 彼に伝えたいことが山積みなのに、何も言えずにいる自分が情けなかった。


「遥希くんなら、きっと助けてくれる。でも、これ以上迷惑かけたくないんだよね、」  



 すべての思いを吐き出すように言葉を紡ぐ。


 遥希くんがどう受け止めるかを恐れながら、次の言葉を待った。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

友達の肩書き

菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。 私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。 どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。 「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」 近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

処理中です...