愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

文字の大きさ
26 / 38

26

しおりを挟む
「今吉さん、一度お話をしましょう。」

 硬い表情で彼を見ると、今吉は目を逸らした。

 その瞬間これが別れどきかもしれないと思った。
 ここでズルズルと引きずって後々どうなるかわからない。それにさっきまで愛されたという思い出だけあればいい。

「離縁…してください。」

 いざ口にすると悲しい様な…苦しい様な…寂しい様な、言いようのない感情に駆られる。

 何も返してこない今吉が気になり顔を上げると、こちらを見たまま固まっていた。

 あぁ…私はこの人を傷つけたんだ。

 本当はあなたになじられて捨てて欲しかった。
 そうすればあなたが傷つく事なんて無かったのに…。

 何も言わない今吉にわかっていながらも追い討ちをかけた。

「慕う方がいるんです…。」

 嘘

「その人と添いたげたくて…。」

 本当はあなたといたい。

 口と心の声が矛盾する。

 今吉の返事を待たずに荷物を簡単にまとめて着物を正して家を勢いのまま出た。

 空が曇り雨が激しく降ってくる。でもなぜかそれが心地いい。

 まるで苦しさを洗い流してくれる気がする。

 村長の家に行こうとも考えたが、迷惑をかけっぱなしでこれ以上厄介になりたくはなかった。

 どこへ行こうか、立ち止まった時目の前には山を登る階段を見つけた。

 吸い寄せられる様に階段を一段、また一段と上がっていく。

 途中後ろからすごい足音が聞こえてきた。その足音はキヨの前に立ちはだかった。

 顔を上げると、きつめときつなが立っていた。

 二匹はこっちへ来いと言わんばかりに階段を上がっていく。

 長い長い階段を上がった時、目の前に見えたのはこじんまりとした社台だった。

 きつなときつめはぴょんぴょん跳ねながら中に入っていく。

 二匹が入ったと思ったら入れ替わる様に立派な着物をきた女人が2人前に出てきた。

「お待ちしておりました。主人がお待ちかねでこちらへ。」

 そう言って社台の中へと誘導された。

 社台の中を覗き込むと、こじんまりとした外壁とは想像もつかないくらい広い部屋が見えた。

 外からは一部屋だけだと思っていたのが、中に入ると何部屋もあり、お城並みの広さだった。

 2人の女人はキヨの着替えを手伝うと白い着物を着せてくれた。

 そして奥は案内され途中きつめときつなとも遭遇した。

「ここからは主人がお待ちです。どうぞ…。」

 2人の女人に襖を開けられて中に入ると、奥には獣神様が鎮座していた。

 キヨはサッと座ると即座に頭を下げた。

「お久しぶりでございます。」

「ゆっくりと寛ぎなさい。訳はもう分かっている。今は何も考えずに過ごすのだ。」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...