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3.彼女に告げた日(3)
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同じように王城で働く者たちと知り合い、縁も広がっていく。魔術師に憧れもあったが、今の生活も悪くはない。
あのときウリヤナに向けた負の感情が、やっと落ち着いてきた矢先、ウリヤナが王太子であるクロヴィスと婚約したという知らせが届いた。
聖女ウリヤナと王太子クロヴィスの若い二人の婚約。
これは国中を悦びに導く知らせであり、実際に、各地各地で祝いの催しものが開かれた。
神との対話ができる聖女、そして次期国王の婚約となれば、誰だって明るい未来を想像する。
それでもコリーンの心は暗いままだった。
――なぜウリヤナなのか。
その思いが、コリーンの心の中で日に日に高まっていく。
誰かがいれば気を紛らわせることができるのに、一人になると、その気持ちに支配される。さらに、コリーンに追い撃ちをかけるかのように、ウリヤナは定期的に王城へ顔を出すようになった。もちろん、クロヴィスの婚約者だから。ウリヤナは堂々と王城へ出入りする権利を得たのだ。
いつもは神殿で祈りを捧げ、国内の状況を確認し、実りの悪い場所へは足を運んでいた彼女だ。神殿に身柄を置いた彼女は、クロヴィスとの婚約が決まる前まで、そのような生活を送っていると聞いていた。
王城にウリヤナが出てきたときに、久しぶりに彼女と会った。以前と変わらず質素な装いである。それでも、彼女の内側からは自信とか威厳とか、そういった前向きな感情が溢れ出ていた。
――なんて私は惨めなのだろう。
ウリヤナと顔を合わせると、喉の奥がつんと痛んだ。
そんなウリヤナは、王城を訪れるたびにコリーンをお茶に誘った。
他愛もない話をして、時間を共に過ごす。
ウリヤナは以前となんら変わっていない。変わってしまったのは、そんな彼女に醜い気持ちを抱くようになったコリーン自身。
だがそんな気持ちを悟られないようにと、必死に平静を装っていた。
それからしばらくして、クロヴィスの噂も聞こえるようになった。公の場ではウリヤナを隣に連れているが、それ以外――ウリヤナがいないような場所では他の令嬢を侍らせている。
胸がズシリと重くなった。
それとなくウリヤナにその噂を伝えたが、彼女は取り乱すようなことはせず、ただ黙ってコリーンの話に耳を傾けていた。
クロヴィスはウリヤナをどう思っているのだろうか。ウリヤナはそんなクロヴィスに何を思っているのだろう。
だけどクロヴィスはウリヤナとはちがう令嬢を隣におきながらも、彼女を見つめる瞳はどこか寂しそうに見えた――。
ある日、コリーンが王城の回廊を歩いていると、一人の神官に呼び止められた。
『やや、あなた様はウリヤナ様と親しくされているコリーン様ですね』
ウリヤナのおかげだとしても、そうやって名が広まっているのは悪い気はしない。
『実はここだけの話ですが――』
その神官は、そっとコリーンに耳打ちした。
――ウリヤナ様は、聖なる力を失われてしまったのです。
コリーンは思わず息を呑んだ。いや、呼吸の仕方を忘れてしまったかのように胸が痛んだ。
さらに神官は言葉を続ける。
『聖なる力は近しい人間に移るとも言われています。一度、神殿で魔力鑑定を受けてもらえませんか?』
その一言がきっかけとなり、コリーンの周辺は一変した。
ドクンと大きく心臓が震え、全身に熱い血流がたぎった。
神殿での魔力鑑定の結果、微力ながら聖なる力があるとわかった。あの場にいた神官の言葉は、嘘ではなかった。社交辞令でもなかった。
『コリーン様の力はまだ微力です。神殿で力を高める訓練を行ったほうがいいでしょう』
コリーンに聖なる力が目覚めたという話はすぐに国王の耳にも届き、彼女はすぐさま国王に呼び出された。
国王がコリーンを見つめる眼差しは、冷たくて鋭かった。
あのときウリヤナに向けた負の感情が、やっと落ち着いてきた矢先、ウリヤナが王太子であるクロヴィスと婚約したという知らせが届いた。
聖女ウリヤナと王太子クロヴィスの若い二人の婚約。
これは国中を悦びに導く知らせであり、実際に、各地各地で祝いの催しものが開かれた。
神との対話ができる聖女、そして次期国王の婚約となれば、誰だって明るい未来を想像する。
それでもコリーンの心は暗いままだった。
――なぜウリヤナなのか。
その思いが、コリーンの心の中で日に日に高まっていく。
誰かがいれば気を紛らわせることができるのに、一人になると、その気持ちに支配される。さらに、コリーンに追い撃ちをかけるかのように、ウリヤナは定期的に王城へ顔を出すようになった。もちろん、クロヴィスの婚約者だから。ウリヤナは堂々と王城へ出入りする権利を得たのだ。
いつもは神殿で祈りを捧げ、国内の状況を確認し、実りの悪い場所へは足を運んでいた彼女だ。神殿に身柄を置いた彼女は、クロヴィスとの婚約が決まる前まで、そのような生活を送っていると聞いていた。
王城にウリヤナが出てきたときに、久しぶりに彼女と会った。以前と変わらず質素な装いである。それでも、彼女の内側からは自信とか威厳とか、そういった前向きな感情が溢れ出ていた。
――なんて私は惨めなのだろう。
ウリヤナと顔を合わせると、喉の奥がつんと痛んだ。
そんなウリヤナは、王城を訪れるたびにコリーンをお茶に誘った。
他愛もない話をして、時間を共に過ごす。
ウリヤナは以前となんら変わっていない。変わってしまったのは、そんな彼女に醜い気持ちを抱くようになったコリーン自身。
だがそんな気持ちを悟られないようにと、必死に平静を装っていた。
それからしばらくして、クロヴィスの噂も聞こえるようになった。公の場ではウリヤナを隣に連れているが、それ以外――ウリヤナがいないような場所では他の令嬢を侍らせている。
胸がズシリと重くなった。
それとなくウリヤナにその噂を伝えたが、彼女は取り乱すようなことはせず、ただ黙ってコリーンの話に耳を傾けていた。
クロヴィスはウリヤナをどう思っているのだろうか。ウリヤナはそんなクロヴィスに何を思っているのだろう。
だけどクロヴィスはウリヤナとはちがう令嬢を隣におきながらも、彼女を見つめる瞳はどこか寂しそうに見えた――。
ある日、コリーンが王城の回廊を歩いていると、一人の神官に呼び止められた。
『やや、あなた様はウリヤナ様と親しくされているコリーン様ですね』
ウリヤナのおかげだとしても、そうやって名が広まっているのは悪い気はしない。
『実はここだけの話ですが――』
その神官は、そっとコリーンに耳打ちした。
――ウリヤナ様は、聖なる力を失われてしまったのです。
コリーンは思わず息を呑んだ。いや、呼吸の仕方を忘れてしまったかのように胸が痛んだ。
さらに神官は言葉を続ける。
『聖なる力は近しい人間に移るとも言われています。一度、神殿で魔力鑑定を受けてもらえませんか?』
その一言がきっかけとなり、コリーンの周辺は一変した。
ドクンと大きく心臓が震え、全身に熱い血流がたぎった。
神殿での魔力鑑定の結果、微力ながら聖なる力があるとわかった。あの場にいた神官の言葉は、嘘ではなかった。社交辞令でもなかった。
『コリーン様の力はまだ微力です。神殿で力を高める訓練を行ったほうがいいでしょう』
コリーンに聖なる力が目覚めたという話はすぐに国王の耳にも届き、彼女はすぐさま国王に呼び出された。
国王がコリーンを見つめる眼差しは、冷たくて鋭かった。
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