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愛していると言ってくれ(4)
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「私、ランスロット様が知っているシャーリーになりたい……」
その言葉に、彼がゴクリと唾を飲み込んだのがわかった。
「だが、シャーリーはシャーリーだ」
「ですが。私は何もわからないんです。結婚したことも、もちろんお付き合いしていたことも。ランスロット様の中にいるシャーリーは私ではない。それが悔しいんです」
「シャーリー、抱きしめてもいいか?」
彼女は答えなかった。ただ、俯くことしかできない。今の顔を、彼には見せられない。醜い顔をしているからだ。心の底で嫉妬している醜い顔だ。
「やはり、駄目か?」
シャーリーは力いっぱい、首を横に振った。
「駄目ではありません。だけど、ランスロット様が求めているのは、私ではないシャーリーですよね」
違う、とランスロットが大きな声を上げたため、彼女はふるっと身体を震わせた。
「俺が好きなのは君だ。昔のシャーリーでも今のシャーリーとかではなく、目の前にいる君なんだ」
「だけど。私にはランスロット様との思い出が何もない」
「ないなら作ればいい。君と過ごしたこの一か月だって、俺にとってはかけがいのない幸せな時間なんだ」
「それでも不安なんです。全てを思い出したら、今の私がいなくなってしまうのではないかって、過去の私に嫉妬する。だけど、今の関係よりも、それ以上の関係を望んでいる私もいる。だから、どうしたらいいかがわからないんです」
「シャーリー。もう、俺は君に許可を求めることはしない」
ランスロットはシャーリーの腕を優しく引き寄せると、彼女を抱きしめる。さらにその顎に手を添えると、柔らかく口づけた。
「んっ……」
突然のことに戸惑いつつも、リャーリーはそれを受け入れる。
すっと先に身体を引いたのはランスロットだった。彼女は、気まずそうにすぐに視線を逸らした。
「俺が好きなのは、今、目の前にいる君だ。だから、君が悲しい顔をしていると、俺はどうしたらいいかがわからなくなる。君には、いつでも笑っていて欲しいんだ」
「ランスロット様は、私の記憶が戻らなくても、それでもいいとおっしゃるんですか? それでも私のことを好きだと言ってくださるのですか?」
「ああ、好きだ。シャーリーという女性は、こんな俺にさえ優しい。いつも根気よく、俺に付き合ってくれる。俺は、シャーリーが近くにいてくれるだけで嬉しい。あとは……」
「もう、いいです。ランスロット様の気持ちは、充分に伝わりましたから」
面と向かって自分の良いところを声に出されてしまうと、恥ずかしさが込み上げてくる。シャーリーの顔は火照っていた。
「シャーリー。君は君のままでいいんだ。そして、君さえ良ければ、これからも俺の妻でいて欲しいのだが……」
「結婚した記憶はありませんが。できれば私も、ランスロット様のお側にいたいです」
「時間はたくさんあるから……」
シャーリーは、目の奥から込み上げてきそうになる涙をこらえながら「はい」と小さく呟いた。
馬車が止まると、ランスロットはシャーリーを抱きかかえて降りようとしたため、彼女は慌ててそれを制した。
「ランスロット様。私、自分で歩くことができますから」
「だが、また倒れるかもしれない」
「でしたら、手を繋いでもらってもいいですか?」
シャーリーが手を繋ぎたかった。少しでも彼の体温を感じたかったのだ。だが、抱かれるのは恥ずかしい。
「ああ」
ランスロットは嬉しそうに笑うと、彼女に手を差し出した。
門の前で止まった馬車から降り、屋敷へと向かう。ほんの数十歩であるのに、手を繋いで歩くことが、新鮮に感じた。
屋敷の扉の前で立ち止まると、ランスロットはシャーリーの顔を見つめる。シャーリーも顔を上げ、彼の顔を見つめる。
二人で微笑み合う。
たとえ記憶がなくても、隣にランスロットがいる。それだけで、シャーリーの心は、ほんわかと温かくなる。これから築き上げていく彼との生活も、このような些細な幸せを噛みしめる生活になるに違いない。
その言葉に、彼がゴクリと唾を飲み込んだのがわかった。
「だが、シャーリーはシャーリーだ」
「ですが。私は何もわからないんです。結婚したことも、もちろんお付き合いしていたことも。ランスロット様の中にいるシャーリーは私ではない。それが悔しいんです」
「シャーリー、抱きしめてもいいか?」
彼女は答えなかった。ただ、俯くことしかできない。今の顔を、彼には見せられない。醜い顔をしているからだ。心の底で嫉妬している醜い顔だ。
「やはり、駄目か?」
シャーリーは力いっぱい、首を横に振った。
「駄目ではありません。だけど、ランスロット様が求めているのは、私ではないシャーリーですよね」
違う、とランスロットが大きな声を上げたため、彼女はふるっと身体を震わせた。
「俺が好きなのは君だ。昔のシャーリーでも今のシャーリーとかではなく、目の前にいる君なんだ」
「だけど。私にはランスロット様との思い出が何もない」
「ないなら作ればいい。君と過ごしたこの一か月だって、俺にとってはかけがいのない幸せな時間なんだ」
「それでも不安なんです。全てを思い出したら、今の私がいなくなってしまうのではないかって、過去の私に嫉妬する。だけど、今の関係よりも、それ以上の関係を望んでいる私もいる。だから、どうしたらいいかがわからないんです」
「シャーリー。もう、俺は君に許可を求めることはしない」
ランスロットはシャーリーの腕を優しく引き寄せると、彼女を抱きしめる。さらにその顎に手を添えると、柔らかく口づけた。
「んっ……」
突然のことに戸惑いつつも、リャーリーはそれを受け入れる。
すっと先に身体を引いたのはランスロットだった。彼女は、気まずそうにすぐに視線を逸らした。
「俺が好きなのは、今、目の前にいる君だ。だから、君が悲しい顔をしていると、俺はどうしたらいいかがわからなくなる。君には、いつでも笑っていて欲しいんだ」
「ランスロット様は、私の記憶が戻らなくても、それでもいいとおっしゃるんですか? それでも私のことを好きだと言ってくださるのですか?」
「ああ、好きだ。シャーリーという女性は、こんな俺にさえ優しい。いつも根気よく、俺に付き合ってくれる。俺は、シャーリーが近くにいてくれるだけで嬉しい。あとは……」
「もう、いいです。ランスロット様の気持ちは、充分に伝わりましたから」
面と向かって自分の良いところを声に出されてしまうと、恥ずかしさが込み上げてくる。シャーリーの顔は火照っていた。
「シャーリー。君は君のままでいいんだ。そして、君さえ良ければ、これからも俺の妻でいて欲しいのだが……」
「結婚した記憶はありませんが。できれば私も、ランスロット様のお側にいたいです」
「時間はたくさんあるから……」
シャーリーは、目の奥から込み上げてきそうになる涙をこらえながら「はい」と小さく呟いた。
馬車が止まると、ランスロットはシャーリーを抱きかかえて降りようとしたため、彼女は慌ててそれを制した。
「ランスロット様。私、自分で歩くことができますから」
「だが、また倒れるかもしれない」
「でしたら、手を繋いでもらってもいいですか?」
シャーリーが手を繋ぎたかった。少しでも彼の体温を感じたかったのだ。だが、抱かれるのは恥ずかしい。
「ああ」
ランスロットは嬉しそうに笑うと、彼女に手を差し出した。
門の前で止まった馬車から降り、屋敷へと向かう。ほんの数十歩であるのに、手を繋いで歩くことが、新鮮に感じた。
屋敷の扉の前で立ち止まると、ランスロットはシャーリーの顔を見つめる。シャーリーも顔を上げ、彼の顔を見つめる。
二人で微笑み合う。
たとえ記憶がなくても、隣にランスロットがいる。それだけで、シャーリーの心は、ほんわかと温かくなる。これから築き上げていく彼との生活も、このような些細な幸せを噛みしめる生活になるに違いない。
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