その魔法が解ける前に

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第4話

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 お見合いをすることが決まってから一週間が経った。

 緊張と不安でいっぱいのまま、私は和室の席に座っていた。

 目の前には東条壱馬さんが座っている。

 俯いているから、顔ははっきりとは見えないが、それほど年は離れていないように思えた。

 私たちは向かい合って座り、静かな空間に緊張が漂っていた。

 私は深呼吸をして、少しでも心を落ち着かせようと試みた。

「初めまして。藤原花澄と申します。」

 私は緊張しながら頭を下げた。

 心臓が早鐘のように打ち、手が少し震えているのを感じた。

 壱馬様はゆっくりと顔を上げ、私を見つめた。

「東条壱馬と申します」

 彼の声は低く、冷静だった。

 彼の顔を初めて見た瞬間、私は思わず息を呑んだ。

 お姉様が言うようなおじさんではなく、むしろ見惚れてしまうくらいかっこいい。いや、美しかった。

 鋭い目元と整った顔立ち、そしてどこか冷たい印象を与えるその表情。

 まるで彫刻のようだと思った。

「…」

 彼の無表情な顔からは、何を考えているのか全く読み取れない。

 私はどう接していいのか分からず、視線を落とした。

 ただ気まずい沈黙だけが流れた。

 緊張で喉が渇き、手元の水を一口飲んだが、それでも心の中の不安は消えなかった。

「え、えっと…」

 私は何とか話題を見つけようとしたが、言葉が出てこなかった。

 どうやって話を続ければいいのか、頭の中が真っ白になった。

 そんな私を見据えてか、壱馬様が口を開いた。

「無理に話そうとしなくていい」

 その言葉に少しだけ安心したが、同時に距離を感じた。

「はい…」

 話すことも無く、ただ味のしないご飯を食べた。

 この空間が耐えられない。

 なんならお姉様に暴言を吐かれてる方がいい。
 そんなふうに思ってしまう私は重症なんだろうか。

「失礼します」

 店員さんが入ってきてくれたおかげで、居心地の悪さが少しだけ和らいだ。

「あっ」

 緊張していたのか、店員の方は手を滑らせて水の入ったグラスを私のスカートに落としてしまった。

「す、すみません!」

 故意じゃないなら仕方がない。

 わざと水をかけられるなんて当たり前の事なのに。
 私からしたら日常茶飯事だ。

「大丈夫です」

 驚きはしたけど、すぐに微笑んで答えた。

「すみません、すみません」

 店員さんは顔を真っ青にして、何度も何度も私に頭を下げた。

 私が凄く怒っているように感じたのだろうか。

「…」

 壱馬さんは何事もなかったかのように、ただご飯を食べるだけだった。

 その無関心さに、少しだけ寂しさを感じた。

「ほんとに大丈夫なので顔をあげてください」

 私はできるだけ優しく言ったが、店員さんはまだ不安そうだった。

「ですが…」

 何を恐れているんだろう。

 私がお父様に告げ口してクビにさせるとか?

 ふふっ。
 想像しただけで笑えてしまった。

「私、本当に怒ってないですよ。なので顔あげてください」

 これで伝わっただろうか。

「ありがとうございます」

 店員さんはほっとしたように顔を上げた。

「こちらこそ、美味しい食事をありがとうございます」

 私は感謝の気持ちを込めて言った。

 壱馬さんは一瞬驚いた顔をしたけど、直ぐにまた無表情に戻った。


 店員さんが深くお辞儀をして、静かに部屋を出て行った。

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