その魔法が解ける前に

hayama_25

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第23話

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「…んん、」

 アラームの音が静かに部屋に響き、私はまどろみの中でゆっくりと目を開けた。

 意識が徐々に覚める感覚に、少しだけ新鮮な気持ちを覚える。

 体を伸ばしながら深く息を吸い込む。

「こんなにぐっすり眠ったのはいつぶりだろう…」

 ベッドがふかふかで寝心地が良かったのが理由だろうか。

 部屋全体に感じる穏やかな空気が、心を静かにほぐしていく。

 窓の外に目をやると、鮮やかな朝が広がっていた。
 その光景に、つい少し長めに眺めてしまう。

「こんな朝を迎えるなんて…」

 普段の忙しない日常から解放されたこの時間が、非日常のように思えた。

 壱馬さんのご飯を用意するためにリビングへと向かった。

 テーブルの上にはピンク色の可愛い付箋紙が。

 "おはよう。本当は9時出勤なんだけど、ゆっくり寝て欲しくて嘘ついちゃった。テレビでも見てゆっくりしててよ。6時には帰るね。行ってきます"

 壱馬様のメッセージを読むうちに、彼の気遣いが心に染み渡っていく。

 嘘ついてまで私のことを気遣ってくれたの?

 これほど気を使ってくれる人がいるなんて。

 壱馬様の優しさは本物で、そこに偽りは微塵も感じられなかった。

 それが余計に申し訳ない気持ちを引き起こす。

 こんな風にしてもらえるなんて、自分は何を返せばいいのだろう。

 そう思いながら付箋を手の中でぎゅっと握りしめる。

 その小さな紙に込められた思いが、まるで心に直接触れるようだった。

 リビングには静かな朝の光が差し込み、彼の温かさが部屋全体を包んでいるように思えた。

 壱馬様がこんな風に気遣いしてくれることで、私はどれほど甘えてしまっているのだろうか。

 リビングやキッチンを見渡しても、床はピカピカに掃除されているし、洗濯物もすでに済ませてあるようだった。

「私にできることなんて、何もない…」

 "テレビでも見てゆっくりしててよ"

 その一言が、まるで優しい命令のようで、従うべきなのだと感じさせた。

 リビングのソファに腰を下ろすと、目の前に置かれたリモコンを手に取った。

 画面をつけると、穏やかな音楽が流れ始め、画面には癒しの風景が広がった。

 その映像に吸い込まれるように、少しずつ肩の力が抜けていく自分を感じる。

 しかし、どこか落ち着かない気持ちが心の片隅に残っていた。

 家にいながら何もしない時間を過ごしたことなんて、一度もなかったから。

 こんな時間にゆっくりするなんて、なんだか落ち着かない。

 いつもならこの時間は家の掃除に洗濯、夕食の買い出しをしている時間。

 今日こそは壱馬様に夕食を作れたらいいな。

 買い出しは…もう少ししてからでいっか。

 窓の外を見ると、朝の日差しが部屋を暖かく照らしている。


 壱馬さんが帰る頃には、夕焼けが見えるだろうか。


 そんなことを考えながら、私は画面を見つめ続けた。

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