愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

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「悪い…面倒事に巻き込んで…。」

 今吉になりに気にしていたのだ。その様子にキヨはふっと笑った。

「何を言ってるんですか?家族なんですから気にしないでください。それに村長さんも私に気を遣って一緒に動いてくれるようにしてくれたではありませんか…私嬉しいですよ。」

 キヨは村長の気遣いに気づいていた。

 静かになった夜道に歩を進めると後ろからきつく抱きしめられた。

「俺は幸せ者だ。お前がいてくれるんだから…。」

 そんな彼を愛おしく思いながら家路に着いたのだった。

 数日後、いよいよ杉沢家が村長の屋敷に到着した。

 皆で客人を迎える。

「よく起こしくださいました。さぁさぁ…何もありませんが上がってください。今吉きておくれ。」

 村長が今吉を呼ぶと今吉が頭を下げながら寄っていく。

「今日から杉沢様の世話をする今吉です。」

「…よろしくお願いします。」

 今吉が頭を下げると、人の良さそうな顔をした臣誓が笑った。

「世話になるな…。そうだ、私の隣にいるのが娘の梅だ。共々厄介になる。」

 そう言って隣の娘、梅が頭を下げた。そしてソワソワした様子で口を開く。

「お世話になります。父上!妾もこの男が気に入ったぞ。」

 その言葉に場が凍りついた。もちろんキヨからすれば不安で仕方がないが心を殺して頭を下げている。

 梅は、名前の通り梅の花のように艶やかで色気のある女人だった。

 周りの空気がわからないのか、活発に瞳を輝かせて今吉を見ている。

「さぁさぁ…まずは部屋にご案内しましょう…。」

 村長がそう言って、屋敷へと案内していった。

 皆散り散りになる中、キヨは焦る気持ちに目を逸らし、洗い場へと仕事に向かった。

 ここでの生活は、杉沢家が帰るまで家には帰れないので他の侍女と寝食を共にしていた。

 今吉に会えないのは寂しいが、もう少しと自分を励ましていた。

 そんなある日、キヨが家の掃除をしていると、庭先に杉沢親子と今吉の姿があった。

 盆栽を眺めながら朝の散歩をしているのだろう。だがキヨは思わず固まってしまった。

 今吉の腕を梅がピッタリとくっつくようにして頭を今吉の肩に置いているのだ。

 2人が似合いすぎて、キヨは涙が流れた。 そしてこれ以上見ていられず、早々に走り去った。

 その夜、床に入り声を殺して泣いていると、誰かが自分の布団を叩いた。

 なんとか涙を拭いて顔を上げると、心配そうにしている侍女が言った。

「ご主人がきてるから行っておいで…。」

 キヨは侍女にお礼を言うと、今吉の元へ向かった。

 正直会いたくはなかった。



 
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