157 / 193
3章 こんな私でも
160話 絶望
しおりを挟む
私を病院に連れて行っている間、妹は突然家に帰った。そして、制服や着替えをスーツケースにしまい、お金も持って家を出た。夜中のデイケア・センターへ押しかけ、ひとまず眠るところを確保。血に染まった両手を見て見ぬフリをして、目を閉じた。これからのことなんて、何も考えていなかったから。
そして、次の日、制服に着替えて出掛けた。……JHSへ。手足が震える。適当に教材を持ってきたから、今日の授業を乗り切れるだろうか。妹の持つスマホには、両親(ほぼ父)からの連絡がたまっている。開こうにも、もう、どうやって向き合えばいいのかわからない。やってしまったことは事実。妹は笑みを堪えられなかったけど、なかったことにはできない。父は偉そうで、母は父に従うばかりで。妹に正常な判断なんてできなかった。
妹は普通の顔をして、いつものように教室へ入った。スーツケースを転がしているから随分と目立つ。ボタンをつける位置も違うし、リボンはぐちゃぐちゃ。タイツは左右の長さが違ってアンバランス。不安定で落ち着きがない。目が左右に泳いで焦点が合わない。授業開始10分前。妹は端っこの席に座ると、顔を伏せて周囲をシャットアウトした。
――完全に無視できるはずもなく。
「うわ……あいつ来たのかよ」
「気持ち悪いね……」
「あの目、絶対何かやっただろ……」
「あいつ、ゲーム下手なくせに指示厨だぜ」
「相当暴言吐いてるってな……」
「隣のやつうるさいって……」
「先生に怒られてたもんな」
「この前の試験、全教科0点って前代未聞だろ」
「呪文を書いてたみたい」
「こりゃお先真っ暗だな」
「たとえ成績が良くても、人間性がてんでだめだろ」
「典型的な問題児」
「自分のことができないなんて、生まれたての子供以下だね」
「あいつ言葉喋んないからな……」
「寄生虫でも宿ってる?」
「まさに異常」
などと、散々な言われよう。どうやら、妹は常軌を逸した振る舞いをしていたらしい。家であんな言葉遣いだから、クラスでも隠しきれないことは、なんとなくわかっていたけど。この前の試験の結果をバラされ、完全に「異常」の烙印を押されてしまった。
「ちょっと遊びに行こうぜ」
「あいつの落胆した声聞いてみようよ」
「なにそれ。私もついてく」
面白半分で近づく人たちもいる。妹の耳がぴくりと動き、足音を聞き分ける。
「ねー。今どんな気持ち?」
「……」
「あんたが、うちらのこと悪く言ったときと同じシチュエーションだよ」
「私たちこんな気持ちだったの」
「わかってくれた?」
「寂しいよね? だれもお友達がいなくて苦しいよね?」
「そうだよ。それ。それ、ずっと見たかった」
「あなたが絶望を味わう瞬間を待ってたの」
そして、次の日、制服に着替えて出掛けた。……JHSへ。手足が震える。適当に教材を持ってきたから、今日の授業を乗り切れるだろうか。妹の持つスマホには、両親(ほぼ父)からの連絡がたまっている。開こうにも、もう、どうやって向き合えばいいのかわからない。やってしまったことは事実。妹は笑みを堪えられなかったけど、なかったことにはできない。父は偉そうで、母は父に従うばかりで。妹に正常な判断なんてできなかった。
妹は普通の顔をして、いつものように教室へ入った。スーツケースを転がしているから随分と目立つ。ボタンをつける位置も違うし、リボンはぐちゃぐちゃ。タイツは左右の長さが違ってアンバランス。不安定で落ち着きがない。目が左右に泳いで焦点が合わない。授業開始10分前。妹は端っこの席に座ると、顔を伏せて周囲をシャットアウトした。
――完全に無視できるはずもなく。
「うわ……あいつ来たのかよ」
「気持ち悪いね……」
「あの目、絶対何かやっただろ……」
「あいつ、ゲーム下手なくせに指示厨だぜ」
「相当暴言吐いてるってな……」
「隣のやつうるさいって……」
「先生に怒られてたもんな」
「この前の試験、全教科0点って前代未聞だろ」
「呪文を書いてたみたい」
「こりゃお先真っ暗だな」
「たとえ成績が良くても、人間性がてんでだめだろ」
「典型的な問題児」
「自分のことができないなんて、生まれたての子供以下だね」
「あいつ言葉喋んないからな……」
「寄生虫でも宿ってる?」
「まさに異常」
などと、散々な言われよう。どうやら、妹は常軌を逸した振る舞いをしていたらしい。家であんな言葉遣いだから、クラスでも隠しきれないことは、なんとなくわかっていたけど。この前の試験の結果をバラされ、完全に「異常」の烙印を押されてしまった。
「ちょっと遊びに行こうぜ」
「あいつの落胆した声聞いてみようよ」
「なにそれ。私もついてく」
面白半分で近づく人たちもいる。妹の耳がぴくりと動き、足音を聞き分ける。
「ねー。今どんな気持ち?」
「……」
「あんたが、うちらのこと悪く言ったときと同じシチュエーションだよ」
「私たちこんな気持ちだったの」
「わかってくれた?」
「寂しいよね? だれもお友達がいなくて苦しいよね?」
「そうだよ。それ。それ、ずっと見たかった」
「あなたが絶望を味わう瞬間を待ってたの」
0
あなたにおすすめの小説
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
走馬灯に君はいない
優未
恋愛
リーンには前世の記憶がある。それは、愛を誓い合ったはずの恋人の真実を知り、命を落とすというもの。今世は1人で生きていくのもいいと思っていたところ、急に婚約話が浮上する。その相手は前世の恋人で―――。
俺の可愛い幼馴染
SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。
ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。
連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。
感想もご自由にどうぞ。
ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。
カメリア――彷徨う夫の恋心
来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。
※この作品は他サイト様にも掲載しています。
【完結】勘違いしないでください!
青空一夏
恋愛
自分の兄の妻に憧れすぎて妻を怒らせる夫のお話です。
私はマドリン・バーンズ。一代限りの男爵家の次女ですが、サマーズ伯爵家の次男ケントンと恋仲になりました。あちらは名門貴族なので身分が釣り合わないと思いましたが、ケントンは気にしないと言ってくれました。私たちは相思相愛で、とても幸せな結婚生活を始めたのです。
ところが、ケントンのお兄様が結婚しサマーズ伯爵家を継いだ頃から、ケントンは兄嫁のローラさんを頻繁に褒めるようになりました。毎日のように夫はローラさんを褒め続けます。
いいかげんうんざりしていた頃、ケントンはあり得ないことを言ってくるのでした。ローラさんは確かに美人なのですが、彼女の化粧品を私に使わせて・・・・・・
これは兄嫁に懸想した夫が妻に捨てられるお話です。あまり深く考えずにお読みください💦
※二話でおしまい。
※作者独自の世界です。
※サクッと読めるように、情景描写や建物描写などは、ほとんどありません。
(完結)貴女は私の親友だったのに・・・・・・
青空一夏
恋愛
私、リネータ・エヴァーツはエヴァーツ伯爵家の長女だ。私には幼い頃から一緒に遊んできた親友マージ・ドゥルイット伯爵令嬢がいる。
彼女と私が親友になったのは領地が隣同志で、お母様達が仲良しだったこともあるけれど、本とバターたっぷりの甘いお菓子が大好きという共通点があったからよ。
大好きな親友とはずっと仲良くしていけると思っていた。けれど私に好きな男の子ができると・・・・・・
ゆるふわ設定、ご都合主義です。異世界で、現代的表現があります。タグの追加・変更の可能性あります。ショートショートの予定。
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる