婚約破棄されても貴方が好き

はなおくら

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 申し訳なく思うわたしに、アドリアは優しく笑ってくれた。

「わたしはあなたの意思を尊重します。貴方のしたい事のお手伝いができるなら願ってもない事です。」

 彼の優しい心に涙が出そうになった。どこまでもわたしの味方でいてくれる人、でも心の奥底で彼に対して罪悪感がある。

「ありがとうございます。」

 私がお礼を言うと、彼は少し黙って続けた。

「……。貴方が気にしなくて良いのですよ。人間は勝手な生き物です。僕もお人好しではありません。自分がこうしたいと思うからやるだけです。本当に貴方のことを友人として大事に思っているだけですから、気にしないで下さい。」

 どこまでもできた人だ。わたしにここまで相手を思いやれる心はまだないのだろう。

「アドリア、貴方が友人でわたしは幸せ者です。わたしにできることは限られていますが、困った時にはいつでも助けに参ります。」

「それは心強い、ぜひよろしくお願い致します。」

 そうして2人で笑い合い楽しい時間があっという間に過ぎていった。

 それから夜会までの日に、アドリアと今後の事を話し合うため必要あれば会いに行った。

 一方アレク様の方では、もう相手が決まっているらしく着実と進んでいるのだが、どこか不機嫌にしている。

 アドリアに会いに行く日には何も言わずにこちらをみるだけだった。

 そんなある日、彼と長く話し込んでしまったせいか、夜も暗くなる頃に屋敷に着いた。

「…戻りました…。」

 皆、仕事が終わって自分の部屋に戻っているのか裏口には誰もいない、足の泥を落としてそっと部屋に戻ろうとしたその時、廊下を歩く私の背後から誰かに引っ張られた。

 気づけば、客室の一室で、ドアを背にして目の前にはアレク様がいた。

 お酒を飲んでいるのか、かなり酔いも進んでいる。わたしの顔を凝視したまま動かない。

 彼のキラキラと潤む瞳を見つめると、胸が熱くなった。何かを耐えているような苦しげな顔で見つめてくる。

「アレク様?どうかされましたか?」

「………。」

 聞いても返事がない。少し顔が赤くなっておりわたしは口をまた開いた。

「お顔が赤いですよ?お水をお持ちしますから、少しお待ちください。」

 そう言って彼の腕をすり抜けようとした瞬間、腰を強く掴まれて気づけば唇に熱いキスが落ちてきた。

「んっ…!」

 押し付けられた彼の唇から熱を感じる。気づくと優しくわたしの頭に彼の掌が添えられる。

 それだけで体の力が抜けてしまいそうになり、彼の服を必死に掴んだ。
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