風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実

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完全なるアウェーです

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「じゃあねー」


ヒラヒラと手を振りながら去っていく速水の背中を見送りながら、柏木先輩がため息をつく。


「速水さんは仕事はできるのですが……プライベートが少しだらしないというか……。まあ、まだ二年に上がって一ヶ月ですし、浮ついてしまう気持ちも分かりますが。会長も三年になるまでは激しかったですし」

「おい、千尋。あんな奴と一緒にするなよ。あいつ週六でヤってるんだぜ?俺は多くても週五だった」

「五十歩百歩じゃないですか」

「それに俺の場合、誘ってるんじゃなくて向こうから襲いに来るんだよ。わざわざ俺の部屋まで訪ねに来るような可愛げを見せられちゃ、男としては断れないだろ」


言葉だけを見ると自信満々でムカつく男だが、実際それを否定できないくらいモテるのだから、タチが悪い。
生徒会をまとめあげる学園のトップ、生徒会長の天城柊人。
日本でもトップレベルの大企業、天城グループの御曹司で、容姿端麗、頭脳明晰。
まさに非の打ち所のない天才、ではあるのだが────。


「俺は選ばれし人間だからな。何もしなくても人が寄ってくるんだ」


(は、腹立つーーーー!!!!)


天城先輩は常に自分中心主義で、自信に満ち溢れた、姉さんに言わせれば『俺様おれさま』というやつだ。
自分のことを『選ばれし人間』とか、俺だったら冗談でも恥ずかしくて言えない。けれど、先輩はこれを素で言ってる。恐ろしい……。


「伊織は俺のこと好きじゃないから、つまんねえんだよなー」

「そこはちゃんと分かってくれているようで、よかったです」


いつでも自信満々な天城先輩だが、自意識過剰かじょうというわけではなく、自分の価値を客観的に正しく理解しているので、変な勘違いは起こさない。
その点においては、『もしかして俺のことが好きなんじゃ……!』と暴走する有象うぞう無象むぞうの生徒達よりはマシだと言えるだろう。


「まあ、俺のこと好きになったらいつでも言えよ?すぐに抱いてやるからさ」

「そんな日は未来永劫えいごう訪れないので、ご安心ください」


ただ、こうやって人のことをからかって楽しむドSなので、面倒な人であるということに変わりはない。


ということで、生徒会メンバーは良くも悪くも個性的な人ばかりなのだ。
だから、基本的に生徒会とはプライベートで関わりたくなかったんだけれど。


(俺はなんでこの人達と一緒にご飯を食べているんだろう……あ、このお肉おいしい)


俺は高級そうな牛肉を噛みしめながら、軽く現実逃避をする。
ほんと、なんでこんな所にいるんだろう。いや、なんでかって黒柳が連れてきたからなんだけど。
ちら、と黒柳の方を見れば、なぜか席から立ち上がろうとしていた。
え、お前どこ行くの?


「あの、俺ちょっとおかわり行ってきていいですか?」


(え、おかわり!?まだ食べんの!?てかもう食べ終わったの!?どうりで全然喋らねえと思ったよこの食いしん坊が!俺をこんなアウェーに連れてきておいて一人黙々もくもくと飯食ってんじゃねえよ!!!)


「おー、行ってこい」

「ありがとうございます!」


(しかもどっか行くの!?俺を置いて?やめろよ、友達がいなくなって気まずくなる友達の友達同士みたいな状況にすんなよ!!
待って、行かないで、帰ってきて黒柳!!!)


俺の必死の叫びも虚しく、黒柳の背中は遠ざかっていった。


「私もそろそろ用事がありますので、この辺で失礼させていただきますね。佐倉さん、お話出来て楽しかったです。……それではまた」


俺が呆然としている間に、なぜか柏木先輩までもが立ち上がってこの場を去っていってしまった。
え、これってつまり、どういう状況?


「────伊織」


やけに低いつやのあるその声に、俺はギギ、と首を動かして目線を上げた。


「────二人っきりだな?」


天城先輩が、そんな甘いセリフを吐きながら、自他ともに認める美しい顔で微笑むものだから、嫌でも心臓が跳ねてしまう。

いや、違う。俺は男にときめいたわけじゃない。
…………違うって!!!

先輩の顔が良すぎるのが悪い!!!



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