ごめんね、足りなかったよね。

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エピソード

Ep.19 呪ってやる

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Ep.19 呪ってやる
「疲れた」
 私、なんで生きているんだろう。好きで生まれたわけじゃないのに。両親に頼んだわけでもないのに。
「なんで私を生んだの。こんな生産性のない人間、殺してしまえば良かったのに」 
 だれかに理解してほしくて、母に訴えたことがある。母は父の言いなりで、自分というものがない。手が伸びてくることを恐れ、逆上させないように機嫌をうかがう。父は甘えて、我儘がエスカレートするだけ。母はわかってやっている。だから余計タチが悪い。
 母はアイロン台のシャツを払い除けて、死んだ目で毒を吐いた。父も兄もいない時間、確かに止まったときがあった。
「なんでって、それはこっちのセリフよ。あんたが勝手に生まれてきたじゃない」
 ねえお母さん、それって本当? 私は産んでほしいってお願いして頭を下げたの? 子供って勝手に生まれるものなの? 違うよね。違う……よね? 
「お父さんがどれだけ怒っているのか、見てわからないの? そう? わからない? あんたの目は節穴なのね。本当、なんでこんな物分りの悪い子に育ったのかしら」
 否定してほしかった。ただ一緒にいてほしかった。抱きしめてほしかった。たった一言……。そんなことを願った私がバカでした。
「……」
「ばーかばーか!」
「さっさとくたばれ!」
「あはははははは!」
 外の連中に喧嘩をふっかけて、起き上がれなくなるほどボコボコに蹴られた。もう動けない。仰向けで寝転がり、震える右手を高く上げて暗闇を仰ぐ。
(私……死ねるのかな。死んだら何になる? 父は……だれよりも喜んで、母は生き生きして、兄は嘲笑う。そんな未来が見える)
 喧嘩を売って買って、夜更けに帰って、傲慢に振る舞ったこと、何ひとつ後悔していない。私はこういう生き方しか知らない。兄の真似をしても、父の言うことを聞こうとしても、途中で挫ける。何も考えずに、だれかをボコボコにする時間が楽しい。楽しい。何よりも楽しい。殴られて死ぬくらいが丁度いい。
 早く、だれか、私の身体を殺して。ひとおもいに心臓を刺して。
「……ユリシア?」
「……?」
「また怪我ですか。手当てしますよ」
 まぁ、神が私を見捨てても、楽に殺してくれるわけないか。今更、わかりきったことを。簡単に死ねるなら、とっくにしている。父に罵られる前に、喧嘩する前に突き刺して終わらせてる。
 結構時間が経って、アトラスが救急セットを持ってやってきた。箱を開けて、タオルで顔を拭く。身体の感覚がない。不気味な赤色の血が滴り、アスファルトに広まる。
「あは……はは」
「?」
「はぁ……」
 力を振り絞って。右手を伸ばして。首を。握り潰して。
「あははっ!」
 呪ってやる……! 呪ってやる! 殺してやる!
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