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ファンヌもなぜ彼を引き止めてしまったのかがよくわからない。熱でうなされた頭のせいかもしれない。
だけど、彼と離れたくない想いが、心のどこかに引っかかっている。
「エルさん……。私、変なんです……」
先ほどから胸がチクチクと痛む。
「大丈夫か? また、熱が出てきたのか?」
エルランドの問いに、ファンヌは首を横に振る。
「胸が苦しいんです……」
「え? もしかして、熱で肺がやられたのか?」
エルランドがファンヌの顔を覗き込んできた。
「ち、違うと思います……」
怪訝そうに眉根を寄せているエルランドは、じっとファンヌを見つめている。
「ずっとなんです。こちらに来てから、ずっと……。エルさんといると、心臓がドキドキして、胸が苦しくなるんです」
エルランドが、はっと息を呑んだのをファンヌも感じた。
ファンヌもなぜ今、それを口にしようとしたのか、わからない。
だけど、今なら言えそうな気がした。むしろ、今じゃないと一生口にすることはできないのではないかとも思っていた。
「ずっと病気だと思って、大先生にも相談したのですが、病気ではないって。そういうのは同じ女性に相談した方がいいと言われて、サシャに相談しました」
サシャは年齢もファンヌに近いところもあるため、ちょっとしたことの相談がしやすい相手でもある。エリッサも話しやすいのだが、エルランドの妹ということもあり、この件を相談するには躊躇うところもあった。
「サシャが言うには。多分、私が、エルさんのことを好きだからじゃないのかって」
エルランドがファンヌの手を握りしめてきた。何か言いたそうに口を開きかけるが、ファンヌの話が途中であることに気づいたのだろう。言いかけた言葉を飲み込むようにして、じっとファンヌの言葉を待っている。
「サシャに聞かれたんです。エルさんと離れる生活を想像してみて、それに耐えられるのかって。一緒にいるのが当たり前すぎて、そんなこと、考えたことが無かった……」
ファンヌの目尻からはじわっと涙が溢れてきた。
「ごめんなさい。私、自分の気持ちがよくわかりません。だけど、もう、先生と離れる生活は想像できません。今も、先生の側にいたい……。もうちょっとだけ、側にいてくださいませんか?」
つい呼び慣れた『先生』という言葉がファンヌの口から出てしまったことに、彼女は気づいていない。それだけ気持ちが高ぶっているのだ。
ぐっとエルランドがファンヌを抱き締めた。ファンヌは驚いて、腕の中から彼の顔を見上げる。
「オレからこういうことをされて、嫌か?」
「嫌、じゃありません」
「だったら、キスしてもいいか? 嫌だったら拒んでくれていい」
「えっ……」
気づいたら、唇をエルランドの唇で塞がれた。拒んでもいいと言われたが、拒みたいとは思わなかった。ただ、唇から伝わってくる冷たい刺激が、固まった心を溶かしてくれる感じがした。
もうしばらくこのままで――。ファンヌも恐る恐る、彼の背に腕を回そうとしたのだが、パッと引き離されてしまう。
「す、すまない。これ以上は、オレが我慢できそうにない」
顔中を真っ赤に染め上げたエルランドは、照れたように口元を押さえていた。
「あの……。嫌、じゃなかったです」
ファンヌも、ほんのりと頬を染めながら答えた。
「いや。いやじゃないんだが、その。ちょっと待ってくれ。ファンヌは、オレのことが好きなのか?」
細い碧眼をそれなりに開きながら、エルランドはファンヌの両肩を掴んで尋ねた。
「た、多分……。自信はありませんが。できれば、これからも一緒にいたいと思っています」
ガバリとエルランドが立ち上がった。
だけど、彼と離れたくない想いが、心のどこかに引っかかっている。
「エルさん……。私、変なんです……」
先ほどから胸がチクチクと痛む。
「大丈夫か? また、熱が出てきたのか?」
エルランドの問いに、ファンヌは首を横に振る。
「胸が苦しいんです……」
「え? もしかして、熱で肺がやられたのか?」
エルランドがファンヌの顔を覗き込んできた。
「ち、違うと思います……」
怪訝そうに眉根を寄せているエルランドは、じっとファンヌを見つめている。
「ずっとなんです。こちらに来てから、ずっと……。エルさんといると、心臓がドキドキして、胸が苦しくなるんです」
エルランドが、はっと息を呑んだのをファンヌも感じた。
ファンヌもなぜ今、それを口にしようとしたのか、わからない。
だけど、今なら言えそうな気がした。むしろ、今じゃないと一生口にすることはできないのではないかとも思っていた。
「ずっと病気だと思って、大先生にも相談したのですが、病気ではないって。そういうのは同じ女性に相談した方がいいと言われて、サシャに相談しました」
サシャは年齢もファンヌに近いところもあるため、ちょっとしたことの相談がしやすい相手でもある。エリッサも話しやすいのだが、エルランドの妹ということもあり、この件を相談するには躊躇うところもあった。
「サシャが言うには。多分、私が、エルさんのことを好きだからじゃないのかって」
エルランドがファンヌの手を握りしめてきた。何か言いたそうに口を開きかけるが、ファンヌの話が途中であることに気づいたのだろう。言いかけた言葉を飲み込むようにして、じっとファンヌの言葉を待っている。
「サシャに聞かれたんです。エルさんと離れる生活を想像してみて、それに耐えられるのかって。一緒にいるのが当たり前すぎて、そんなこと、考えたことが無かった……」
ファンヌの目尻からはじわっと涙が溢れてきた。
「ごめんなさい。私、自分の気持ちがよくわかりません。だけど、もう、先生と離れる生活は想像できません。今も、先生の側にいたい……。もうちょっとだけ、側にいてくださいませんか?」
つい呼び慣れた『先生』という言葉がファンヌの口から出てしまったことに、彼女は気づいていない。それだけ気持ちが高ぶっているのだ。
ぐっとエルランドがファンヌを抱き締めた。ファンヌは驚いて、腕の中から彼の顔を見上げる。
「オレからこういうことをされて、嫌か?」
「嫌、じゃありません」
「だったら、キスしてもいいか? 嫌だったら拒んでくれていい」
「えっ……」
気づいたら、唇をエルランドの唇で塞がれた。拒んでもいいと言われたが、拒みたいとは思わなかった。ただ、唇から伝わってくる冷たい刺激が、固まった心を溶かしてくれる感じがした。
もうしばらくこのままで――。ファンヌも恐る恐る、彼の背に腕を回そうとしたのだが、パッと引き離されてしまう。
「す、すまない。これ以上は、オレが我慢できそうにない」
顔中を真っ赤に染め上げたエルランドは、照れたように口元を押さえていた。
「あの……。嫌、じゃなかったです」
ファンヌも、ほんのりと頬を染めながら答えた。
「いや。いやじゃないんだが、その。ちょっと待ってくれ。ファンヌは、オレのことが好きなのか?」
細い碧眼をそれなりに開きながら、エルランドはファンヌの両肩を掴んで尋ねた。
「た、多分……。自信はありませんが。できれば、これからも一緒にいたいと思っています」
ガバリとエルランドが立ち上がった。
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