愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

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「泣いてたのか…?」

 目の前に自分の顔を見て眉を潜めている夫いる。

「いえ…。」

 思わず素っ気なくなってしまう。

「侍女からお前が泣いてると聞いた…。何かあったのか?」

 この時キヨはカッとなった。

「なんでもありません!私に構わないで‼︎」

 そう言った時はっとした。今吉の顔をみれば驚いているような傷ついたような顔をしている。

 なんて事を…。と後悔した。

「すみません…疲れてるだけです…。明日も早いので戻ります。」

 そう言って戻ろうとした時、後ろから今吉がキヨを抱きしめた。その瞬間。

「離して‼︎」

 あの姫様に触れた手で触られたと思うと嫌悪感で身体が拒否していた。

 少し離れたキヨは今吉の顔を睨みつけていた。

 今吉は自分の両腕をしばらく眺めて呆然としていたが、おもむろにキヨを抱き寄せて唇にキスをした。

「っ…離してっ!」

 キヨは身体に力を入れて自分から引き剥がそうとしたがびくともしない。

 嫌がるキヨを無視して今吉は、顔を渋らせ深くキスを落とす。

 キヨは涙を流して抵抗していたが、最後はされるがままになっていた。

 今吉が唇を話しキヨを見つめると、キヨは今度こそ両手で今吉の胸を押して言った。

「……いで……。姫様に触れた手で私に触らないでくださいっ‼︎」

 言ってしまった。自分が情けない醜態を晒している事は自覚して恥ずかしくなってしまう。
 だがどうしようもない嫉妬心が自分自身を抑えられない。

 今吉は困惑している様子だったが、またキヨに近づくとボソッと言った。

「…すまない…。お前に嫌な思いをさせてしまったな…。」

 キヨが今吉の顔をみると、今吉は哀しげに笑いながらこちらを見ている。

「いえ…私の方こそごめんなさい…。貴方だって、立場があるのに…。」

 そう返すキヨに今吉はそっと優しく抱き寄せた。

「お前には苦労をかけさせてばかりだな…。だがこれだけは覚えててくれ…。俺の心をどうにでもできるのは…キヨ…お前だけだ。」

 キヨは目を見張った。そしてうんと頷くと彼の体に手を回した。

 そんな光景を梅が目を見開いて見ていることも知らずに…。

 それからは梅が今吉にくっついている光景を見てもなんとも気にならなくなった。

 彼が愛しているのは私だけ…。

 そう思うと何も気にせず仕事に励むことができた。

 そんなある日、いきなり梅の侍女に庭の掃除を言い渡された。

 不思議に思いながら、庭に向かうとそこには梅の体を抱えて庭に座り込む今吉の後ろ姿があった。

 2人はそこから動くこともなく、梅の両腕は今吉の肩にしっかりと回っている。
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