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愛していると言ってくれ(5)

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 ランスロットが扉の取っ手に手をかけ、扉を開けようとした。

 シャーリーはその様子さえ愛おしそうに見ていた。だから、彼の向こうから近づいてくる刃物を持った男が視界に入った。

「ランスロット様」

 前にも似たようなことがあった。
 あの日は天気がよい日だった。たくさんの人に囲まれ、祝福の言葉をかけられた。青い空に輝く太陽が眩しく、目を細めたものだ。

 だが、眩しかったのは太陽だけではなかった。太陽の光を反射させた何かも眩しかった。
 そして今、夕焼けを反射させた何かが、橙色に怪しく光っている。

「ランス」

 シャーリーは、怪しい男とランスロットの間に身体を滑り込ませる。

「シャーリー」

 だが、小さな彼女の身体はランスロットの大きな体によって包み込まれた。

「うっ……。くそっ」

 ランスロットは、シャーリーを庇いながらも、大きく足を振り上げた。背の高い彼は、足も長い。さらに、騎士が履くブーツは任務や作業のために作られた頑丈なブーツである。つまり、硬い。
 ランスロットの蹴りは、襲ってきた男の側頭部に、見事命中する。

「団長、ご無事ですか」

 複数の足音が、近づいてきた。

「ああ、俺は大丈夫だ。それよりも、そいつを拘束しろ」

 ランスロットは顔をしかめた。

「ランス。血が出てる」

 シャーリーはランスロットのクラバットを外すと、それで彼の左腕をきつく縛り上げる。

「すまない、シャーリー。だが、今日は君を守ることができた」
「ありがとう、ランス……」

 シャーリーはランスロットを力強く抱きしめる。

「シャーリー……。今、俺のことをランスと呼んでくれた。記憶が、戻ったのか?」

 彼の腕の中でシャーリーはこくりと頷く。

「そうか。あのときは君を助けることができなかったが、今日はこうやって君を助けることができた」
「あなたの手は、いつも私を守ってくれる」
「シャーリー。記憶が戻ったのなら、俺を愛していると言ってくれないだろうか」
「ランス。今はそんなことを言っている場合じゃないでしょう? あなた、怪我をしている」
「そうっすよ、団長」

 第三者の声によって、シャーリーは慌ててランスロットから離れた。

「きゃ」
「おい、ブラム。シャーリーに近づきすぎた。もう少し離れろ、うっ……」
「はいはい。失礼しました。って、団長。あいつにやられちゃってるじゃないですか。そこんとこ、ばっさり切られてます。ああ、新しい上着を申請しないとじゃないですか。これは、必要経費ですね。とにかく、大人しくしといてください。じゃ、オレたちは戻りますんで。それだけ、言いたかったんです」
「わかった。後は任せた」
「はいはい。時間外手当、請求しますんで」
「時間外は25%の割増になるので、頑張ってください」

 シャーリーがブラムに向けてそう言うと、彼は「やっぱり、シャーリーだな」とニヤっと笑った。

「おい、ブラム。シャーリーをシャーリーと呼ぶなとあれほど言っただろうが、うっ……」
「団長、騒ぐと傷に触りますよ。じゃ。また明日。団長は怪我人だから、今日はゆっくりとお休みください」

 ブラムは手を振って去っていく。先ほどランスロットに刃物を振り上げた男は、騎士たちに拘束され、連れ去られていった。

「ランス。怪我の手当てを。歩ける?」
「大丈夫だ。ただのかすり傷だから」

 扉を開け、エントランスに入ると、近くのソファにランスロットを座らせた。
 二人の帰りを待っていたセバスは、すぐに他の使用人へ指示を出す。

「ランス。上着を脱いで」
「こうやって、君に手当をされるのも悪くはない」
「何、馬鹿なことを言ってるのよ。あのときだって、あなた、狙われたのよ? もう少し、自覚を持ちなさい」
「くっ」

 縛り上げた傷口を緩めると、ランスロットは顔をしかめる。

「ほら、もう。ばっさり切られちゃってるじゃないのよ」

 幸いなことに、皮膚をかすめただけで、縫うほどの怪我ではなかったようだ。
 シャーリーはセバスから救急箱を受け取ると、消毒をして傷口にガーゼをあて包帯を巻いた。
 その様子を、セバスが目を潤ませながら眺めている。

「奥様……。記憶が、お戻りになられたのですね」
「はい。ご迷惑をおかけしたようで」
「いいえ。奥様には迷惑などをかけられた記憶はござません。むしろ、旦那様には迷惑をかけられました。それはもう、毎日、嘆き悲しんでおりましたから」
「おい、セバス。余計なことは言うな」

 ううっ、と目頭を押さえているセバスに、ランスロットの言葉が届いたかどうかは定かではない。

「少し部屋で休む。食事の用意ができたら、声をかけてくれ」
「御意」
「シャーリー。部屋に行くぞ」

 ランスロットは立ち上がると、彼女の手を握りしめて二人の部屋へと向かう。
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