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第一章 夢の白髪少女
第4話 ほとんど逢瀬
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4月21日夕刻、僕のスマホに『唯花』から、一通の文が送られた。
「明後日、暇なら私に付き合ってほしい。」
これは一見するとデートのお誘いであり、二度見しても、やはり逢瀬の機会としか受け取れなかった。僕は喜んで付き合うと返事をして、気分は最高潮のままに、4月23日を向かえることになった。
4月23日、どういうわけか、僕は彼女に来いと言われ、秋葉原に向かっていた。余裕のある男を演じるべく、十二時の十五分前には南口に到着していたが、そこにはなぜか、既に白髪の映える女性が立っていた。公衆の面前において、圧倒的な存在感を醸し出していた。
今日の彼女はワンピース姿ではなく、白いシャツに水色のスカートを身に纏っており、全体的に薄めな色合いが、白髪とうまく共存していた。先に彼女がこう言う。
「もう、遅いわよ。」
「いや、早すぎますって......。」
「女の子を待たせるとか、優斗サイテー。」
「すみません。以後気をつけるので......。」
「......なーんてね。今日もよろしくね。」
彼女のからかいが、日を重ねる毎に巧妙になってきている。僕も策を講じようと思った。
彼女の横に並列するだけで、太陽の光を得た月のように、僕すら輝いてみえる。今日の彼女はいつも下ろしている髪を一つに結わいて、ほんのり化粧品の香りを漂わせていた。
不明な行先への道中、彼女は僕に質問する。
「優斗はあれから、例のヘンテコな夢は観た?」
「観てないですよ。だから、現実で唯花と出会う感動も一入です。」
「そう、ならいいんだけど。......それにしても、あんなに抵抗があった唯花呼びに、よく慣れたわね。」
「一応中三の頃から、唯花と同居紛いな生活を送っているもんで。」
「それが相当な爆弾発言だということは?」
「もちろん理解しています。」
「それなら安心したわ。私も最近は、夢の一つすら観てないのよ。」
「......そうですか。」
最後の夢から丸半月が経過していた。夢を観なくなることは、つまり、僕と彼女の関係が断たれることを暗示する。僕は頭が真っ白になりながら、一歩一歩と歩みを進めていると、それよりも重要な問題を思い出した。
僕は彼女に、必死になってこう問う。
「ゆ、唯花って彼氏いるんですか......?」
「......なに。私が彼氏持ちなのに、年下の男の子とデートをするような、ゲスい女とでも思っているの?」
「そ、そうじゃなくて......、違うならいいんです。すみません。」
彼女が明言した。これはデートだ。そして僕にはまだ、彼女と交際する余地がある。希望の兆しは、無事に復活を遂げた。
すると彼女は、時間差でこう言う。
「......私は十六年の人生で、未だに誰とも交際したことないわ。」
「その美貌で?」
「そう、この美貌で。」
「......自覚されていたんですね。」
「優斗が散々、私を肯定してきているんだから、文句一個なしよ?」
僕と同じ境遇とは想定外だった。ただし、やはり紀野のような、美人なりの苦労が祟った結果なんだろうと、僕は同情して納得した。僕のその表情を、彼女は不思議そうに覗いてくる。
そして辿り着いた先は、まさかのメイド喫茶だった。かなり特異な場所であることを、彼女はこう弁明する。
「......女一人だと敷居が高いのよ。男性がホストに貢ぐようなもんだから。」
たしかに、女性が入店する印象は限りなくゼロに近そうだが、入店すると思いの外、女性客もちらほら着席していた。そうしてメイドの方々による、いらっしゃいませご主人様が炸裂するのだった。オススメの料理は、当然オムライスだそうで、二人で同じものを注文することにした。
同じ料理を注文したことに対し、僕は彼女に、余計な一言を言ってしまう。
「これで二人して食中毒にでもなったら、理由は明白ですね。」
「......本当にどういう感性しているのよ。あとそれは店員の方にも失礼だし、女の子も幻滅しちゃうわよ。」
「......唯花も幻滅しましたか。」
「一々こんなんで幻滅するほど、私は酷な女じゃないわ。」
「すみま......、ありがとうございます。」
「夢で私に礼を言うよう促されたのかしら。」
「まぁ、唯花を幸せにすることは、誓っておきました。」
「多分フェーズを十個ぐらい、吹っ飛ばしてると思うわよ。」
僅か五分でオムライスがやってきた。メイドの方が、これまた例の決め台詞とケチャップを放つ。千二百円の代金は、サービスと味が十対〇だと己に刷り込ませて食べる。
恋人同士ならここで料理を相手の口まで運ぶ伝統技能、『あーん』をするのだろうが、別に僕らは友達以上恋人未満であり、おとぎ話の世界だと諦めて食べ進めていた。
すると、銀メッキが僕の視界に入った。
彼女はオムライスの乗ったスプーンを、僕の口元寸前まで運んでこう告げる。
「当然、断ることもできるわよ?」
僕への配慮に対する謝意と、個人的な欲との葛藤は、三秒で決着がついた。
僕は彼女の差し出した、オムライスを食べた。冷凍オムライスが、このときだけは老舗洋食店の味に早変わりした。
オムライスを味わっている僕に対して、彼女は目を細めてこう言う。
「可愛い先輩が食べさせてあげたのに、感想の一つもないのかしら?」
「一級品でした。」
「......及第点、ってところかしら。」
彼女は僕にほくそ笑み、顔にニヤケを残しながら食事に戻った。彼女はスプーンを変えなかった。これは、普通に間接キスだった。
彼女の白の結晶は照明を反射して、鮮やかな光沢を織り成す。不意に周囲を見渡すと、眼前の彼女に客の殆どが目を奪われていた。単に白髪が煌めいているのもあるが、彼女の美形も大きな要素だろう。メイドの方々には、心の中で頭を下げておいた。
繊細な女心を兼ね備え、若干自意識過剰でヒス気味な一方で、僕を理解しようとすべてを包容してくれる、年上の先輩。この存在は、夢での恩を抜きにしても、僕が恋心を抱くには十分過ぎた。僕は本格的に告白への路を模索し始めた。
店を後にした僕は、このまま解散するのが名残惜しく、正直に彼女へ頼んでみたところ、もう少しの間、デートすることになった。彼女も顔から察するに、満更でもないようだった。
そこで僕は、彼女にこう聞いてみる。
「......ジェットコースターっていけます?」
僕らは少し電車に乗り、後楽園に向かった。駅の目の前には、中規模の遊園地がある。だが、ここのジェットコースターは、他とは一味も二味も違う。商業施設スレスレに線路が設置されており、恐怖心と圧倒的な迫力に度肝を抜かれる。
いつもここへ来る度にこれを目にして、付近に通う学生は、ここで青春を謳歌するのだろうと思い、一人寂しく帰路を辿っていた。
すると彼女は、ジェットコースターよりも先に、調子に乗ってしまった。
「これって間違いなくデートね。」
「間違えてもデートですね。」
僕とは一生縁がないような最高の女性が、隣り合って着席している。先のカフェのような場違い感は無くなったが、様相は『カップル』以外の言葉では片づけられなかった。
僕は長年、自信という自信が欠如していたので、そう簡単に回復する兆しはみられず、彼女への申し訳なさが募る一方だった。
でも彼女は、僕の内心を理解したかのように、ゼロ距離で語りかける。
「......私はすごく楽しんでいるのに、優燈はそんなすげない顔をして、私をつまらなくさせたいの?」
「そ、それはありえないです、ゼッタイに!」
「絶対に?」
「ゼッタイにです......。」
彼女は失笑した。絵に描いたようにゲラゲラと笑った。僕は彼女の期待に応えられているのか分からなかった。なんだかそうであるような、そうでないような感じがした。
見かねた彼女は、こう告げた。
「大丈夫よ。私ね、今日、結構楽しませてもらっているから。憂いに沈むことはないわよ。......頂上まで行ったら、一緒に叫ばない?」
現実の彼女が口にする励ましの言葉には、夢の彼女とはまた違って、知性を感じた。どちらにしても、僕への効能は抜群だった。
ある人が言うには、ジェットコースターに乗ると、人の心理が分かるのだという。よって僕も、彼女の様子の移ろいを観察させて頂くことにした。
彼女はジェットコースターが発車しても、笑顔を保持したままでいて、一方で子供のような無邪気さを醸し出した。
頂上に着いた頃には、口と眼を大きくかっ開いていて、恐怖よりも興奮に身体を預けているようだった。
車体が急降下し始めると、彼女は他人と同様に騒いだ。即座に横を振り向いた僕の目には、日が傾いて電灯に灯った白と、それに反応する白髪、そして引けを取らない満面の笑顔が入ってきた。本当に眩しかった。眼球に施されたこの焼印は、一生付き纏うモノだと覚悟した。
すると彼女は周囲の目を気にせず、こんな言葉を叫び放った。
「デートって楽しいのね!」
僕は自分を恥じた。からかおうと粗探しをしていた僕は、やっぱり粗を探される側がお似合いだった。そこから到着までの間は、一瞬で時間が過ぎてしまい、何の情報も記憶の片鱗に残されてはいない。
地上に降り立ち、ちょっとばかし前髪を整えて、僕に振り向いた彼女は、彼女らしからぬ上目遣いで語りかけてきた。
「なんというか......、ありがとう。今日が特別な日になったわ。」
「こちらこそ、僕の蛮行に付き合ってくださりありがとうございました。」
「優斗の言葉は、一つ一つが面白いわね。......ねぇ、また特別な思い出を作って欲しいっていったらどうする?」
「......それって回りくどい告白みたいな感じですけど。」
「じゃあそういうことにしておく。」
彼女の顔は、次第に赤みを帯びてきた。彼女は自身の文言が、僕への告白であることを認めてしまったのだ。
僕は意地悪する意思は欠片も無かったので、改めて真意を告白することにした。
「僕は唯花のこと好きですよ、結構。」
「『結構』は余計ね。」
「それなら『相当』にでも訂正させて頂きます。」
「私が上目遣いをしたら、そっちは上から目線をするのね。」
「......やっぱり、上目遣いしていたんですね。」
僕がさりげない上目遣いに気づいていたことに、彼女は慌てふためき、顔は赤色灯を焚いたかのように、赤みを増す一方だった。
彼女は咄嗟に、こう返してくる。
「......優斗のこと嫌いになりそう。」
変なムードを呼び寄せてしまった僕は、遂に告白寸前の言葉を口に出してしまった。
「ならいっそのこと、僕を好きになってくださいよ。」
「......雰囲気に押し流されてもつまんないわよ。」
「せっかく、ありったけの勇気を出したのになぁ......。」
「貴重な勇気を使わせてもらって申し訳ないわね。......でも今日は、なんとなく優斗の本心が知れてよかったわ。また誘ってもいいかしら?」
「えぇ、ぜひともお供しますよ。」
そうして僕らはまた、固い握手を交わした。彼女は僕の手をぎゅっと握りしめた。彼女の手には湿気というか、熱が溜まっていた。僕の手は大して大きくないものの、今日だけは小さいなりに威張っていた。
そうして僕らは鉄道に乗り、彼女と途中駅で別れ、無事に一日が終了した。
僕は彼女の彼氏候補一番手なことに喜びを禁じ得ず、人生最高の優越感に浸ったまま、就寝のときを迎えるのだった。
......その晩のことだった。僕の青春が、一変することになったのは......。
「明後日、暇なら私に付き合ってほしい。」
これは一見するとデートのお誘いであり、二度見しても、やはり逢瀬の機会としか受け取れなかった。僕は喜んで付き合うと返事をして、気分は最高潮のままに、4月23日を向かえることになった。
4月23日、どういうわけか、僕は彼女に来いと言われ、秋葉原に向かっていた。余裕のある男を演じるべく、十二時の十五分前には南口に到着していたが、そこにはなぜか、既に白髪の映える女性が立っていた。公衆の面前において、圧倒的な存在感を醸し出していた。
今日の彼女はワンピース姿ではなく、白いシャツに水色のスカートを身に纏っており、全体的に薄めな色合いが、白髪とうまく共存していた。先に彼女がこう言う。
「もう、遅いわよ。」
「いや、早すぎますって......。」
「女の子を待たせるとか、優斗サイテー。」
「すみません。以後気をつけるので......。」
「......なーんてね。今日もよろしくね。」
彼女のからかいが、日を重ねる毎に巧妙になってきている。僕も策を講じようと思った。
彼女の横に並列するだけで、太陽の光を得た月のように、僕すら輝いてみえる。今日の彼女はいつも下ろしている髪を一つに結わいて、ほんのり化粧品の香りを漂わせていた。
不明な行先への道中、彼女は僕に質問する。
「優斗はあれから、例のヘンテコな夢は観た?」
「観てないですよ。だから、現実で唯花と出会う感動も一入です。」
「そう、ならいいんだけど。......それにしても、あんなに抵抗があった唯花呼びに、よく慣れたわね。」
「一応中三の頃から、唯花と同居紛いな生活を送っているもんで。」
「それが相当な爆弾発言だということは?」
「もちろん理解しています。」
「それなら安心したわ。私も最近は、夢の一つすら観てないのよ。」
「......そうですか。」
最後の夢から丸半月が経過していた。夢を観なくなることは、つまり、僕と彼女の関係が断たれることを暗示する。僕は頭が真っ白になりながら、一歩一歩と歩みを進めていると、それよりも重要な問題を思い出した。
僕は彼女に、必死になってこう問う。
「ゆ、唯花って彼氏いるんですか......?」
「......なに。私が彼氏持ちなのに、年下の男の子とデートをするような、ゲスい女とでも思っているの?」
「そ、そうじゃなくて......、違うならいいんです。すみません。」
彼女が明言した。これはデートだ。そして僕にはまだ、彼女と交際する余地がある。希望の兆しは、無事に復活を遂げた。
すると彼女は、時間差でこう言う。
「......私は十六年の人生で、未だに誰とも交際したことないわ。」
「その美貌で?」
「そう、この美貌で。」
「......自覚されていたんですね。」
「優斗が散々、私を肯定してきているんだから、文句一個なしよ?」
僕と同じ境遇とは想定外だった。ただし、やはり紀野のような、美人なりの苦労が祟った結果なんだろうと、僕は同情して納得した。僕のその表情を、彼女は不思議そうに覗いてくる。
そして辿り着いた先は、まさかのメイド喫茶だった。かなり特異な場所であることを、彼女はこう弁明する。
「......女一人だと敷居が高いのよ。男性がホストに貢ぐようなもんだから。」
たしかに、女性が入店する印象は限りなくゼロに近そうだが、入店すると思いの外、女性客もちらほら着席していた。そうしてメイドの方々による、いらっしゃいませご主人様が炸裂するのだった。オススメの料理は、当然オムライスだそうで、二人で同じものを注文することにした。
同じ料理を注文したことに対し、僕は彼女に、余計な一言を言ってしまう。
「これで二人して食中毒にでもなったら、理由は明白ですね。」
「......本当にどういう感性しているのよ。あとそれは店員の方にも失礼だし、女の子も幻滅しちゃうわよ。」
「......唯花も幻滅しましたか。」
「一々こんなんで幻滅するほど、私は酷な女じゃないわ。」
「すみま......、ありがとうございます。」
「夢で私に礼を言うよう促されたのかしら。」
「まぁ、唯花を幸せにすることは、誓っておきました。」
「多分フェーズを十個ぐらい、吹っ飛ばしてると思うわよ。」
僅か五分でオムライスがやってきた。メイドの方が、これまた例の決め台詞とケチャップを放つ。千二百円の代金は、サービスと味が十対〇だと己に刷り込ませて食べる。
恋人同士ならここで料理を相手の口まで運ぶ伝統技能、『あーん』をするのだろうが、別に僕らは友達以上恋人未満であり、おとぎ話の世界だと諦めて食べ進めていた。
すると、銀メッキが僕の視界に入った。
彼女はオムライスの乗ったスプーンを、僕の口元寸前まで運んでこう告げる。
「当然、断ることもできるわよ?」
僕への配慮に対する謝意と、個人的な欲との葛藤は、三秒で決着がついた。
僕は彼女の差し出した、オムライスを食べた。冷凍オムライスが、このときだけは老舗洋食店の味に早変わりした。
オムライスを味わっている僕に対して、彼女は目を細めてこう言う。
「可愛い先輩が食べさせてあげたのに、感想の一つもないのかしら?」
「一級品でした。」
「......及第点、ってところかしら。」
彼女は僕にほくそ笑み、顔にニヤケを残しながら食事に戻った。彼女はスプーンを変えなかった。これは、普通に間接キスだった。
彼女の白の結晶は照明を反射して、鮮やかな光沢を織り成す。不意に周囲を見渡すと、眼前の彼女に客の殆どが目を奪われていた。単に白髪が煌めいているのもあるが、彼女の美形も大きな要素だろう。メイドの方々には、心の中で頭を下げておいた。
繊細な女心を兼ね備え、若干自意識過剰でヒス気味な一方で、僕を理解しようとすべてを包容してくれる、年上の先輩。この存在は、夢での恩を抜きにしても、僕が恋心を抱くには十分過ぎた。僕は本格的に告白への路を模索し始めた。
店を後にした僕は、このまま解散するのが名残惜しく、正直に彼女へ頼んでみたところ、もう少しの間、デートすることになった。彼女も顔から察するに、満更でもないようだった。
そこで僕は、彼女にこう聞いてみる。
「......ジェットコースターっていけます?」
僕らは少し電車に乗り、後楽園に向かった。駅の目の前には、中規模の遊園地がある。だが、ここのジェットコースターは、他とは一味も二味も違う。商業施設スレスレに線路が設置されており、恐怖心と圧倒的な迫力に度肝を抜かれる。
いつもここへ来る度にこれを目にして、付近に通う学生は、ここで青春を謳歌するのだろうと思い、一人寂しく帰路を辿っていた。
すると彼女は、ジェットコースターよりも先に、調子に乗ってしまった。
「これって間違いなくデートね。」
「間違えてもデートですね。」
僕とは一生縁がないような最高の女性が、隣り合って着席している。先のカフェのような場違い感は無くなったが、様相は『カップル』以外の言葉では片づけられなかった。
僕は長年、自信という自信が欠如していたので、そう簡単に回復する兆しはみられず、彼女への申し訳なさが募る一方だった。
でも彼女は、僕の内心を理解したかのように、ゼロ距離で語りかける。
「......私はすごく楽しんでいるのに、優燈はそんなすげない顔をして、私をつまらなくさせたいの?」
「そ、それはありえないです、ゼッタイに!」
「絶対に?」
「ゼッタイにです......。」
彼女は失笑した。絵に描いたようにゲラゲラと笑った。僕は彼女の期待に応えられているのか分からなかった。なんだかそうであるような、そうでないような感じがした。
見かねた彼女は、こう告げた。
「大丈夫よ。私ね、今日、結構楽しませてもらっているから。憂いに沈むことはないわよ。......頂上まで行ったら、一緒に叫ばない?」
現実の彼女が口にする励ましの言葉には、夢の彼女とはまた違って、知性を感じた。どちらにしても、僕への効能は抜群だった。
ある人が言うには、ジェットコースターに乗ると、人の心理が分かるのだという。よって僕も、彼女の様子の移ろいを観察させて頂くことにした。
彼女はジェットコースターが発車しても、笑顔を保持したままでいて、一方で子供のような無邪気さを醸し出した。
頂上に着いた頃には、口と眼を大きくかっ開いていて、恐怖よりも興奮に身体を預けているようだった。
車体が急降下し始めると、彼女は他人と同様に騒いだ。即座に横を振り向いた僕の目には、日が傾いて電灯に灯った白と、それに反応する白髪、そして引けを取らない満面の笑顔が入ってきた。本当に眩しかった。眼球に施されたこの焼印は、一生付き纏うモノだと覚悟した。
すると彼女は周囲の目を気にせず、こんな言葉を叫び放った。
「デートって楽しいのね!」
僕は自分を恥じた。からかおうと粗探しをしていた僕は、やっぱり粗を探される側がお似合いだった。そこから到着までの間は、一瞬で時間が過ぎてしまい、何の情報も記憶の片鱗に残されてはいない。
地上に降り立ち、ちょっとばかし前髪を整えて、僕に振り向いた彼女は、彼女らしからぬ上目遣いで語りかけてきた。
「なんというか......、ありがとう。今日が特別な日になったわ。」
「こちらこそ、僕の蛮行に付き合ってくださりありがとうございました。」
「優斗の言葉は、一つ一つが面白いわね。......ねぇ、また特別な思い出を作って欲しいっていったらどうする?」
「......それって回りくどい告白みたいな感じですけど。」
「じゃあそういうことにしておく。」
彼女の顔は、次第に赤みを帯びてきた。彼女は自身の文言が、僕への告白であることを認めてしまったのだ。
僕は意地悪する意思は欠片も無かったので、改めて真意を告白することにした。
「僕は唯花のこと好きですよ、結構。」
「『結構』は余計ね。」
「それなら『相当』にでも訂正させて頂きます。」
「私が上目遣いをしたら、そっちは上から目線をするのね。」
「......やっぱり、上目遣いしていたんですね。」
僕がさりげない上目遣いに気づいていたことに、彼女は慌てふためき、顔は赤色灯を焚いたかのように、赤みを増す一方だった。
彼女は咄嗟に、こう返してくる。
「......優斗のこと嫌いになりそう。」
変なムードを呼び寄せてしまった僕は、遂に告白寸前の言葉を口に出してしまった。
「ならいっそのこと、僕を好きになってくださいよ。」
「......雰囲気に押し流されてもつまんないわよ。」
「せっかく、ありったけの勇気を出したのになぁ......。」
「貴重な勇気を使わせてもらって申し訳ないわね。......でも今日は、なんとなく優斗の本心が知れてよかったわ。また誘ってもいいかしら?」
「えぇ、ぜひともお供しますよ。」
そうして僕らはまた、固い握手を交わした。彼女は僕の手をぎゅっと握りしめた。彼女の手には湿気というか、熱が溜まっていた。僕の手は大して大きくないものの、今日だけは小さいなりに威張っていた。
そうして僕らは鉄道に乗り、彼女と途中駅で別れ、無事に一日が終了した。
僕は彼女の彼氏候補一番手なことに喜びを禁じ得ず、人生最高の優越感に浸ったまま、就寝のときを迎えるのだった。
......その晩のことだった。僕の青春が、一変することになったのは......。
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