【短編集】あなたの身代わりに

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
7 / 44
妹の身代わりに

1.

しおりを挟む
 最近、アヌークの姿を見ていない。彼女はこのデュラス領の領主の娘。自警団を取りまとめ、この領地と領民のことを、領主である父親よりも気にかけてくれている娘だ。
 ところが最近、そのアヌークの姿が見えない。代わりに、なぜか彼女の兄のアルセンが領地をうろついている。むしろ彼は、王立騎士団の騎士として王都にいるべき人間なのではなかったのだろうか。

「アル。アンはどうしたの?」
 デルタはずっと気になっていたことを、通りすがりのアルセンに尋ねた。

「え、な、何を言ってるの? ディー。私、アンだけど」

「何? そういう罰ゲームなの? アンのスカートまで履いちゃってさ。ま、見た目は女性に見えるけど」

 デルタが指摘したアルセンの恰好。そう、彼はアヌークの振りをして、彼女の服を着て街を歩いているのだ。
 このアルセン。騎士団の長期休暇中にこの領地に戻ってきて、落馬して大怪我をしたと嘘をつき、妹を騎士団へと向かわせたという、クズのような兄だ。アルセンとアヌークは双子のようによく似た顔つきをしており、アルセンは男性のわりには小柄で華奢な体つきだった。それでも、警備部隊第二隊の隊長を務めていることから、腕がいいのか調子がいいのかは不明。

「ま、さ。他の人は気付いてないみたいだけど、この私を騙せると思ったら大間違いだよ」
 デルタは、あはははと盛大に笑った。彼女はアヌークとアルセンの幼馴染のような存在。だから、アルセンに気付いたのだろう。

「やっぱり、ディーを誤魔化すことはできなかったか」

 アルセンはアヌークの声色を真似していたそれを、地声に戻した。

「意外と疲れんだよね、この声」

「で。なんでアルがアンの真似をしているわけ?」

 実はさ、とアルセンは語り出したのだが、実は誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。ぽつりぽつりと語り出し、最後まで言い終えた頃。

「え、じゃ。アンが代わりに騎士団の仕事をこなしてるわけ?」

「そう、なるな。だが、あと十日もすれば俺とアンは入れ替わる予定だから」

「むしろ、アンの方が隊長に向いてて、そのまま騎士を続けちゃったりして」

 デルタはまた、あははと豪快に笑ったのだが、そこで一つ大事なことを思い出した。

「あ、私、アンと約束してたんだけど。三日後だっけかな。うちの両親がラブラブ夫婦旅行に行くから、アンが私の家に泊まりにくるって。一応、両親も私だけおいていくのは心配みたいで。でも、だからって二人が楽しみにしてる旅行にね、水を差すようなことはしたくないし、って言ったら、アンが泊まりに行くよって言ってくれて。それでうちの両親も納得したんだ」

「てことは、俺に泊まれって言ってる?」
 アルセンは嫌な予感しかしなかった。ドキっと心臓が高鳴っていることにも気づく。

「アンがアルの代わりに仕事してるなら、アルもアンの代わりにやるべきことをやる必要があるよね。でも、アルだし、な」

 そこでデルタはじっと上目遣いで彼を見ると、両腕で胸元を隠すような仕草をした。

「は? 俺がお前に欲情するとでも思ってんのか? 自意識過剰もいいとこだな」

「はぁ? じゃ、何もないならアンの代わりに約束守りなさいよ」

 と、売り言葉に買い言葉。デルタの両親がラブラブ夫婦旅行に行くその日、アヌークは、ではなくアルセンは、幼馴染みのデルタの家に泊まることとなってしまった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた

ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。 普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。 ※課長の脳内は変態です。 なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。

幼馴染みのアイツとようやく○○○をした、僕と私の夏の話

こうしき
恋愛
クールなツンツン女子のあかねと真面目な眼鏡男子の亮汰は幼馴染み。 両思いにも関わらず、お互い片想いだと思い込んでいた二人が初めて互いの気持ちを知った、ある夏の日。 戸惑いながらも初めてその身を重ねた二人は夢中で何度も愛し合う。何度も、何度も、何度も── ※ムーンライトにも掲載しています

処理中です...