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第一章 夢の白髪少女
第3話 友人との対面
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4月10日、高校生活二日目で、クラスメイトとの初顔合わせの日。僕が自己紹介をするや否や、クラス中は喧騒に包まれた。
例のナンパ疑惑は、既に学校中を巡り巡っていたようで、自由時間になると何人かが僕に駆け寄ってきた。『白髪美女』という言葉が、クラスでの流行語と化した。
茶髪でヤンキー見習いみたいな恰好の男子は、見かけによらず度胸があると言い、
黒髪ショートの女子は、北風小僧にでもなったかのように、ずっとヒューヒュー言っている。誤解を解いても意味をなさないと判断し、連絡を取り合っているとだけ言い放っておいた。
僕は他人とかけ離れた価値観を持っているようで、この時期の男女は恋路に異常なまでの執着には驚きを隠せなかった。でも高校生活の幕開けは一定の成功を収めたので、僕は一旦安堵した。
あれから数日が経ち、僕にはある程度の知人ができたものの、皆友達には遠く及ばない存在だった。一定の努力をして集団に依存する意思があれば、自ずと友達に進化するのだろうが、僕にはその気が皆無だった。他人にそこまでの興味を持てなかったし、ある程度の地位が確立できた以上、努力をする気力も、生まれやしなかった。
これが僕の不変の日常であり、取り分け悲壮感に苛まれることもなかった。
そうして昼休みには、さっさと飯を平らげ図書館へ行き、夢に関する文献を読み漁るというルーティーンができた。
一週間で得た収穫として、僕らは夢を微弱な電気信号により認識していること、正夢は脳が過去に記憶したデータから未来を推察することで生じることが分かった。逆に言うと、それだけしか分からなかった。
彼女とは連絡を続けていた。その間、直接会う機会や夢を観ることがなく、代替として僕は、彼女が打ち込んだ文字列に熱狂していた。
4月18日、いつもの工程で昼休みを満喫していると、図書館に見慣れた風貌の女子がやってきた。男子共が可愛い子ランキングという不粋な格付けを行う中で、毎度ダントツの一位に君臨している女子だ。
黒髪ロングで容姿端麗ときたら、たしかに高校生の男子は、この子に無我夢中になるのだろう。友達と談笑する時間を図書室の利用にあてがうとは、この子は随分な読書人だと思った。しかし、それはものの数秒で覆されるのだった。
入室すると辺りを見回し、僕を見つけると隣席に着席してきた。空席だらけの図書室で、男女二人が固まって座る様子は不自然極まりなかった。
僕が話しかけようとすると、その子から語りだした。
「ねねっ、優斗君、いま暇してる?」
「暇にすることは可能だけど。」
「ありがと!」
「......僕に用なんてあるのか?」
「うーん。無きにしも非ずってやつだね!」
この笑顔は、闇市なら云千万で取引される価値を含有している。素肌に接触でもされたら、世の男子は皆イチコロだろう。
僕はこの子に、純粋な疑問をぶつける。
「ここで話すことないんじゃないの?」
「教室だと猿と化した男子の視線があるし、スマホはなんか気まずい。」
「世間一般に言わせれば、スマホより対面のほうが何倍も気まずいと思うけど。」
「世間一般......、急に現実主義だね。幻想を抱いてナンパに走った男とは思えないよ。」
「え、僕って端から見たらそんな人間だと認識されているの?」
「逆に違うの?」
「むしろ彼女のほうから声をかけてきたというか......。」
その瞬間、その子の顔面は石化したように硬直し、微妙に時間が経過して正気に戻り、再び口を開く。
「......私、嘘って大の苦手なんだよね。」
「とどのつまりは、僕が大嘘つきだと?」
「違うの?」
「違うよ。」
これでは昼休みが丸々消え失せそうだったので、僕はその子に用件を聞く。
「それで僕に何が聞きたいんだ? えっと......。」
僕は黙り込んだ。この子の苗字すら知らなかったのだ。入学式から二週間なので無理はないが、その子は目を細めて、僕に呆れと蔑みの態度を見せる。どうやら、知名度には自信があったようだ。
少しして、この子は話を再開させる。
「それでよく今日まで、生命維持活動ができたね。」
「......ご、ごめん。本当に名前、なんだっけ?」
「紀野万由だよ。き・の・ま・ゆ。万由でいいよ。」
「それで紀野さんは何用?」
「紀野さんって......。まぁそれでもいいけどね。実は私、趣味で小説を書いているの! 夢が舞台のラノベで、そこで恋に落ちた二人が現実で再会して結婚するの!」
他人事ではない展開に内心驚愕するも、顔の上では正常を装っておいた。
小説の執筆という趣味に意外性を感じた僕は、紀野にこう言う。
「それはすごいな。よくもまぁ、妄想という妄想を膨らませられるよ。」
「......それ、褒めてる?」
「貶してはいないつもり。」
「実はこの物語ね、夢を観たときに生じたシチュなんだよね。......でも私、恋愛経験が全くないから、熟考しても恋愛描写が書けないの。だから二人の恋がうまくいってそうなら、恋のやりとりを教えて欲しいの!」
「恋愛経験がないだなんて......、嘘つきは泥棒の始まりだよ。」
「......みんな顔で私を選ぶから、私の内面なんて、知ったこっちゃないの。性格の不一致で別れを告げられたら、私、確実に立ち直れないよ......。だから私は当分、誰とも交際しないスタンスなの!」
反応に困った僕は、それっぽく相槌を打っておいた。どうやら、美人の人生とやらも、一筋縄ではいかないようだ。
そういえば、彼女も無形文化遺産に登録される程度には美形だった。僕は彼女に彼氏がいる世界線を、全く想定していなかった。惚れてみようと思うの一言だって、年下の僕を誑かしていたのかもしれない。
僕は一月限りの、一方的なアバンチュールになることを危惧し、体中から大量の冷や汗を放出した。
ふと、僕はこんな質問を思いついたので、紀野に問うことにした。
「紀野さんはこの世界で、夢で出会った二人が現実で再会することって、実際にあると思うか?」
「......ふぇ?」
僕の急な方針転換に、紀野は呆気にとられていた。そしてこう返答する。
「急にロマンチストな発想が展開されて驚いたよ......。そうだねぇ。理論的には可能だと思うけど。」
「そ、そうなのか?」
「......でも、そんな事例は、この世界の隅から隅まで探求しても、一件として見つからないと思うよ。」
「......それもそうだな。与太話に付き合ってくれてありがとう。」
僕は図書室で反響する程度の、大きなため息をついてしまった。
すると紀野は、笑いを堪えながら、辛うじて僕に言葉を発する。
「......なんか、こんなことに、一喜一憂するなんて、優斗君って面白いね。なんか初めて会った時と、全然印象が違うね。」
「いやまともに話すのは、これが初めてだろ。」
「......そうだね!」
小馬鹿にされている雰囲気は否定しないが、嫌気がさすことは断じてなかった。誰かを笑顔にできたことで、少しばかり、僕は己の存在価値を高められたからだ。僕はこの空気感を、少し気に入ったのだった。
すると、なんだか外から群衆の視線を感じるのだ。チラッと入口の傍を見ると、僕らの対話を恨めしそうに......、いや、羨ましそうに観覧する男子共の姿があった。この行為は、最早ストーカーと紙一重だ。
それを見た紀野は、立ち上がって入口に向かい、こう言い放つ。
「......ハッキリ言って、人のプライベートを覗き見るの、キモイよ? そんなあなたたちは、きっと誰にもモテないまま、一生涯を終えることになるよ。」
男子共は大敗を喫した。僕は今日、紀野を死んでも敵に回さない覚悟を決めた。
こうして少し変わった学校生活が、幕を開けたのだった。
例のナンパ疑惑は、既に学校中を巡り巡っていたようで、自由時間になると何人かが僕に駆け寄ってきた。『白髪美女』という言葉が、クラスでの流行語と化した。
茶髪でヤンキー見習いみたいな恰好の男子は、見かけによらず度胸があると言い、
黒髪ショートの女子は、北風小僧にでもなったかのように、ずっとヒューヒュー言っている。誤解を解いても意味をなさないと判断し、連絡を取り合っているとだけ言い放っておいた。
僕は他人とかけ離れた価値観を持っているようで、この時期の男女は恋路に異常なまでの執着には驚きを隠せなかった。でも高校生活の幕開けは一定の成功を収めたので、僕は一旦安堵した。
あれから数日が経ち、僕にはある程度の知人ができたものの、皆友達には遠く及ばない存在だった。一定の努力をして集団に依存する意思があれば、自ずと友達に進化するのだろうが、僕にはその気が皆無だった。他人にそこまでの興味を持てなかったし、ある程度の地位が確立できた以上、努力をする気力も、生まれやしなかった。
これが僕の不変の日常であり、取り分け悲壮感に苛まれることもなかった。
そうして昼休みには、さっさと飯を平らげ図書館へ行き、夢に関する文献を読み漁るというルーティーンができた。
一週間で得た収穫として、僕らは夢を微弱な電気信号により認識していること、正夢は脳が過去に記憶したデータから未来を推察することで生じることが分かった。逆に言うと、それだけしか分からなかった。
彼女とは連絡を続けていた。その間、直接会う機会や夢を観ることがなく、代替として僕は、彼女が打ち込んだ文字列に熱狂していた。
4月18日、いつもの工程で昼休みを満喫していると、図書館に見慣れた風貌の女子がやってきた。男子共が可愛い子ランキングという不粋な格付けを行う中で、毎度ダントツの一位に君臨している女子だ。
黒髪ロングで容姿端麗ときたら、たしかに高校生の男子は、この子に無我夢中になるのだろう。友達と談笑する時間を図書室の利用にあてがうとは、この子は随分な読書人だと思った。しかし、それはものの数秒で覆されるのだった。
入室すると辺りを見回し、僕を見つけると隣席に着席してきた。空席だらけの図書室で、男女二人が固まって座る様子は不自然極まりなかった。
僕が話しかけようとすると、その子から語りだした。
「ねねっ、優斗君、いま暇してる?」
「暇にすることは可能だけど。」
「ありがと!」
「......僕に用なんてあるのか?」
「うーん。無きにしも非ずってやつだね!」
この笑顔は、闇市なら云千万で取引される価値を含有している。素肌に接触でもされたら、世の男子は皆イチコロだろう。
僕はこの子に、純粋な疑問をぶつける。
「ここで話すことないんじゃないの?」
「教室だと猿と化した男子の視線があるし、スマホはなんか気まずい。」
「世間一般に言わせれば、スマホより対面のほうが何倍も気まずいと思うけど。」
「世間一般......、急に現実主義だね。幻想を抱いてナンパに走った男とは思えないよ。」
「え、僕って端から見たらそんな人間だと認識されているの?」
「逆に違うの?」
「むしろ彼女のほうから声をかけてきたというか......。」
その瞬間、その子の顔面は石化したように硬直し、微妙に時間が経過して正気に戻り、再び口を開く。
「......私、嘘って大の苦手なんだよね。」
「とどのつまりは、僕が大嘘つきだと?」
「違うの?」
「違うよ。」
これでは昼休みが丸々消え失せそうだったので、僕はその子に用件を聞く。
「それで僕に何が聞きたいんだ? えっと......。」
僕は黙り込んだ。この子の苗字すら知らなかったのだ。入学式から二週間なので無理はないが、その子は目を細めて、僕に呆れと蔑みの態度を見せる。どうやら、知名度には自信があったようだ。
少しして、この子は話を再開させる。
「それでよく今日まで、生命維持活動ができたね。」
「......ご、ごめん。本当に名前、なんだっけ?」
「紀野万由だよ。き・の・ま・ゆ。万由でいいよ。」
「それで紀野さんは何用?」
「紀野さんって......。まぁそれでもいいけどね。実は私、趣味で小説を書いているの! 夢が舞台のラノベで、そこで恋に落ちた二人が現実で再会して結婚するの!」
他人事ではない展開に内心驚愕するも、顔の上では正常を装っておいた。
小説の執筆という趣味に意外性を感じた僕は、紀野にこう言う。
「それはすごいな。よくもまぁ、妄想という妄想を膨らませられるよ。」
「......それ、褒めてる?」
「貶してはいないつもり。」
「実はこの物語ね、夢を観たときに生じたシチュなんだよね。......でも私、恋愛経験が全くないから、熟考しても恋愛描写が書けないの。だから二人の恋がうまくいってそうなら、恋のやりとりを教えて欲しいの!」
「恋愛経験がないだなんて......、嘘つきは泥棒の始まりだよ。」
「......みんな顔で私を選ぶから、私の内面なんて、知ったこっちゃないの。性格の不一致で別れを告げられたら、私、確実に立ち直れないよ......。だから私は当分、誰とも交際しないスタンスなの!」
反応に困った僕は、それっぽく相槌を打っておいた。どうやら、美人の人生とやらも、一筋縄ではいかないようだ。
そういえば、彼女も無形文化遺産に登録される程度には美形だった。僕は彼女に彼氏がいる世界線を、全く想定していなかった。惚れてみようと思うの一言だって、年下の僕を誑かしていたのかもしれない。
僕は一月限りの、一方的なアバンチュールになることを危惧し、体中から大量の冷や汗を放出した。
ふと、僕はこんな質問を思いついたので、紀野に問うことにした。
「紀野さんはこの世界で、夢で出会った二人が現実で再会することって、実際にあると思うか?」
「......ふぇ?」
僕の急な方針転換に、紀野は呆気にとられていた。そしてこう返答する。
「急にロマンチストな発想が展開されて驚いたよ......。そうだねぇ。理論的には可能だと思うけど。」
「そ、そうなのか?」
「......でも、そんな事例は、この世界の隅から隅まで探求しても、一件として見つからないと思うよ。」
「......それもそうだな。与太話に付き合ってくれてありがとう。」
僕は図書室で反響する程度の、大きなため息をついてしまった。
すると紀野は、笑いを堪えながら、辛うじて僕に言葉を発する。
「......なんか、こんなことに、一喜一憂するなんて、優斗君って面白いね。なんか初めて会った時と、全然印象が違うね。」
「いやまともに話すのは、これが初めてだろ。」
「......そうだね!」
小馬鹿にされている雰囲気は否定しないが、嫌気がさすことは断じてなかった。誰かを笑顔にできたことで、少しばかり、僕は己の存在価値を高められたからだ。僕はこの空気感を、少し気に入ったのだった。
すると、なんだか外から群衆の視線を感じるのだ。チラッと入口の傍を見ると、僕らの対話を恨めしそうに......、いや、羨ましそうに観覧する男子共の姿があった。この行為は、最早ストーカーと紙一重だ。
それを見た紀野は、立ち上がって入口に向かい、こう言い放つ。
「......ハッキリ言って、人のプライベートを覗き見るの、キモイよ? そんなあなたたちは、きっと誰にもモテないまま、一生涯を終えることになるよ。」
男子共は大敗を喫した。僕は今日、紀野を死んでも敵に回さない覚悟を決めた。
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