私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

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第124話

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「そう言われれば…」

 視線を少し落とす。

 考えすぎて、思考がまとまらない。

 気づかなかったことに、今更ながら気づいてしまったような感覚がする。

 でも、こうして言われたことで、今までの違和感がはっきり形になった気がする。  

 全部沙紀先輩の望み通りに動いてる気がする。

 それはつまり、自分の意思がほとんど反映されていないということ

 ゆっくりと息を吐く。

 今まで流されることを当然のように受け入れていたけれど、それは本当に正しいことだったのか?  

  柊先輩と二人きりで回るのだって、三人で周るのだってきっと、沙紀先輩の思惑通りだ。

 そうなのだとしたら私は…

「俺のことは気にしないで。その代わり、ちゃんと楽しむんだよ」

 その言葉に、胸がふっと軽くなる。

 遥希くんの言葉は、どこまでも優しかった。

 遥希くんは、いつだってこうして気遣ってくれる。

 私がちゃんと楽しめるように、無理をしないように。

 それが優しさだってことは、わかっている。

 だからこそ、申し訳なくなる。  

 でも、これ以上、迷ってばかりじゃいけない。  

「ほんとにいいの、?」

 もう一度確認する。

 まだ迷いが完全に消えたわけじゃない。
 二人きりにさせるのが、あまりにも申し訳なくて。

 遥希くんが本当に納得しているなら、私はそれを信じたい。  

「もちろん」

 その言葉には、迷いがなかった。
 だからこそ、安心できた。  

「遥希くんの方こそ、後悔しない?」

 彼にも選択肢がある。

 でも、彼は迷わずこう言ってくれた。

「しないって約束する」

 優しい、でもしっかりした声。

 その言葉が、すっと胸に染み込む。

 遥希くんの気持ちは、本当に揺るがないんだ。  

 なら、私はそれを受け入れて、ちゃんと楽しもう。  

「…ありがとう」

 小さく呟く。

 思っていたよりも、この言葉に気持ちが込められていた。  

「どういたしまして。それじゃ、帰ろっか」

 静かに歩き出す。

 窓から射し込む夕陽が、廊下の床に淡く伸び、そこに私たちの影が重なる。  

 歩き出したものの、まだ心の奥に引っかかるものがある。  

 決断はした。  

 でも、本当にこれでよかったのか。  

 そう思うたびに、足元が少し重くなる気がした。

 歩く速度も自然と遅くなる。

 遅くなればなるほど、考えなくてもいいことをまた考えてしまいそうになる。  

「心桜ちゃん」

 ふいに呼ばれ、立ち止まる。  

 遥希くんの声は静かだった。

 それでも、ただ名前を呼ばれるだけで、胸の奥が少し揺れる。  

 振り向くと、彼はわずかに表情を変えて、じっとこちらを見つめていた。

 その目に、どこか気遣いの色が滲んでいる気がして、思わず視線を逸らしそうになる。  

「やっぱり、ちょっと気にしてる?」

 何気ない問いかけなのに、心の奥に響く。  
 胸が軽く疼く。

 気にしていないわけがない。

 気にしないふりはできる。

 でも、本当にこれで良かったのか。

 そんな考えは、まだ消えていなかった。  

 ごまかしたい。でも、ごまかせない。  

 選んだはずの選択肢が、正しかったのかどうか、未だに確信が持てない。

 もっと他に良い選択肢はなかったのだろうか?


 考えれば考えるほど、視界が霞むような気さえする。  



 そんなことばかり。  
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