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エピソード
Ep.18 名前
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Ep.18 名前
ある日、母の友人がプリンたっぷりセットを贈ってくれた。海外旅行のお土産で、全部で6個あった。母は父に見せたいとはしゃぎ、だれも手を付けなかった。ブランドもののプリンに、父も嬉しかったのだろう。なんと、ひとりで全部食べ尽くしてしまった。
「ああ。いつも世話になってる……からのだろう? 冷蔵庫の場所を取るから、もう食べたよ。美味しかった」
悪びれもせずに父は笑った。
テーブルには、空の瓶が6個あった。一口も残してくれなかった。父だけじゃなくて、この家の全員に渡したはずなのに。
本当は、食べてみたかった。
「ユリ! お誕生日おめでとう! だ~いすきなスイーツセットをあげるよ! いつまでもよろしくね!」
「わあ! ありがとう!」
友人から大きなプレゼントをもらい、家に帰って分けた。要冷蔵のものと、そうじゃないもの。プリンやアイスクリームはその辺に置けないから、仕方なく冷蔵庫/冷凍庫に入れた。誕生日プレゼントという特別な意味のあるものだから、だれにも食べられたくなかった。見た目のダサさは捨て、パッケージに大きく名前を書いた。私のものだと十分にアピールした。
「ない……!」
次の日の夜、冷蔵庫を探しても何ひとつ見つからなかった。焦っていると、シンクに何かが置かれていることに気付く。嫌な予感がしつつ覗いてみると……プリンとアイスクリームの容器、ショートケーキのケースが水に浸かっていた。
「なんで冷蔵庫のもの食べたの!」
「は?」
私は怒ったけど、父は知らん顔をしてコーヒーを飲むだけで張り合いがない。
「私の誕生日プレゼントでもらったものだよ! なんで勝手に食べるの!」
「置いてあったから食べただけだ。しかもまずい。最悪だった。腹の足しにもならないな」
「ひどい……!」
後で見たら、要冷蔵ではないスイーツも、全部父に食べられていた。母はそれを知りながら、私に何も言わなかった。
「お前は贅沢なんてするな。とっととやることをやれ」
名前なんて書いても意味がないことを学んだ。父は家にあるものを食べ尽くす怪獣だった。
理不尽だ。
今日は上の兄の誕生日で、リクエストで焼肉専門店に出掛けた。食べ放題プラン5人で、私と母が窓側に座る。父はやたらと肉を注文し、奥の席にいるふたりに焼かせた。案の定、父だけが完成した焼肉を全部食べようとした。そのことに関して、母も兄も何も言わない。慣れてしまって、食い尽くしなんて日常茶飯事だったから。私と母が焼いた肉を食べる父。しばらくして、満足気に笑ってスマホゲームを始めた。このとき、ほかの4人はテーブルサービスのパンしか食べていなかった。私はかなり腹が立って、焼けるのを待っている間にやたらめったら注文してやった。続々と生肉が届き、テーブルと父の腹がいっぱいになる。
「おい、もう食べられないんだけど」
父が声を振り絞って、苦しそうにうめいた。
「私は一口も食べてないけど? ここにいる4人全員、だれひとりとして肉に手を付けていないわ。そんなことにも気づけないの?」
父は何も言わなかった。
苦虫を噛み潰したような、痛快な表情にゲラゲラ笑った。
ある日、母の友人がプリンたっぷりセットを贈ってくれた。海外旅行のお土産で、全部で6個あった。母は父に見せたいとはしゃぎ、だれも手を付けなかった。ブランドもののプリンに、父も嬉しかったのだろう。なんと、ひとりで全部食べ尽くしてしまった。
「ああ。いつも世話になってる……からのだろう? 冷蔵庫の場所を取るから、もう食べたよ。美味しかった」
悪びれもせずに父は笑った。
テーブルには、空の瓶が6個あった。一口も残してくれなかった。父だけじゃなくて、この家の全員に渡したはずなのに。
本当は、食べてみたかった。
「ユリ! お誕生日おめでとう! だ~いすきなスイーツセットをあげるよ! いつまでもよろしくね!」
「わあ! ありがとう!」
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「ない……!」
次の日の夜、冷蔵庫を探しても何ひとつ見つからなかった。焦っていると、シンクに何かが置かれていることに気付く。嫌な予感がしつつ覗いてみると……プリンとアイスクリームの容器、ショートケーキのケースが水に浸かっていた。
「なんで冷蔵庫のもの食べたの!」
「は?」
私は怒ったけど、父は知らん顔をしてコーヒーを飲むだけで張り合いがない。
「私の誕生日プレゼントでもらったものだよ! なんで勝手に食べるの!」
「置いてあったから食べただけだ。しかもまずい。最悪だった。腹の足しにもならないな」
「ひどい……!」
後で見たら、要冷蔵ではないスイーツも、全部父に食べられていた。母はそれを知りながら、私に何も言わなかった。
「お前は贅沢なんてするな。とっととやることをやれ」
名前なんて書いても意味がないことを学んだ。父は家にあるものを食べ尽くす怪獣だった。
理不尽だ。
今日は上の兄の誕生日で、リクエストで焼肉専門店に出掛けた。食べ放題プラン5人で、私と母が窓側に座る。父はやたらと肉を注文し、奥の席にいるふたりに焼かせた。案の定、父だけが完成した焼肉を全部食べようとした。そのことに関して、母も兄も何も言わない。慣れてしまって、食い尽くしなんて日常茶飯事だったから。私と母が焼いた肉を食べる父。しばらくして、満足気に笑ってスマホゲームを始めた。このとき、ほかの4人はテーブルサービスのパンしか食べていなかった。私はかなり腹が立って、焼けるのを待っている間にやたらめったら注文してやった。続々と生肉が届き、テーブルと父の腹がいっぱいになる。
「おい、もう食べられないんだけど」
父が声を振り絞って、苦しそうにうめいた。
「私は一口も食べてないけど? ここにいる4人全員、だれひとりとして肉に手を付けていないわ。そんなことにも気づけないの?」
父は何も言わなかった。
苦虫を噛み潰したような、痛快な表情にゲラゲラ笑った。
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