ごめんね、足りなかったよね。

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3章 こんな私でも

163話 終着/執着

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 妹の手術は無事に成功したけど、1週間経っても目覚めないみたい。両親は見に行ったようだけど、私は行かなかった。退院後家に帰り、妹以外のことはなにひとつ変わらない生活を再開した。
 4日間授業を受けていなかったから、オーレリアンや友人に授業の内容を聞いた。土日で取り返して、家事以外の空いた時間に編み物を進めた。あと1週間で4月になる。だいぶ完成してきた。仕上がりが楽しみ。
『そういえば、あの人たち自主退学したんだって』
 友人からメッセージが届いて、アプリを開く。あの人たち? だれだろう。……名前を見たらわかった。
『そうなんだ。……』
 何も思わなかった、というわけではないけど。確かに姿はなくて、使っていたロッカーにものはなかった。何があったのか聞こうとしたけど、話題を変えられてしまった。やってはいけないことだったかもしれない。
『変なことを聞いてしまってごめんなさい』
 送ろうとして、ボタンを押す手が止まった。話をぶり返そうとしているのではないか? 彼女からすれば、一度終わった話のはず。慌ててデリートキーですべて消し、メッセージアプリを閉じた。
 私の知らないところで、これまでの日常が変わろうとしている。良いも悪いも。ひとつのことじゃなくて、複数のことがほつれている。どうなるかなんてだれも知らないし、聞いても答えてくれる人はいなかった。

 そういえば、薬物事件は落ち着きを見せたらしい。密告者により組織の関係ややりとりが広まり、警察が複数人の主犯格を捕らえた。その手下であった販売人や栽培人なども同時にお縄についた(密告者も)。もちろん、すべて捕まえたわけじゃないし、人間に感情がある限り薬物なんて消えない。一応、転換点……として、対策や未成年への再教育が施されるらしい。被害者と加害者両方を減らすために。
 警察の警戒が強まったこと、主犯格の逮捕による影響は計り知れない。統率者を失い、人々の意識が高まれば薬に手を伸ばす人も減る。緩やかに、減っていけばいいのだけれど。何の関係もない人たちから、それを直接感じることはできない。
「今日もありがとう」
「うん。またあしたね」
 私はというと、オーレリアンに頼りっぱなしだった。「まだ心配だから」と言われて、帰りは車で送ってもらっている。感謝しても足りない。車から降りて、バッグを肩にかける。オーレリアンのおかげでだいぶ早く帰れるから、ひとりの時間が増えたな。今日は……久しぶりの晴れだ。雪は前日も降っていなかったから、道路は乾いて走りやすいとオーレリアンは言った。
 ……両親は完全に放心状態で、最低限の行動だけで過ごしている。もはや何も話さない。外に出かけようともしない。夫婦ふたりでいても口を開かないらしいし。私から話すのも気が引ける。ふたりの機嫌を損ねたり、癇に障ったりしたらいいことなんてないから。家庭では感情の起伏を抑えて、ひとりの時間を楽しんでいる。
「こんにちは」
「こんにちは……?」
「お久しぶりです。ローレンティアですよね?」
「ああ……こんにちは。お久しぶりです」
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