私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

文字の大きさ
123 / 181

第123話

しおりを挟む
「心桜ちゃんは、柊先輩と周らないと」

瞬間、言葉の意味がじわりと染み込む。

どうしてそんな風に…。

もし私が柊先輩と周るのなら、必然的に遥希くんは沙紀先輩と周ることになる。

それで、本当にいいんだろうか?

そう思った途端、胸の奥に小さなひっかかりが生まれた。 

「どうして、」

考えがまとまらないまま、問いかける。

柊先輩と沙紀先輩二人で周らせたほうが、うまく収まりそうなのに。

「最初で最後でしょ」

その言葉が心の奥深くに染み込んでいく。

文化祭は、一度しかない。

来年にはもうない。この瞬間だけ。

この時間をどう過ごすかは、後の思い出を左右するのかもしれない。

どうすれば正解なのかを考えてしまう。

そして、考えれば考えるほど、胸がぎゅっと締め付けられる。  

「そうだけど、」

かすかに視線を落としながら答える。

分かっている。分かっているけど…。

反論できない。

楽しいはずの文化祭が、こんなにも難しい選択を迫ってくるなんて、想像もしていなかった。

こんな風に決める必要なんて、本当はないはずなのに。  

心がモヤモヤと霧に包まれるような感覚が広がっていった。  

「後悔しない?」

その言葉が鋭く心に刺さる。

後悔しないために、この文化祭を大切にしたい。

けれど、本当に後悔しない選択って何なのだろう。

今、この瞬間をどう過ごすかで未来が変わってしまう。

正しい選択をしないと、取り返しがつかない気がする。

「それは、でも…」

言葉が喉の奥で引っかかる。

考えすぎて、うまく言葉にできない。
言いたいことはある。

でも、どう伝えればいいのかわからない。  

どんな道を選んだとしても、少しの未練は残るんじゃないだろうか。

なんて、そんな考えが堂々巡りを始める。  

大切なのは、後になって振り返ったときに、その選択が良かったと思えること。

私は、先輩と過ごす時間を大切にしたい。

 でも、二人で周ることで遥希くんが犠牲になるくらいなら…。

遥希くんはどう思っているんだろう。

もし、彼が本当はこの状況を不満に感じていたら、

でも、彼はそんな素振りを一切見せない。

ただ、私がどうすべきなのかを、真剣に考えさせようとしてくれている。  

「それに、ムカつくじゃん」

意外な言葉に、思考が一度止まる。
ムカつく?何が?

頭の中でその言葉を繰り返しながら、意味を探る。  

「え?」

無意識に問い返していた。

遥希くんがこんなふうに強い言葉を使うのは珍しい。

でも、その言葉の裏には、何かはっきりとした意図があるはずだ。  

「全部あの人の思い通りで」

その瞬間、何かが腑に落ちた気がする。

沙紀先輩の望み通り。確かに、そうかもしれない。  

気づいていなかった。

でも、思い返してみれば、最初からこの流れは出来上がっていた気がする。

先輩が言ったこと、行動したこと、その全てが、私たちをある方向へ導いていたような気がする。

すべてが計算されていたのかもしれない。
どっちに転んでもいいように。

意識していなかっただけで、もしかしたら、私たちは最初から彼女の思い通りに動かされていたんじゃないか。  

そんな考えが頭をかすめた途端、胸の奥にかすかな苛立ちが生まれる。


このままでいいの?本当に、それで納得できるの?自分の意思は?  


遥希くんは、私のために気づかせようとしてくれたんだ。



だからこそ、もっとしっかり考えなきゃいけない気がする。  
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

友達の肩書き

菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。 私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。 どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。 「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」 近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

処理中です...